名古屋だがね、またイコマイか

名古屋で働いている頃、行きつけの赤提灯があった。
ホントに大きな赤提灯をぶら下げてあまりキレイじゃない。
その上つまみも旨いとは言いかねる店。
でも週に一度ではきかなかった。

（近所の居酒屋）

馴れ初めは、家族が引っ越してくるまでの単身生活時代、東京からの帰りにふと寄った。
着替え用のシャツなどを入れたバッグを持って。
ビールを２本ほど飲んだがお上さんのアイソが悪い。
肴に何があるのか、訊ねても「ウチはなんもないんだわ。ビール飲んで帰ってちょー」と素っ気ない。
見た目には感じのいいお上サンなのに、変だなと思っていたら突然理由が分かった。
近所に東京の某一流銀行の独身寮があってそこの連中と大喧嘩したらしい。
その連中の一人と間違えられたのだ。

標準語やしィ、バッグなんかモットルでカンがね、顔つきも良くないし

すっかり仲良くなってから言われた。
新聞配達、タクシー運転士、大工、、常連たちとも打ち解けて気分の良い店だった。
ついつい調子に乗ってビールをもう一本もう一本と追加すると

ま、何本のみゃ気が済むんよ、いい加減にして帰りゃァ！

そのうち会社である事件があって俺がテレビで謝罪会見をすることがあった。
結構大きく扱われたのだ。

（神楽坂）

その後、店に行ったらきっと何か言われるかもしらん、嫌だなあとちょっと足が遠のいていた。
でもいつかは行くよね。
おそるおそる暖簾をくぐった。

やっとかめ！どこ行っとんたんや？

大きな声で迎えられたが、その後は以前のように屈託のないバカ話をして最後は”はよ、かえりゃあ”だった。

次の日も行ったが全く同じ、そうなると今度はコッチがなんとなく焦れて逆に訊いてみた。

へえ、なんも知らんかったよ。うちらテレビなんて野球とかばっかしや、ニュースなんてみいしん、なあ、みんなもやな？

他のスタッフも頷く。

（大塚）

なんだか面白くて、その後何人か親しい人を連れて行っちゃあ、その噺をして

いいでしょ？今頃浮世離れしてるというか、なんとも楽しい店でしょ

などと笑っていた。

東京に転勤になった後だったかな、名古屋に行った時に寄り道してその店に同行者を連れて行った。
そしてまた、その”ニュースを見もしない店”の噺をして悦に言っていたら

ま、あほらしいて！まんだそんなこと言っとらっせる！

あれは俺がさぞかし気にしてるだろうから、知らんことにしといちゃろ、という店のみんなの思いやりだったのだ。

思えばいろんなところでいろんな人の優しさに恵まれてきたものだ。