耳が、いや目が痛いご指摘ばかり 清水義範「大人のための文章教室」(講談社現代新書)

文章読本はずいぶん読んだ。
それぞれ面白かったがそれで文章がうまくなったわけではない。
およそ文章読本なるものがそういう目的にはそぐわないことは清水先生も明言している。
「文章読本さん江」(文末参照)で斎藤美奈子も書いている通り。

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本書は、だからそういう文章読本ではなくて一般市民が手紙だとか企画書、紀行文、随筆などを「伝えたいことを伝えられるように書く」ための心構え、作法、コツ、裏技、、などを教えている。
一世を風靡した「蕎麦ときしめん」の著者らしくパスティーシュの技を駆使した愉快な例文が満載、ワープロか手書きか(気持ちを込めるなら手書きでしょう、ラブレターをワープロで書くか)、点と丸の使い方、「です」か「ます」か、しゃべくり文の効用、、だいたいこのあたりは想定内のご指摘だ。

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随筆の書き方、「枕草紙」と「徒然草」が二大手本、男は煎じつめると「私は利口だからみんな見習え」と書いてあり、女性は
私は感性が優れていてセンスがいいのよ、ということが書いてあるのだ。時には自嘲的だったリ、失敗談を装っている場合もあるのだが、要するにそこで言いたいのは感性の自慢だというのが女性の随筆なのである
男の随筆、特に俺のなんかもそうだなあと頷いてしまう。

清水先生はそれを批判しているのではなくて
人はだれだって、私にならえ、とか、私ってセンスがいいのよ、と言いたいのだ。それをいやがられないようにうまく言ってしまうのが随筆の醍醐味だといえるくらいだ。
と言う。

それではそのコツとは?
いかにも知識誇りの、あからさまな自画自賛の文章はとりあえずやめとこう。
実体験にもとづいて書く。思考を先に書くのではなく。
一体験一話くらいがいい。せいぜい2000字くらいに“軽く“まとめる(ここも俺は失格だ)。
そして一般的にはやめた方がいいのは「変わり者の私は」的自己表現、私って普通じゃないけれどチャーミングでしょう、という印象を与えようとする。
俺のブログ(随筆じゃないけれど)なんてそんなのばっかりじゃん。
”臭い”感じがする(場合が多い)、って。
自分は普通の人間だが、と思っていた方が読みやすい文章が書けるそうだ。

やめた方がいいもう一つは「私たちの世代はそうではなかった」的自己表現。
男性、特に年配の人に多い。
これも俺がよくやるなあ。

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(僕たちも来年かな、ヤッターワン!って踊りたいなあ)

「文章上達のあの手この手」が最後に書いてある。
書くためにはたくさん読め。
読んでたくさん書け、そして忌憚なく批評し合う仲間を作るといい。
と言っておいて、それは年配の人には勧めないともいうのだ。
自分の文章にケチをつけられると、
自分の人格を否定されたかのようにくやしくて、ムカムカして、腹さえ立ってくるのだ。あなたのお子さんはできが悪いですな、と言われたぐらいに不快である。
50歳を過ぎた人は、もうそういう不快に耐えなくていい。
そこまで生きてきてるだけで人格は出来上がっているんだから、もうそれを否定されてはいけないのだ。
優しい先生と言おうか、なんとなく寂しい気もするのではあるが。

「文章読本さん江」は同名の本をかつて勤めていた会社に寄贈するときに社員に紹介した俺の文章である(「ホンの戯言」と題して270号まで発信した、ってこれはあからさまな自慢だね^^。)
7年前の5月21日付け。
あれから随分文章を書いたけれどどうもちっとも上達してないように思うのだよ。
ご批判無用と言う清水先生の言葉が身にしみる。



文章読本さん江  斎藤美奈子  筑摩書房
 最近又日本語ブームである。日本人のアイデンティティが危機に瀕したときに日本語ブームが起きるという説があるが、ダイタイにおいていつもなんかかしら日本語に関するホンは出ているように思う。私もよく読む。さすれば日本人は常にアイデンテイテイの危機に瀕しているのかもしれない。そうしたホンの中で所謂「文章読本」も多い。このホンにもでてくるが私も谷崎潤一郎、清水幾太郎、井上ひさし、丸谷才一、、、、大抵目を通した。しかし、何故そんなホンを読んだかというと「文章がうまく書けるようになるため」ではないのだ。要するに面白かったからなのだ。あたかも文芸批評を読むがごとくに面白いからなのだ。考えてみれば変だよね。書いている人たちは読む人の文章能力をあげてやろうとして書いているはずなのに。これは私がへそ曲がりだからそうなのか。他の人たちはマジメに読んでいるのだろうか。このホンはこういう疑問にしっかり答えてくれた。決して私はへそ曲がりなのではなく正確に文章読本の性格を見抜きそれに応じた読み方をしていたらしい。書き手の思惑はともかく。
 斎藤美奈子といえば週刊誌のコラムでお目にかかるくらいで、なんかエッチなことをよく書いている人かなあ、ト思っていた(注。これは斎藤由香との勘違いでした。この頃美奈子さんの本をあまり読んでなかったのです)がこのホンは見かけによらず硬派のシタタカ本である。とはいえ語り口は実に面白く抱腹絶倒、一読世の中に対する不安やら不満も雲散霧消誠に爽快である。「斬捨御免あそばせ!」とばかりに歴史に名を残す文豪、ジャーナリスト、学者たちに“容赦なく、やさしい蹴りを入れる”(腰巻の文章)。今まで尊敬していた作家の味わい深き文章も彼女の蹴りの前に急に光彩を失うようだ。文章読本が何故かくも次から次へと書き続けられるのか?それは大正以降の学校作文が、伝達の文章(実用文)と本格的な表現の文章(文藝作品)を排除して“自分の思った通りに書く”綴り方であり読書感想文でしかなかったからだという。詳しく歴史的事実をもとにそういう。
 著者は否定しているが、このホンも又新しい文章読本である。それも目から鱗の。
Commented by kaorise at 2009-05-20 23:32
>人はだれだって、私にならえ、とか、私ってセンスがいいのよ、と言いたいのだ

