楽しそうな喜多八 「喜多八膝栗毛・春の宵」( 銀座博品館劇場)

喜多八ファン、と言ってもこの一年くらいの新参者だから彼の独演会は初めてだ。
銀座博品館という会場、そして客層がいかにも喜多八的だ。

五街道弥助が「親子酒」。
禁酒の誓いをした親子がどっちも酔っ払って「こんな7つも8つも顔のあるような男に身上は譲れない」と親が言えば「私だってこんなぐるぐる回る家はいりませんや」。
酒に意地が汚い親父のダメぶりを観ていると俺は反省するどころか帰りにどこで飲もうかと考えてしまう。

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喜多八は「だくだく」。
家賃を払えず長屋を追いだされて着のみ着のままで別の長屋に引っ越した八五郎、絵描きの先生を拝み倒して壁に家具やら床の間、へっついの上のお釜にはおまんまが湯気あげてて火鉢の脇には三毛猫があくびしていて、、豪勢な部屋をこさえてしまった、但し絵に描いただけのもの。
近眼に超乱視と言う泥棒が隙間から覗いてこりゃ宝の山だと忍び込む。
寄り目の泥ちゃんのおかしなこと。
さーて、総桐のタンスの下から、と手をやるがすっと滑ってしまう。
何度かこれをやる仕草に大笑いだ。
パントマイムでガラス窓に手を当てる仕草、あれをやってみせる。
変だな、あの猫はずっとあくびをしっぱなしだし、わきに「たま」って書いてある。
へっついの火も消えねえ。
なあ~んだ!絵だったのか。バカにしてやら。
待てよ、俺も泥棒で飯ィ、食ってる身だ、こいつがその気なら俺もそのつもりになって盗んだつもりになってやろう。
タンスを開けて大島から博多の茶献上からみんな風呂敷に包んだつもり、重くて持ちあがらないつもり、なんてしゃれっ気の強い泥棒があすんでると、先刻目が覚めた八五郎が寝たふりして見ていたけれど、起き上がって長押の槍を取ったつもりンなってしごいたつもり、ぐっと泥棒の脇腹を突いたつもり、
イテテテ、真っ赤な血がだくだくと出たつもり
俺の好きな噺だ。
小さな頃、母が立派な庭などを観たときに「これは全部我が家の庭だと思っていたらいいの。草取りとか面倒だから預けて世話をしてもらっているけれど、見たければいつでもくればいいのだから」とマンネリのジョークを言ってたのをちらっと思い出す。

喜多八はちょっと楽屋に行って喉をうるおして帰ると続けて「将棋の殿様」。
家来と将棋をするのだがインチキズルばかり、それで勝つと軍扇で頭をぴしゃり、近習はみんな頭がボコボコでも宮仕えの哀しさ、我慢するばかりってだらしがないのさ。
見かねた歴戦の勇士・爺がそれではわしが、と嫌がる殿を相手にして凹ますという噺。

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(八雲「金蔵院」)

仲入り後、太田その、と松本優子が三味線と歌。
優子が火消しの頭、そのが深川芸者になってセリフと歌で楽しいもんだ。

最後は再び喜多八、「百川」。
田舎者の百兵衛さんが日本橋の「百川」なる老舗の料理屋に雇われてきた、その足で二階の客・河岸の若いもんたちの座敷に用件を訊きに行く巡り合わせに。

ところが田舎の訛りが若者には聞き取れない。
兄貴分の初五郎が江戸っ子らしく勝手に早飲み込みの勘違い。
勘違いと勘違いが頓珍漢なやりとりをするのが笑いどころ。
初五郎は百兵衛を隣町からかけ合いにきた相当な男と思いこんで、酒を断られたので席にあった慈姑のきんとんを薦める。
ここはこの私の顔を立ててぐっと飲み込んでくだせえ。ぐっと。
話を腹に呑みこんで帰ってくれと言ったのだが、実直な百兵衛さん、可哀そうに大きな慈姑を呑みこんで目ェ白黒。
「今朝がけに河岸の若ィもんが四五人きられやして」(今朝がた、河岸の若いものが四五人いらっしゃいまして)というのを聞いた医者が「袈裟掛けに斬られて」と聞き間違える。

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(目黒・氷川神社)

権太楼が力任せに笑いの旋風を巻き起こせば喜多八はトボケタ味をスパイスに笑いだすと止まらない場をつくる。
権太楼が小さんの弟子で63歳、喜多八は小三治の弟子で59歳、他に市馬、さん喬、喬太郎、三三、、小さん門下は花盛りだ。
Commented by takoome at 2009-05-30 01:00
サワディ〜カ〜
夏休みにそんな神社に行ったことがあったよ、蝉を捕ったな、
ここじゃ、どれだけ探してもない。
Commented by convenientF at 2009-05-30 03:50
近所に住む次男と時々「親子梯子」をやりますが、最後はは決まって街で最高級のバーでの「親子酒」対話!
バーテンは笑い転げています。時々ヤツの幼なじみが偶然参戦してきますが、そうなると大乱戦です(^^;)。
Commented by sweetmitsuki at 2009-05-30 06:41
祖父の学友に絵の上手い人がいて、食べるものがなかった時代、御馳走の絵を描いてもらって飢えを凌いでいたという話を何度も聞かされました。
「だくだく」の可笑しさは噺を聞いてるうちに豪華な部屋よりもそっちのほうが羨ましく思えてきてしまうところでしょうね。
祖父に美味しいものを食べさせたくても、絵に描いた御馳走には敵わないように。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-30 07:51
takoomeさん、神社とお寺のあの雰囲気は確かに日本独特なものですね。
きっと外国に住んだら懐かしいと思うだろうな。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-30 07:53
convenientFさん、居酒屋の馴染みが俺の家は松の出っ張ってるあの家でといえば相手がいやあれは俺の家でと譲らない。
周りの客が店の主人に仲裁したらというと「なあに、あの二人は親子なんです」。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-30 07:55
sweetmitsukiさん、洗濯も掃除もいらないものね。
長い刑務所暮らしで囚人たちがそれぞれのうまいもの尽くしをして食べるマネをして時間をつぶすという話も聞いたことがありますよ。
Commented by kaorise at 2009-05-30 18:04
私もいつでもお金があるつもりなの〜なんせ貧しき妄想族ですから。
おかげさまで週末に「あれっ!お財布に500円しかない、、」とボー然とする事しばしば。
どうして私はいつもお金持ってるつもりなの??と自問自答。
さすがにカラッポのお財布もっていって買い物まではやってませんが
もしレジで真っ青になる事が起こるとヤバイですね〜
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-30 18:52
kaoriseさん、お金あるつもり、使ったつもり、満足なつもり、その内どうでもよくなる?
もっとも考えてみれば「つもり」がなかったら生きていけないかもしれませんね。
たいていのことはつもりなんでしょう。
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by saheizi-inokori | 2009-05-29 23:57 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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