今の司法にフロストはいない 裁判員制度の取り調べの「一部可視化」に反対する

昨日書いたように俺はフロストが好きだ。
でもね、問題がないってわけじゃない。
それは取り調べの過程で法的手続きを結構無視してしまう点だ。
捜査令状もないのにあるかのようにふるまったり、こっそり人の家に忍びこんで家探ししたり、ありもしない“証拠”をでっちあげて容疑者を追いこむくらいのことは屁でもない。

そしてそれがフロストの機知であり熱意でありユーモアですらあってこの小説の魅力になっているのだ。
要するに俺たち読者はジャック・フロストを信頼しているのだ。
実際、そういうトリック(しばしば違法な)によって、フロストは”直感の告げるところ”犯人であり重要な目撃者であると信じた人間から重要な証言を引き出すことに成功するが、自身は常に内省を重ね間違っているようだという“直感”がきざすとか部下によって新しい情報が得られれば直ぐに方針を変更している。
「夜のフロスト」で容疑者が死ぬ間際に漏らした一言、それはフロストしか聞いていないのだから、容疑を認めて死んだと云えば全ては丸く収まるような時でもフロストは嘘はつかない。
トリックは飽くまでも途中経過で現実の証拠には使わないのでもある。

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(済州・「薬泉寺」)

裁判員制度がはじまって改めていろんな問題が指摘されている。
先日お知らせした性犯罪被害者のプライバシーの問題も最高裁は無視を決めているように見える。
今朝のテレビを見ていると取り調べ過程の「一部可視化(録画を見せる)」がいかに冤罪を作り上げる危険を孕んでいるかについて大谷昭宏などが問題提起していた。
全面可視化しなければ都合の良いところだけ継ぎ接ぎで編集されてしまうから裁判員は有罪の心証を強める。

前に書いたが俺は昔会社で不祥事があって矢面に立たされたことがある。
その時、今でも続いている全国ネットのニュース特番で取材を受けた。
朝飯の前に社宅の新聞受け(外にあった)に待ち構えていた。
会社で話をするからと言っても聞かないので家の中にあげて結局二時間以上、懇切丁寧になぜそういうことが過去何年も行われてきたのかを説明した。
会社から電話がバンバン鳴って早く出てこいというのを気にしながら。
その時、一時間ほど取材が進んだら「ちょっと一息入れましょう。フイルムを入れ替えます」と言うので一息ついたのだが、その時に再開後はこんなことを訊きますという。
「そうですか、それは答えにくいなあ。」自分の判断だけではなんとも言えないような事柄だったからそんなことを言って頭を掻いた。
後に全国放映された30分番組をみたら俺が二時間かけて縷々説明したことはほとんど放送されずキャスターが用意された原稿を読み上げて一方的にいかに俺たちが不埒(良くないことであることは否定しないが、その事情は知ってほしかった)であるかを糾弾した。
そして俺の映像は寝ぼけマナコでパジャマ姿で新聞を取りに出てテレビ局の連中を見てびっくりするところとか、どうぞと頭を下げて部屋に案内しているところ(いかにも謝っているようだ)、そして「それは答えにくいなあ」と頭を掻いているところだけだった。
後にマスコミ関係の人に訊いたらそんなことは日常茶飯事、彼らの常套手段だという。
あらかじめ視聴者(下請けからするとネットテレビ局の、又は上役の)の喜びそうなストーリーを創り上げて(でっちあげて)おいて、関係当事者はその線に沿った取材をする。

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(同じく薬泉寺、大きかったなあ)

“常識では信じられないような極悪な“犯罪の容疑者について「あの人ならいかにもそんなことをしそうだ。どう見ても悪の顔だもの」という人が(かなりの常識のありそうな人でも)結構多い。
アァした“悪の“顔は沢山の映像の中から選ばれたものが何度も繰り返して使われていることに気が付かないのであろうか。
あたかもドラマを観るように悪役はそれなりの姿かたち(豪邸に住んでいるとか、記者にひどいことを言うとか、「おぬしも悪だのう」の悪代官とか)をしていた方がワクワクして視聴率があがるからね。
そういう如何にも悪い奴なら死刑になっても構わないし。

密室で行われる警察の、それも死刑になるかも知れないような犯罪の容疑者に対する取り調べは極めて厳しいものになる。
恫喝、甘言、、机を叩く、大声を上げる、誘導、、。
被害者の遺族がいてマスコミがいて、司法官僚の上司がいて、自分の保身がかかっていて、刑事が死に物狂いになって容疑者を落とそうとする。
そういう場面をすべて録画して公開(裁判で)しろと言われれば真面目な刑事も含めて猛反対が起きることは当然だと思う。
だから公開しても問題のない場面と、被疑者の有罪を裏付けるための映像だけを法廷に提出することになる。

そして”善良なる市民裁判員は健全なる社会人としての常識によって”有罪と判断し(悪いことしそうな顔だしって)もしかすると冤罪の被疑者が死刑になるかも知れない。
慧眼よろしく検察側の欺瞞を見抜いたとしても不幸にして少数意見だった場合は思った判決を得られない上に守秘義務があるからその判決の不当を世に訴えることは許されない。
俺は無罪を主張したとも言えない。
せっかくの慧眼の士も冤罪の片棒を担ぐことになる(世の中的には)。
当初、裁判員制度に消極的であった最高裁が急展開して推進に熱心になった裏にはこんな所を利用して裁判批判をなくそう(ほら、国民の皆さんの代表も入って死刑と決めたんだよ、とか)という判断もあるのではないかと疑いたくなるほどだ。

全面可視化が出来ないというならば一部可視化も止めるべきである。

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(同じ寺、もう菜の花も散ってしまっただろう、イヤ次から次へと?)

