この世界には出口はないのか 伊藤計劃「虐殺器官」
2010年 04月 13日
近未来、モスレムの手作り核爆弾によってサラエボが消失している。
“ぼく”と語る主人公はアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉、紛争地帯に侵入して暗殺任務につく。
対象を選ぶのは誰か上の者、ぼくは命じられたことをやってのける。
子供を兵隊にしている国や武装集団が多いから子供も殺さなければならない。
ためらいがあると任務が果たせないから作戦の前にカウンセリングと脳医学的処置によって戦闘適応型感情調整を受ける。
痛いという知覚は残し痛みの感覚だけをマスキングするから痛いということは分かっても痛くない。
生きた組織からなる筋肉素材(イルカやクジラを養殖して採取する)からできている侵入鞘にくるみこまれて目標地点に降りる。
身につけているのはナノコーティングが周囲の色相をスキャンして、リアルタイムで変化する環境追従迷彩服。
特殊な訓練とハイテクによって狙った“悪者“(誰がきめるのか?!)を淡々と殺しまくる。
ただ一人いつも逃げられる標的・ジョン・ポール、彼こそ世界各地の暴動・虐殺の黒幕なのだ。
先進諸国では市民に対する徹底的な監視を行うことによって、自由と引き換えに安全を手に入れたかのように見える一方、後進国の内戦や民族紛争は激化の一途なのだ。
ジョン・ポールを追跡する”ぼく”は植物人間になった母親の延命を打ち切ったことについて悩む。
本当に母親はそうして欲しかったのか。
意識がある、というのはどういうことなのか。
世界の“悪者”を殺すのは命令を下す連中で自分は道具でしかないと思っていたのは間違いじゃないか。
良心とは進化の産物、利他心も適応に過ぎないのか。
若い主人公の成長(責任についての悩み)もこの小説の重要な軸となっている。
ジョン・ポールはどうやって行く先々でこの世の地獄を作り出せるのか。
その動機は?
すべての人間が備えている虐殺器官とは何か。
脳科学、言語学、心理学、人類学、国際政治学、生物学、、かなり広く勉強している。
しかし晦渋な文章でなくて平明。
現代の抱える問題に真正面から取り組んだ作品だと思う。
2007年に発表されて09年「SF本の雑誌」の国内・海外合わせた「本の雑誌が選ぶオールタイムベストSFベスト100」では、今世紀の作品としては最高位の16位にランクされ、「SFが読みたい!2010年版」の「ゼロ年代ベストSF」投票では国内編のベストワンになるなど、世界レベルの高い評価が寄せられている。
著者は、この作品を処女長編として発表して2年後の09年、34歳で長く患ってきた癌のために亡くなった。
惜しい!
ハヤカワ文庫
“ぼく”と語る主人公はアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉、紛争地帯に侵入して暗殺任務につく。
対象を選ぶのは誰か上の者、ぼくは命じられたことをやってのける。
子供を兵隊にしている国や武装集団が多いから子供も殺さなければならない。
ためらいがあると任務が果たせないから作戦の前にカウンセリングと脳医学的処置によって戦闘適応型感情調整を受ける。
痛いという知覚は残し痛みの感覚だけをマスキングするから痛いということは分かっても痛くない。
生きた組織からなる筋肉素材(イルカやクジラを養殖して採取する)からできている侵入鞘にくるみこまれて目標地点に降りる。
身につけているのはナノコーティングが周囲の色相をスキャンして、リアルタイムで変化する環境追従迷彩服。
特殊な訓練とハイテクによって狙った“悪者“(誰がきめるのか?!)を淡々と殺しまくる。
ただ一人いつも逃げられる標的・ジョン・ポール、彼こそ世界各地の暴動・虐殺の黒幕なのだ。
先進諸国では市民に対する徹底的な監視を行うことによって、自由と引き換えに安全を手に入れたかのように見える一方、後進国の内戦や民族紛争は激化の一途なのだ。
ジョン・ポールを追跡する”ぼく”は植物人間になった母親の延命を打ち切ったことについて悩む。
本当に母親はそうして欲しかったのか。
意識がある、というのはどういうことなのか。
世界の“悪者”を殺すのは命令を下す連中で自分は道具でしかないと思っていたのは間違いじゃないか。
良心とは進化の産物、利他心も適応に過ぎないのか。
若い主人公の成長(責任についての悩み)もこの小説の重要な軸となっている。
ジョン・ポールはどうやって行く先々でこの世の地獄を作り出せるのか。
その動機は?
