酒は呑め呑め呑むならば 権太楼、見事な呑みっぷり 落語「試し酒」（鈴本演芸場）

大店の主人、客の近江屋が連れて来た下男・久造が大酒のみで５升くらいはやれると聞いて、それは信じられないという。
いや、やれる！
じゃ、やってみせてください。
出来たら主人は久造にお小遣いをあげる。
そんなら近江屋は久造が呑めなかったら主を２・３日どこかにご招待すると約束する。
それを聞いた久造、

弱ったな、おらが呑めなければ旦那が面目潰して散財しなきゃならねえ。ちょっくら待ってもらいてぇ。おら、少しべえ考えてみるだよ

と外に出て暫く帰らない。
さては逃げたかと思った頃、戻ってきて、では、ちょうだいすますべ。

（自由が丘・マリクレール祭り）

一升入りの「べく盃」、手紙などで「可有候」（あるべくそうろう）のように可（べく）の字が候の上に書いてあるところから底がとんがっていたり穴があいていたりして下に置くべからざる盃、「武蔵野」の名のある盃（広くて「野、見尽くせず」すなわち「呑み尽せない」）になみなみと。


１杯目は口も離さずまさに一気飲み。

ふ～っ、うまい。こんなうまい酒があったのか

あまりの早さに主人はゆっくり呑んでもいいというが、２杯目もあっというまだ。

ゆっくり味あおうと思ったけど呑まなくても酒の方から入ってきちゃうなあ

３杯目辺りは少々ゆっくりになるが呑みっぷりは余裕クシャクシャ

何が好きかといやぁ金が好き、金を貯めて酒を飲む、丹波の酒呑童子、ありゃ親戚、いや、ウソだよウソ

軽口なんぞも飛び出して

どうです、歌でも歌いやすか、これで不器用な人でね

って近江屋主人のことか

酒を飲む人花ならつぼみ今日もサケサケ明日もサケ

相撲に負けても下駄さえ履けばカッタカッタの音がする

ってね、いやはや落語はダジャレの殿堂ですなあ。
４杯目辺りが若干時間がかかって最後の一口ふた口が厳しかったようにも見えて饒舌も盛んになる。
「何事も最後が大変だって言いますから」、主人がいう（期待をこめて）。
客席も固唾を呑む。
すると、５杯目は再びあっという間に一息で呑み干す、あう～、ふ～ふ～。


あっけに取られた主人がご褒美をあげて

先に待ってくれと言って外に行ったのはなんだったのか？
なにかお呪いでもしてきたのか？

と訊くと

いやあ、なんでもねえだよ。
おらァ５升なんて酒ェのんだことがねえだから、
心配でなんねえで、表の酒屋へ行って、試しに５升のんできただ

耳で聴いたり字を読むよりも、高座で噺家が５升の酒を呑んで見せるところが全てだ。
５杯の酒の呑み方を変えて笑わせてスリルも味あわせて。
下手な人では面白くもなんともない。
前の小さんの十八番を弟子の権太楼が見事に継承して更に独特の百面相で見せてくれた。


何かをやるときに練習でやってみるとうまくいくのにサテ本番になるとまるでダメってこと、あるよね。
関係ないって？こりゃまた失礼しました。