松岡正剛「神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く」(春秋社)

松岡正剛「神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く」(春秋社)_e0016828_11185382.jpg

銭湯の破風、他にも神社仏閣などによくみられる。
「てりむくり」、「照り」と「起くり(むくり)」、「反り」と「起こる」、簡単にいえば凸凹だが西洋建築に見られるような幾何学曲線では描けない。
仏教建築にひそんでいる「照り」と神祇建築の「起くり」を習合させて無理やり作りあげた日本独自の発明なのだそうだ。
そしてこの和様の後ろに漢風の破風を組み合わせたり近代では西洋建築と折衷して和洋折衷の象徴となっていく。

これは和魂(にぎたま)と荒魂(あらたま)があって、遊び(スサビ)が和魂とどこかで結びあうとか「みやび」と「ひなび」の同居であるとか「アワセ」「ソロイ」「キソイ」と言って不揃いでありながら揃えて行くような日本流の方法と通底する。
西田幾多郎が「絶対矛盾的自己同一」というのとも同じことなのかもしれない。
漢字(真名)に対してカナ(仮名)を作ってしまう。

プラスとマイナス、ネガとポジの両方を同価値として扱っていく“日本の方法”。
そういう古来の日本の方法が見失われて「正」ばかりを追い掛けている、いわばアメリカの方法に追随しているのが今の日本ではないか。
それはいい結果を生んでいない。
たとえば太平洋戦争の敗北や被爆といった「負」を消し去るのではなく、
私たちのなかにひそんでいる悲しいものやどうにもならない「負」というものと、「正」とを、精神的にも実践的にも連動させていくべきだと思う

松岡正剛「神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く」(春秋社)_e0016828_1292988.jpg

有志が「日本という方法」を松岡から学ぼうということで募った「連塾」における講義内容を三分冊にして出版する、その第一部だ。

「千夜千冊」というトンデモナイ読書案内の巨人が各界のリーダーたちを前に渾身の講義だからなかなか読みごたえがある。
又聴きやすい(読みやすい)ような工夫も凝らされている。
だが読みやすいから分かりやすいかというと、、肝心なところで分からなくなる。
それは
学問的な主題陳述をするようなことはしたくなかったので、それにそんなことは私にはムリですから、これは、私が「方法日本」のナビゲーションをする場が与えられたんだと決めました。つまり案内人です。
とあとがきにあるように、俺はここに示された日本のやり方・方法のキーワードとなるさまざまな事柄について自分で原典に当たり実物をみるなどして思索を巡らしていかなければならないということだろう。

「日本神話神統系譜(パンテオン)構造図」と称してアメノミナカヌシノカミなどの造化三神の天地創造から高天原パンテオン、出雲パンテオン、日向パンテオン、など七つのステージがどう関連して大和朝廷に流れ込んでいるかを15年かけて作ったという図が載っている。

松岡正剛「神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く」(春秋社)_e0016828_13445363.jpg

いろは歌の言葉に隠されている日本人の仏教観が日本語の感覚を作り日本文化を創っていくプロセスも語られる。
「有為の奥山今日越えて浅き夢見じ酔ひもせず」
わかりますか?
Commented by hanakannzasi-716 at 2009-05-17 22:37
身体に着物を合わせるのではなく、着物を身体に合わせてしまう。
フレキシブルな日本の文化、自分の国ながらまだまだわからないことばかり。
この本、とても興味深かったのですが、日本について書いているわりには和製英語続出で???と思うこともありました(笑)
Commented by きとら at 2009-05-17 23:04 x
 私の方は同じく松岡正剛の『多読術』を読んだばかりです。面白い本でした。
 
 松岡氏は折口信夫を日本文化に関するリーディングマップとされていますね。折口を正しいとするのではなく、その上に柳田國男や赤坂典雄を重ねていく。これもひとつの読書の方法でしょう。
 
 しかしどうでしょうねぇ。折口信夫の古代学は、文学の領域では意味があるかも知れませんが、古代史の領域ではあまり意味がありません。私はむしろ有害ではないかと思います。折口の上に正しい日本文化像が描けるかどうか・・・。
 
 『神仏たちの秘密』にしても『日本という方法』にしても、興味のあるテーマなんですが、折口信夫がらみではどうも・・・。
 
>「日本神話神統系譜(パンテオン)構造図」
>15年かけて作ったという図 
 
 私も『日本書紀』の研究中です。関心はあります。
 そのうち読んでみようと思いますが、おそらく支持できないでしょうねぇ。
Commented by kaorise at 2009-05-18 00:30
面白そうな本ですねえ、、7つのパンテオンの残り4つはどこ?
神仏習合と神話の舞台をあちこち旅してまわったけど、どこもここも素敵な場所ばかりでした〜たいてい温泉もあるし!
でも各地の遠いこと遠いこと、、時間と熱意が必要な旅でした。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-18 06:44
hanakannzasi-716さん、そうですね、和製かどうか横文字が多いですね。それと各界有名人の名前(出席者)が出てくるのは出席者に対するサービスかも知れないけれどちょっと気になりました。
いろんなキーワードを眺めて行くのは面白いですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-18 06:47
きとら さん、「死者の書」でしたか、あれを日本の最高の小説としていた人だったかなあ。
そうなんです、「神話構造図」を観てすぐきとらさんのことが浮かびました。
是非ご感想をお聞かせ下さい。立ち読みででも^^。
Commented by saheizi-inokori at 2009-05-18 06:53
kaoriseさん、三つのパンテオンを天地創世ステージ、黄泉のステージ、神武東征ベルト、前王朝ステージなどが挟んでいる、というのです。
引退したら(まもなく)こうしたところをケチケチ旅行してやろうかとおもったりしています^^。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2009-05-17 22:02 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31