俺はフロストは信じるが今の最高裁を始めとする司法官僚は信じることが出来ない。
なぜなら
死刑判決をすることを恐れなくてもいいですよ。みんなで判決するんだから。
とにこやかにテレビで語った最高裁の官僚の顔がまだちらつくのだ。
いってみればマレット署長や彼が畏怖する本部の警視長は信用できないのだ。
Commented by antsuan at 2009-05-23 20:52
赤紙で招集された一兵卒とどこが違うのでしょうね。
裁判員になって、「裁判官、あんたが信用出来ないから俺達がやるんだよ」と言ってやりたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-23 22:12
antsuan、赤紙で召集された一平卒はそんなセリフを口に出せなかったでしょうね。
裁判員がそう言いたくても、結局彼らが牛耳をとるのですよ。
Commented by きとら at 2009-05-24 00:02 x
 取り調べ過程の録画は弁護側の主張ではなかったのですか?
 その録画を編集して有罪の心象に誘導するのは簡単でしょう。しかし逆も成立します。この刑事のこういう取調べでは自白は信用できないな、というふうに誘導できます。
 弁護側も録画を点検できるようにはなっていないのですか?
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-24 08:16
きとら さん、弁護側の全部可視化の要求を逆手にとっている感じはありますね。
録画は検事側が作成するのですから。
弁護側が録画の作成過程に参加するのは無理でしょうね。
裁判員制度では審理の迅速化がなされるというそのこと自体はいいことですが、事実上弁護士の数や質を考えると粗悪な弁護活動しか行えないことも心配されています。
Commented by tona at 2009-05-24 09:03 x
マスコミの報道内容が取材で発言した内容と異なるのはびっくりですね。saheiziさんの場合も小馬鹿にしたように切り取って肝心でないところ報道していますね。
我が家も玄関先に執拗に粘られた経験があります。
私の場合は新聞に出た内容の方が発言したのよりよく書かれたのには、嘘が書かれたというほどではないにしてもこそばゆい感じでした。夫の場合も違う内容が紹介されていて驚きました。
というわけで新聞記事の内容は真実でないことが多いということを悟りました。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-24 09:10
tona さん、それでは真実をどうしたら知ることができるのか?
悲観的になってしまいますね。
Commented by at 2009-05-24 12:02 x
言うのも今のうち、
その内、誰もが鈍くなってきて何も言わなくなってくる。
そんな世の中にはしたくないもんだ、
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-24 12:29
蛸さん、鈍くもあり、怖くもなり、モノ言えば唇寒き世の中になってきたような、、。
Commented by convenientF at 2009-05-24 14:15
>モノ言えば唇寒き世の中になってきたような、、。

大人たちがヒソヒソ話ばかりしていた幼稚園から小学校前半時代を思い出す最近の情勢です。特高警察や憲兵が市民を日々脅し上げていた社会です。
皆様のブログを訪問し、コメントするのも避けるようになりつつあります。どうせ残り少ない人生なんですけどね。
Commented by HOOP at 2009-05-24 16:29
取材と報道が食い違うのは当然と思うようになっています。
特に最近、NHKに対する代議士らの干渉問題から発して、
事前に記事を示したりすることは「報道への干渉」の源として、
一切行わないようになっているので、
記者自身がソースに相談して誤りが無いかチェックすることすら
できなくなっているようです。

どうかしてる。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-24 17:18
convenientFさん、その通りもう手遅れです。遠慮しないで言おうと思ってます。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-24 17:22
HOOPさん、それは又過剰反応ですね。
保身にすぎます。
本末転倒。
Commented by gakis-room at 2009-05-24 18:47
最高裁の裁判官への国民審査があるのに「裁判員制度は初めて国民が司法に関わるようになった」という大嘘を誰が言い出したのでしょうか。
市民感覚のない裁判官は「市民の意見を聞きはしない」ということは私には自明の理なのですがねえ。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-24 19:32
gakis-roomさん、先日の朝日の社説はその代表ですね。
あれだけいろんな特集をしているのだから少しは記者たちも真実を勉強しているはずなのに。
間違いなく上層部からの指示であんな提灯記事を書いていますね。
Commented at 2009-05-24 21:38 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-25 07:52
鍵コメさん、懐かしいですね。愚息が白壁に引っ越していきました。
私も引退生活に入りますよ。
ときどき覗いていただいて嬉しいです。
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by saheizi-inokori | 2009-05-23 18:30 | 責任者を出せ! | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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