何のために食べるのか

うんめえなあ、おい。ま~ず、身になるようだな。

うん、身になるなあ。
長野の方言で、食べ物の美味しさを喜び合っているのだ。
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「身になる」という言葉。
テレビで秘境に暮らす老夫婦、お父さんがダイコンの味噌汁を啜りながら湯気の向こうで「は~」とため息をついて「昔は、旨いものを食うと身になるって言ったもんだ」と云うのを見て昔のことを思い出した。
年老いた奥さんに聞かせるともなく、、でも奥さんは頷いて、二人とも実にいい顔をしていた。

いい言葉だ。
いかにも、食べたものがその瞬間から身体の中に入り込んでいく、命を頂いているという実感が溢れている。
自然の中で生かされていることに対する感謝と喜びが無意識のうちに口をついたのだ。
いつの頃からか人間はそういう気持ちを抱いて生きてきた。
それが集団の無意識となって共有されて子どもたちも使った表現だった。
うまいから身になる、のではなく身になるからうまい、という感じだ。
美味しいから食べるのではなくて食べたらそれが美味しかった。
分かりますか?
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「栄養があるよ」「ホラ、これ食べなきゃ大きくなんないよ」、大人たちが乏しい食卓のアレコレを勧めてくれた、あの食卓の空気もきっと身になっていたんだろう。
一本の牛乳を弟と半分こすると喧嘩になるので一日おきに飲んだとき、ぐびりと飲むたびに元気がついて行くような気がしたものだ。
今でも青々とした旬の野菜を食べたりすると体中が瑞々しい命に満たされるような気がする。

でも、いつのまにか身になるなどとは云わなくなった。
むしろ食べたいけれどダイエット中だから「身につかないように」なんて。
化学薬品で出来た食べ物は身にならないことを直感的に知っているし。
ローマの貴族のように快楽のための飲み食いになってしまった。

本を読んだり映画を観たりさまざまな精神活動の方も似たような面があるようだ。
若い頃は常に餓えた狼のようにマナコを爛々とさせて知識を求め、見るもの聞くもの全てが血となり肉となったような気がした。
今では読み切れないほど本を買ってあっちを3ページ、こっちを4ページと食いかじっては又別の本をめくる。
読んでる間だけは面白いのにブログに書くともう忘れてしまう。
ちっとも身にならない。
Commented by waku59 at 2009-02-09 22:52
最近はなんちゃ実も成らんですばい(とほほ)
Commented by きとら at 2009-02-09 22:57 x
 いま、ふと、思いました。最近は「菓子パン」のような新書、文庫の類を読んでいる。呑み込めるまで咀嚼する、というのがなくなりましたねぇ。
 
 歯も弱りました。それに合わせて、読みやすい新書のラッシュです。
Commented by yukiwaa at 2009-02-09 23:01
身になる・・・すっかり身につけて歳を重ねられたのではないでしょうか?
知識はおぼろげになり、感性は研ぎ澄まされなったが、「思考」は重ねて生きてきたものしか出来ないもがあるのではないでしょうか?

歳を経て「老いてゆく」という事を前向きに考えてゆきたいですね。ひとつでも出来ればいいかなぁ・・・と。
「満足」と「恵まれた立場」であることを忘れずに生きたいです。

佐平次さんには何よりも善いものをお持ちだ!
Commented by HOOP at 2009-02-10 00:09
減量のために食事を減らすとしたら、
栄養について真剣に考える必要がありますが、
新鮮な素材を使って作るなら、
「食べたい」ものを食べていれば大丈夫という自信があります。
むしろ今は「食べたい」ものの替わりを
なにかと工夫するのが大変だなと感じています。
Commented by takoome at 2009-02-10 00:31
サワディ〜カ〜
栄養があり過ぎた。飽食して何が旨いんだか不味いんだか分からんようになって来た。
ここらで一旦、仕切り直して出直してみたいと願っている今日この頃でした。
Commented by kaorise at 2009-02-10 01:26
外食しなければ、自動的にいわゆる「昔の貧しい食事」になりますよ。
だって手間ひまかけて毎日のご飯作るなんて、できないもん〜
ところがこれが面白い効果がありまして、、ご飯そのものの味の違いが美味しいと感じ、ちょっとしたおかずがすごいご馳走に思えます。
珍しく外食を食べると、オエッなにコレ?と吐きそうに。。。
もったいないから半泣きで食べる。いったい何が贅沢なのかしら。
Commented by orangepeko at 2009-02-10 06:04 x
おはようございます。
父は、病院で三度の食事を余すところなく食しても…栄養失調…(;-_-) =3
老化って…身体の機能がすべて衰えるのですね…
もう味覚もないのではないか(・・?)と切なくなります…
美味しく食べられることが…如何に幸せか…

