出世しない「八五郎出世」 立川流落語会の志の輔
2009年 06月 02日
長屋の孝行娘・お鶴を籠の中から見染めた赤井御門守、苦しゅうないあの娘を、といったかどうか屋敷に召して挙句にご懐妊。
正室に子どもがいないから、つまりお世取り、お鶴は途端にお鶴の方様となって御寵愛は増す一方。
そちには兄がいたはず、苦しゅうない、会ってつかわすと言ったかどうか、お兄上さまこと八五郎がお屋敷に行っての珍談奇談だ。
赤い御門を許されるのは将軍家の娘を嫁にもらった大名だけだ。
すなわち将軍の娘を正室にして出世した殿さまと妹が身分の違う殿さまの側室になって出世しようかという兄とよしみを通じる。
そこにこの噺の隠された主題があるというのは「大落語」、「志ん生的、文楽的」の平岡正明が「シュルレアリスム落語宣言」に書いている。
この噺の聴きどころは二つある。
ひとつは市井の職人が大名屋敷に“手土産のひとつも持たずに””おもくもく(お目録=金)”をもらえるという言葉に乗って、本当は“大名とつき合いたくなんかねえ”のに単身乗り込んで頓珍漢な言動をするところ。
式台で草履を脱いであがるのに、置いとくと取られやしないかと心配したり、大家からなんでも最初に「お」をつけておしまいに「奉る」と言えと知恵をつけられ
おわたしことはお八五郎さまに奉りこのたびはお妹のお鶴がお世取りとかいう鳥を産み奉り、自分でも訳のわからないことを言ったり、殿さまがご馳走するってんで豪勢な料理が並べられると
すげ~な、これをいったい誰が食うんで?えっ、あっし?殿さまあ~、お互い苦しいんだから無理しないでくださいよ、あっしは塩を舐めたって一升やそこらは軽く呑めるんだから、、控えておれ!三太夫(そばで無礼をたしなめるご重役に殿が無礼講だといって言うセリフを借用)、、くくく~く、う~うめえ、、いい酒飲んでるんだなあやがて酔っぱらうと都々逸でもやろうかと渋い喉を披露する。
殿が都々逸に「おおさようか」なんてソッポでも気のよい愛想をいう。
平岡の指摘はいいなあ、二人は仲良しなんだ。
この噺のもう一つの聴きどころは八五郎がお鶴の方に母親の言伝をつたえるところ。
早く水天宮にお礼参りにいくんだよ。
乳が張ったら遠慮なく吸って貰え。
おしめは足りているか。
そして、
初孫だって長屋の連中と一緒に踊って喜んだって孫の顔も見られない。
と泣いていた、と。
このあたりはやりようでは泣かせどころで、俺も前に遊三のときに目から水が垂れて往生したことがある。
そこで、二つの聴きどころをどう塩梅するかが噺家の了見に関わってくる。
志ん生は最初の方、ガリバーならぬ八五郎が大名の生活という別世界で繰り広げる、ある意味痛快な言動が大笑いをさせる。
滑稽噺、何べん聴いても愉快だ。
先日の立川流落語研究会の志の輔は後者だ。
人情噺、近くで鼻をすする音が聞こえた。
その代り八五郎と大家のやりとり、大名屋敷の門番や三太夫との掛け合い、クライマックスは殿さまに都々逸を聴かせた挙句に「殿公!」と呼びかけるなどのギャグをほとんどカットしてしまった。
今の感覚からすると通りがかりに見染めた女を有無を言わさず妾にしてしまうってのはあんまりじゃないかという感じもある。
ホーケン的で人権無視だって。
噺としては八五郎は殿さまに気に入られて士分に取り立てられる(だから「八五郎出世」)のだから殿さまも悪くは描かれないが、その文脈からすると若干悪役になる。
俺の好みは志ん生だ。
長屋の気立てのよい娘が玉の輿に乗って殿さまに愛されて、そのおかげでグータラ兄貴まで偉くなる。
もっとも偉くなってもお屋敷では失敗だらけってのがもともとのこの噺だが。
身分社会だってことを今の感覚でどうこう言ってもしょうがない。
むしろそういう江戸に結構洒脱な殿公もいてシダラがないけれど愛すべき職人と酒飲んで笑いあったてのが楽しかないかい。
志の輔は筋書きまで変えてしまった。
殿さまが八五郎に母と一緒に屋敷に来て住むようにというのを徹底的に断る。
断っても殿は言うことをきかない。
そのときにお鶴の方が口添えをして殿は八五郎を許す。八五郎が、
ずるいや、殿さま、あっしがこれだけ頼んでも聞き入れてくれなかったのに、妹が言うと一発で言うことをきくんだからと拗ねると、殿が
許せ、鶴の一声じゃずるいや、志の輔、この噺の後半(屋敷に上がってからの失敗談)をなくしちゃうんだから。
まあ、実際はほとんど演じられない後半ではありますがね。
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