だんだん良くなる法華、ならぬ小満んの噺 末広亭、4月下席

エイプリル・フールの夜に観た「小満ん独演会」のことを書きそびれているうちに末広亭の下席で又会った。
上背があってすっくと姿のいい師匠だ。
黒の羽織に藤色の着物。茶献上の帯と緑の紐。
師匠は噺の中で衣装の説明が丁寧だ。
俺みたいに羽二重といえば餅のことかと思うものにはもったいないくらいなもんだ。

色白で大きな耳、顔はそんなに大きくなくて、ハンサムってんじゃないけれど“様子がいい”。
独演会の受付で愛嬌を身体一杯にしていた奥方とは似合いの夫婦だね。

だんだん良くなる法華、ならぬ小満んの噺 末広亭、4月下席_e0016828_23504023.jpg

好い笑顔で始めたマクラは酒のみのオウワサ。
シャレたバーにやってきた男、「マティニを二杯」という。
一人で来ていっぺんに二杯くれと。
バーテンが訝しがると、「仲の良い友だちが転勤で一緒に飲めなくなったので彼の好きなマテイニを一緒に飲んでるつもり」と答える。
なんかいい噺で毎晩そうしていたら、ある日「今日は一杯だけ」という。
友だちに何かあったのか?と訊くと「いや、俺がドクターストップを食らったもんだから友だちの分だけ飲むんだ」。
師匠の8代目文楽のことを描いた「べけんや」の著者でもある小満んは江戸時代の考証とか小噺などを題材に小粋なエッセイをよくする。

だんだん良くなる法華、ならぬ小満んの噺 末広亭、4月下席_e0016828_23515293.jpg

マクラから入ったのは前に小三治を目当てに行ったときに聴いた噺だ。(題名をしらない)。
銭湯に出かけていろいろあって最後は上野広小路の怪しげなサロンでぼられる噺。
その何ともだらしのないというか呑気なトーサン的なイクタテをどうということのないギャグをちりばめながら好い間(マ)でつないでいく。
家に帰ってカミさんに報告しているという場面設定なのだが、たまにカミさんが呆れたり心配し(熱い湯にろくすっぽ入らなかったといったりすると)たり、合いの手を入れるのがいかにも粋なカミさんという風で好いのだなあ。
どうもしまらない亭主が又またあほなことやってきたのを面白がっているようなところもあって、仲の良い夫婦だ。

だんだん良くなる法華、ならぬ小満んの噺 末広亭、4月下席_e0016828_23523971.jpg

川柳、都々逸、端唄などを噺の中にちりばめるのが楽しい。
知的でありながら親しみやすく、しかも小粋、ほんのりした色気とユーモア(とカタカナを使いたくなる)の噺家だ。
最初、池袋だったかで誰かの代演で「目黒のさんま」をやったときに殿さまの周りがホンワカしてとてもよかった。
それで名前を知っても独演会にまで行くほどじゃなかったのに、今こうして寄席で何ということもない漫談みたいな噺を聴くと、
ああ、また一人、俺を虜にしたなあ
と、それがしみじみと幸せで嬉しい。

この日は馬の助が百面相をやったのもこの間と同じで楽しかった。

だんだん良くなる法華、ならぬ小満んの噺 末広亭、4月下席_e0016828_2355442.jpg


そうそう、書きたかった独演会。



「百年目」は堅物で通っている番頭が大尽遊びをするときの変身ぶりが面白く春風駘蕩、アァ、お金持ちになるって悪くはないかも感が横溢した。
他の演者がよくやるばれた後で旦那が番頭にもっともらしい訓戒を垂れるなんかはあっさり切り捨てたのもよかった。

「柳田格之進」
商家の主人の囲碁の相手は清廉潔白過ぎて仲間の讒訴にあって浪人になった武士・柳田格之進。
あるとき対局が終わって柳田が帰ったあと座敷から大金が無くなったことがわかる。
柳田を疑ったのは番頭。
柳田の人格を信頼している主人の止めるのもきかず、ひそかに柳田を訪ねて委細を糺す。
腹を切って晴天白日を示そうとするのを娘が知って自分が吉原に身を沈めて金を作るから切腹だけは思いとどまれと説得する。
その後、なくしたと思った金が座敷の額の裏から出てくる。
囲碁にむちゅうになった主人が置いて忘れていたのだ。

番頭は柳田に、もし無実がはっきりしたら主従は首を差し出すと約束してあったから青くなる、、、。

柳田はどうするか?

この噺は娘が吉原に行って作る金を払って自分はその後帰参がかなって羽振りも良くなるとか、その娘と番頭が夫婦になるとか、どうも今の感覚からすると納得しがたく後味も悪いのであまり好きではない噺だった。

小満んは番頭が柳田を疑う根っこに主人の寵愛を奪われている(と思いこんだ)嫉妬心を指摘する。
そうして主人が自分がわるいのだから責任を負って首を差し出すと番頭をかばう。
番頭は自分が勝手にやったことだからと主人をかばう。
そこを重点において描き、柳田はそれにほだされて二人を許すというところで終わり娘と番頭を夫婦にするのはやらない(噺の中で娘はすでに請け出してあることが知らされる)。
だいぶ後味の悪さが減ったように思う。
Commented by 旭のキューです。 at 2009-04-25 10:05 x
仲のよい友達の分まで飲んでいて、今日は一杯だけ、自分がドクターストップのため、人情噺ですね。
Commented by maru33340 at 2009-04-25 10:13
小満んさん良いですね。僕がまだ大学生の頃から時々寄席で聞いてますが、その頃から既に噺家らしい風情があり、なんだか良い心地になり好きでした。お茶を前に置いて、飲むんだか飲まないんだか、という間合いも(ちょっと圓生を感じて)良いんですね。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-25 10:47
旭のキューです。 さん、二年間禁酒を命じられて一日おきに呑んで四年”禁酒”する、っていう小話もあるのですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-25 10:51
maru33340さんは“早熟”ですね。今の若ものに小満んの良さがどれだけわかるかなあ。
熱い湯は「梅の湯」でぬるい湯は「竹の湯」だなんてサビー!でしょうか。
今の吉本系のあの機関銃のような早口でもないし。
Commented by naomu-cyo at 2009-04-27 12:34
 「ああ、また一人、俺を虜にしたなあ」・・・いいですねえ、こういう感慨!わたしの場合「また一人萌えな噺家さんを見つけてしまった!」です。萌え写、と勝手に呼んでます。
Commented by saheizi-inokori at 2009-04-27 12:56
naomu-cyoさん、多感な男です。
浮気性、いえいえどなたも心の底からお慕い申しておりまする。
ムーチョさんも同じと観ましたが^^。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2009-04-24 23:56 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31