しかし人は誰しもセンスいい所、ならうべきところがあるものですよね。
それを文章や絵、料理なんでもいいんだけど、、「自慢する」から他者の目にふれて個人特有の世界が育ち文化が育つのでございます。
個人的な世界なのに、他人を意識していやがられないようにうまくやる、ってのは商業写真(仕事)と一緒でして、、ある意味ツマンナイ。
例えば素人写真って決して上手いわけじゃないが、面白い感性ですよね。
いやったらしい、臭いからこそいい、って見方もございます。
仕事でない限り(お金を貰わない限り)表現が臭くても、自分の言うことに責任をもてるのなら、下手でもまあいいんじゃない?と思います。
Commented by きとら at 2009-05-20 23:48 x
 文章読本は気になりますね。最近読んだのはリンボウ先生の『文章の品格』です。
 いい文章の真似をしろ、書き写せ、と書いてある。たしかにいい方法だが、今さら書き写して稽古する時間はない。文章にする前に口に出してみろ、と書いてある。なるほどいい方法だ。噺家はそうしているのだろう。そして面白いエッセイを書くのだろう。しかし俺は口下手だ。話を組み立てられない。
 
 エッセンスは、自分が書きたいことではなく他人が読みたいことを書け、だったかな?(それとも、これは他の文章読本に書いてあったのかな?) これはそのとおりだ。文章の鉄則だろう。しかし難しい。書きたいことを書いてしまう。「書きたいこと」とは、
 
>「私は利口だからみんな見習え」「私は感性が優れていてセンスがいいのよ」
 
 みんな見透かされているんだなぁ。(笑)
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 07:48
kaoriseさん、清水先生にいくら言われても私の文章は変わらないと思いますよ。
でもなるほどとも思いました。多数の読者を意識するか限られた読者を想定するかと言うことかもしれないなあ。そうか、商業写真ね、そういうことかも。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 07:55
きとら さん、自分だけが読む日記なら勝手に書けばいいのでしょうが、人に読んでもらうことを目的にする以上は“読んでくれる“文章、それは読みたい文章なのでしょうね。
東海林さだおは「人の会話のほとんどは、ドーダ!の自慢話から出来上がっている」と喝破しています。http://pinhukuro.exblog.jp/3999934
Commented by convenientF at 2009-05-21 08:34
>「私たちの世代はそうではなかった」的自己表現。
男性、特に年配の人に多い。

朝っぱらから年長者をイジメないでください(^^;)。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 08:50
convenientFさん、いいじゃないですか。どんどんやりましょうよ。人畜無害です。
Commented by takoome at 2009-05-21 09:39
サワディ〜カ〜
アチャァ〜・・・・・・、自慢話か、そぉいわれればそぉやなぁ、

Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 12:43
takoomeさんは自慢はないですね。
ぼやきならあるけれど^^。
もっとも清水さんの話はエッセイについてですよ。
Commented by orangepeko at 2009-05-21 16:18 x
こんにちは。
わっ!白い「サラサウツギ」!…わが家の子もピンクが薄れ…白くなっていて・゚・(ノД`)・゚・落ち込んでいましたが(*^m^*)
ここにもありましたねヽ('-'*)~♪安心しました(^O^)

最近…グチグチばかりで(^O^)…書く意欲をなくしています(^^;
まぁ…ストレス発散で(^^;書いているのだから…良いのですが…正直…深刻な状態になると…愚痴も書けなくなります(*^m^*)
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 16:23
orangepekoさん、こんちは!
そうですか、ピンクがほんとなんですね。
私も落ち込みが過ぎるとブログを書く気が薄れます。マンネリかもしれない。
Commented by gakis-room at 2009-05-21 18:28
「蕎麦ときしめん」以来,何冊か読みました。中でも「入試国語問題必勝法」なんてのも面白く読みました。
明日にでも買いに行こうっと。
Commented by waku59 at 2009-05-21 21:50
ワクはsaheizi-inokoriの文章が好きです。

人柄が出ていて読むのが楽しみです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 23:41
gakis-roomさん、最近清水氏が朝日かで「亡くなっている人をCFに使うなどはもってのほか、どうも死を軽く考えている」みたいなことを書いていていいことを言うなあと思ったことがあります。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-21 23:42
waku59さん、照れますねえ。私はWAKUさんのようにピリッと短く書けたらいいなと思っているのです。どうしても牛の涎になってしまいます。
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by saheizi-inokori | 2009-05-20 22:55 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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