すべての人間が備えている虐殺器官とは何か。
脳科学、言語学、心理学、人類学、国際政治学、生物学、、かなり広く勉強している。
しかし晦渋な文章でなくて平明。
現代の抱える問題に真正面から取り組んだ作品だと思う。
2007年に発表されて09年「SF本の雑誌」の国内・海外合わせた「本の雑誌が選ぶオールタイムベストSFベスト100」では、今世紀の作品としては最高位の16位にランクされ、「SFが読みたい!2010年版」の「ゼロ年代ベストSF」投票では国内編のベストワンになるなど、世界レベルの高い評価が寄せられている。
著者は、この作品を処女長編として発表して2年後の09年、34歳で長く患ってきた癌のために亡くなった。
惜しい!
ハヤカワ文庫
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maru33340 at 2010-04-13 12:34
ご紹介を読みながらポーランド大統領の航空機事故(?)のことを考えてしまいました。最近ジェノサイドについて考える機会も何故か増えてきました。なんとなく時代や世界から不穏なもののうごめきを感じる今日この頃であります。
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mimizu-1001 at 2010-04-13 18:07
これがコメントいただいた時に言われていた本ですか。
発売が2007年とのこと。
なのにいまだに僕住む地では地域の図書館でも県立図書館でも貸し出し中です。
そうとうな人気ということなのでしょうね。
佐平次さんの紹介される本や映画には、触手の動くものが多いです。
「仏教が好き」に「知識を体験とすることができていない」というような行がありましたが、佐平次さんは、知識を体験に変えているから説得力があるのだと思います。
これからもおもしろい本の紹介を期待します。
発売が2007年とのこと。
なのにいまだに僕住む地では地域の図書館でも県立図書館でも貸し出し中です。
そうとうな人気ということなのでしょうね。
佐平次さんの紹介される本や映画には、触手の動くものが多いです。
「仏教が好き」に「知識を体験とすることができていない」というような行がありましたが、佐平次さんは、知識を体験に変えているから説得力があるのだと思います。
これからもおもしろい本の紹介を期待します。
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saheizi-inokori at 2010-04-13 18:47
maru33340 さん、ホントに暗い先行きです。
同じ人間が大きく振れるのがこわいですね。
同じ人間が大きく振れるのがこわいですね。
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saheizi-inokori at 2010-04-13 18:49
mimizu-1001 さん、これは文庫で今年発売になりました。
本を読む速度が遅くなり理解も遅くなりました。
本を読む速度が遅くなり理解も遅くなりました。
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sweetmitsuki at 2010-04-13 22:03
そもそも、生きた組織からなる筋肉素材なんて物質が作れるほど科学が発達すれば、世界中の人々が飢えから解放され、戦争はなくなるのでは?などと考えてしまう私は、やっぱし甘いのでしょう。
科学の発達が更なる大量破壊兵器を産み、紛争は激化の一途を辿る、そっちの方が現実なのでしょうか。
現代の抱える病理に効く処方箋があれば良いのですけど。
科学の発達が更なる大量破壊兵器を産み、紛争は激化の一途を辿る、そっちの方が現実なのでしょうか。
現代の抱える病理に効く処方箋があれば良いのですけど。
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saheizi-inokori at 2010-04-13 22:23
sweetmitsuki さん、戦争は飢えから起きるとは限らないのでは?
先進国は後進国の存在を必要としているのでしょうね。
先進国は後進国の存在を必要としているのでしょうね。
by saheizi-inokori
| 2010-04-13 12:11
| 今週の1冊、又は2・3冊
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