談志の毒だらけ解説も面白い 三遊亭円之助「はなしか稼業」

昭和4年生まれ、31年小円朝に入門。
NHK「人形佐七捕物帳」「文五捕物絵図」「いちばん星」などにも出演。
昭和60年、心筋梗塞で「サヨウナラ」の一言を遺して他界。
本書は脳溢血で倒れたときにリハビリを兼ねて書いた原稿を死後出版したもの。
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往時の噺家のお抱えの人力車で寄席回りする売れっ子から電車賃に事欠く二つ目までの生活、人形町末広亭の様子(俺もかろうじて見おぼえがある)、若手噺家の稽古風景(いろんな師匠のところに押しかけて口移しで覚える)、地方巡業のこぼれ話、いろんな芸人のエピソード、など、軽妙な筆さばきで楽しく読ませる(1992年初刊)。

その平凡社ライブラリー版に談志が解説を書いている。
それが普通の解説とはちょっとばかり違って円之助の生き方やこの本に文句をつけているのだ。
円之助のことは、余り知らない。
が書き出しだ。
円之助が20代の後半から噺家になったことを捉えて
何故ストレートに芸能界に入ってこなかったのか、、(略)つまり一番肝心な事、語るべきことである彼の状況、彼の葛藤、彼の心境、それらがまったく書いてない。
”芸人ならその芸の形式と内容”が一番問題になるのだが、それも書いてない。普通(なみ)の世間、正常という名の世界からハジキ出された過去があるはず。で、そこから落語界に入るのだが、それは“落語が好きだ”というのとも違って、
ズバリいやぁなまけ者の世界が好きだったのだろう。
それは落語の本質と似る、合致するが、そこが芸能の困ったところで、それを己が落語という形式の中で発表しなければならない、というジレンマである。、、(略)己のスタイルをどこかに附属させようと安定を図るか、己に同調者を募るか、、の二つであり、、
厳しいね、こう書いて談志は円之助がTBSの「しろうと寄席」で世に出たことを紹介する。
そしてその番組は、プロのあたしにとってさほど魅力のあるものではなかったと断ずる。
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(落語では相手にもされなかったがテレビでソコソコ知られた己が嬉しいのと、その状況が判っているということの狭間でシャイになっている、と談志が評した円之助の写真)

それから円之助の師匠、小円朝について晩年は“下手だった”と書く。
円之助が貧乏を売り物にし、兄弟子に競馬を教え破滅させ(そのことも本書に書いていない)、
並みの前座から並みの二つ目、並みの真打。暗く、破綻のない芸で、嫌味もなかったが、魅力もなかった、話題にもならなかった。
と決めつける。
それにしても、書くべきであった、自分の人生。「人生とは恥ずかしいことなんだ」。恥ずかしいことを書かなくて、人生を書けるわけがない。
「利口ぶった利口」という、もっとも恥ずべき状態に己を晒していることを自認する家元(ダンシ)は本書を
「落語家の落語についての本」ではない。これは正常人三遊亭円之助のスケッチである。
と評して結語としている。

本書も解説も同じくらい面白かった。
円之助が生きていても書いただろうな。
長男がやはりサラリーマンから23歳で小三治の弟子となり破門された後、円橘に入門して4代目円之助となって、さらに4代目小円朝となっている。
彼は本書を、そしてこの解説をどう読んだだろう。

もし先に談志の解説を読んでいたらこの本を買っただろうか。
買ったね、古本屋だし。
それで買って良かった!マジに、滋味に富んだ文章が懐かしい時代を遺してくれた。
Commented by junko at 2010-02-24 16:50 x
Ciao saheiziさん
談志師匠に解説を頼んだ人もすごいよね
だって頼まなければ書かないだろうし、その頼んだ人が師匠の書いたこの辛辣な文章を認めなければ、こうやってこの本と一緒に世に出ることなく、
代わりに他の人の解説がのっかっていたのではないかと思うんだけど。
だからその辺にこの本の企画をした人の、ひとひねりが利いてる気がして、そこがむしろ興味深い。
確かに、談志師匠の言うことももっともだけど、
本ってその作者の書きたいことを書けばよいのではないかと思うのよね。
彼の本なんだからさ
師匠が書かなくてはいけないと思ってるところを書かなかったところに、確かに円之助さん自身が出ているのではないかと思うんですけどね。
私はもちろん談志師匠の意見に賛成だけどね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-02-24 17:33
junko さん、談志は円之助と同じころに落語協会にいたり小円朝のところで稽古してもらったりしています。
それで編集者が解説を頼んだのかもしれない。
そうして出来上がった原稿を見てびっくり仰天!売上の足を引っ張るような内容。
でも談志が書きなおす訳はないし没にしようものならどうされるかわからない。
それでそのまま使ったのですが、この本の帯に談志の文章の中から「生きてるんだ大きなお世話だ 落語家なら語るべきだ 己の人生と落語の関わりを」を(立川談志解説より)として使ったのだそうです。
ペテンですよね、書いてないことをあたかも書いてあるかのように。
でもこの編集者もやるもんですねえ。
この記事を書いた後で大友宏のブログhttp://www.honza.jp/author/5/otomo_hiroshi?entry_id=397に書いてあるのを読みました。
Commented by HOOP at 2010-02-24 22:09
談志師匠の話しっぷりを毒と感じたことがないのですが、
そんなことを言うのは生意気なんでしょうね。
師匠が聞いたら、いや、聞いても知らん振りでしょう。

愛が深過ぎるんですよ、馬鹿師匠の野郎め!
Commented by saheizi-inokori at 2010-02-25 00:24
HOOP さん、そうなんでしょうね。
自分でも馬鹿師匠だと判って言ってる。
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by saheizi-inokori | 2010-02-24 14:49 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori