表題もちょっと変だな 香納諒一「虚国」(小学館)
2010年 04月 04日
死にかけた海辺の町にもちあがった空港建設計画どんな小説を期待するだろうか。
疲弊する共同体
軽んじられる命
己が欲望に溺れる人間たち
公共事業は悪なのか
希望の光すら見えないこの国の断片を描く
著者渾身のミステリー巨編!
どこかの週刊誌でエライ褒めようだったので買った。
たまには日本の今の人のミステリも読んでみようかと。
買うときに上の腰巻を読んで、あれ、そんな小説だったかなと、ちょっと不審に思った。
腰巻のコピーそのものが陳腐で、しかも何を言いたいのか良く分からないのではあるが、それにしても的外れなキャッチコピーだ。
カメラマンがホテルの廃墟の写真を撮ろうとする場面から始まる。
夜明け前の、世界が群青色一色に染まる時間を、ブルー・ワールドと呼んだ外国の作家がいる。世界(ワールド)と呼ぶには余りに儚い。だが、美しい。しかも、海が見える場所では、その青さが一層増幅される。海面(うなも)が鏡の役割を果たすためだ。撮影スポットを求めてホテルの中に入ったカメラマンは女性の死体を見つける。
彼女は売り出し中のフリーライターで環境保護活動・空港建設反対に参加していた。
と、書いてみるとなるほど腰巻文学もそう見当違いじゃないようにもみえるか。
これ以上書くとネタばれになるからやめとくけど「公共事業は悪か」などと大文字で書くようなミステリではなかったことくらいはいっときましょう。
ブルー・ワールドを愛するカメラマン、彼は両親の愛を知らずに育ち、カメラマンとしてやらせ写真の冤罪を被って干されたときに探偵業をやったことがある、彼が町で知り合った人たちと事件(一つだけではない)を追いかける。
最近読んだ中では古典的と言ってもいいような私立探偵物。
ハード・ボイルドというより、むしろ抒情的な作品だと思う。
最近は海外のスパイ物とかアクション物、復讐談など刺激の強いエンタテインメントを読んでいたから最初のうちはまどろこしいようなやや退屈な感じもしてやめちゃおうかと思っている内にだんだん引き込まれて最後まで読んだ。
読み終わってみればそれなりのミステリだった。