>読んでる間だけは…面白いのに忘れてしまう。ちっとも身にならない…
耳が痛いかな(^^;…知りたい!学びたい!事も多いのに…
本を読むことも少なくなりました…
何も言わず…何もしない父ですが…学ぶことは多いです…
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 06:47
waku59さん、何をおっしゃいますやら^^。
花も実も盛りにみえますよ。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 06:49
きとらさん、たしかに新書は分かりやすいような気がするけれど実は神髄は分からないことが多いようです。
悪戦苦闘しなくちゃいけないのかもしれない。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 06:52
yukiwaaさん、そうですね。感謝の念は忘れたくないですね。いいものを食べて「身につく」と喜んでいたのは感謝の気持ちが強かったのだろうと思います。
これがまずいあれが気に入らないと高飛車な考え方では自分がみじめになっていくかもしれないですね。
Commented by 74mimi at 2009-02-10 06:54
「金のなる木」が可愛いお花を咲かせていますねぇ!
手入れがよくないとこんな素晴らしいお花は咲きません。
アイスプラントはこちらでもお花が開きはじめています。

何時食べても美味しいと思うもの
焚きたてのご飯、お味噌汁(ダイコンか白菜が一番好き)
お漬物(白菜を自分で漬けます)
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 06:54
HOOPさん、過剰はかえって貧しさに通じるのかもしれない。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 06:55
takoomeさん、大不況は絶好の追い風かも^^。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 06:58
kaoriseさん、それは”正しい内食”です。
外食をやめても出来アイの物を買ってきてチンして並べるだけの中食をいい加減にやっていると“正しい外食”より不健康になる恐れがあります。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 07:01
orangepeko さん、加齢とか衰弱って残酷ですね。
辰巳芳子さんの「命のスープ」みたいなものがもっと手軽に手に入ればいいのですが。
私は牡蠣を意識的に食べます。
味覚を維持しておきたいから。
でも読書の方は牡蠣に代わるものがありません^^。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 07:04
74mimiさん、散歩のときにみつけました。
炊き立てのご飯と味噌汁、私も一票をいれます。
先日久しぶりに生卵をかけてみました。
たまには嬉しい御馳走が蘇った感じがしました。^^。
Commented by maru at 2009-02-10 07:36 x
「読書が身にならない」という感慨本当によくわかります。昨夜ふと思いたって、染色家の志村ふくみさんの『語りかける花』という随筆を読んでいて「ああ、ここには日々の生活の中での体験と深い思索に裏付けされた本当の言葉があるなあ。それに比べて、自分はいかに浅薄な生活をしているのだろうか。」との情けない思いで一杯になった所でしたので。
Commented by ginsuisen at 2009-02-10 10:53 x
家で作ったご飯が最高!それが何よりも命のご飯かも。辰巳先生の命のスープって、一つの象徴だと思うのです。あんなに大変なことをしなくても、お母ちゃんたちは、ずっと命のごはんとスープを作っていたはず。まずは、昆布を水から、さっとわかした汁とか、野菜をゆでた汁を飲むことで十分、命のスープになると思います。saheiziさんが、読書が身になってないなんて・・だから読書するのかも~。
食べ続け、読み続けてくださ~い。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 11:02
maru さん、ご謙遜だとは思いますが、そういう反省をするきっかけになるのも読書の余禄かもしれませんね。
私は余禄専門^^。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 11:04
ginsuisenさん、前段に大賛成です。
テレビのお父さんが湯気の上がる味噌汁を天の恵みのように啜っているのをみるとあれこそ彼の命のスープだと思いました。
Commented by 高麗山 at 2009-02-10 11:36 x
私をここまで育んでくれた、食べ物。

・ 干っからびたしおさば(塩焼き、味噌炊き、船場汁)
・ 塩漬け鯨(頭の芯が痛くなるやつ、今は、食べられない)
・ 麦  飯   ・ 漬  物   ・ 水  団  ・ ピーナツ

すいとんは、今も時々作る、感謝をこめて! 家族はソッポ。
現在は、酒類という液体に翻弄されている。。。ウウン!
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 12:13
高麗山さん、焼肉もときどき^^?
Commented by kawazukiyoshi at 2009-02-10 17:40
ほんのりとした言葉ですね。
みになる
いい話を読みました。
有難う
今日もスマイル
Commented by 旭のキューです。 at 2009-02-10 20:51 x
千葉県じゃ「身になる」とは、聞きませんですね。先日、成田で食事していたら、佐倉出身のおばあちゃんが「そうかい」を「そうけ」と言っていた方言が楽しかったです。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 22:27
kawazukiyoshiさん、ありがとう。
今味噌汁が飲みたいなァ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2009-02-10 22:30
旭のキューです。さん、千葉の方言は懐かしいですよ。
そうけ、は甲州でもいいますね。「ほうけ」が多いかな。
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by saheizi-inokori | 2009-02-09 22:26 | よしなしごと | Trackback | Comments(26)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori