秋田神宮寺の旅 梨木香歩「からくりからくさ」と
2005年 09月 15日
残暑たけなわの東京を抜け出て東北路を”こまち”で北上。まぶしい日差しをさえぎるためにシエードをおろして「からくりからくさ」の、りかさんを取り巻く4人の女性の”結界”
世の中が凄い勢いでかわっていく、というより攪拌されていくようでめまいがとまらない、けれどあの家はその渦から外れているようだ、何かに守られているようで、・・に没頭する。ときどきシエードをそろそろ上げて外を見る。
稲田の黄色が深みを増してそろそろ稲刈りだなあ、春の菜の花畑の黄色は初歩用の12色の水彩の中の黄色を何も混ぜないでサーっと塗るときれいな感じが出るけれど、稲田の黄色はそういう風には描けないなあ、などととりとめもないことを考える。
早くも盛岡。細かな雨だったのにだんだん強くなって北上川の水面が濡れている。
隣の席は、60台半ばくらいの夫婦とその娘、といっても40は過ぎている。親たちと一緒のせいか、すっかり子供になって、若やいだウキウキした会話だ。甘えも混じっている。何の説明も要らない、感情を共有している家族のなんとも言えない濃密な空気が伝わってくる。娘の方が全てを親に委ねてしまえるからとても楽なのだ。
小説のなかでも主人公たちの創りあげる不思議な共同生活=”結界”がいよいよ新しい段階に発展しようとしている。
旅の魅力はいつもの世界から飛び出してある種の不安定な浮遊感を味あうことにもあるのではないか。だから長い旅はホームシックを誘いいつもの安定した世界に帰りたくなる。だとしたら帰っていくところがない者はいつも旅をしているようなものだなあ。隣の”娘”は今帰るところに帰ってきているのであんなに安らいでいるのだ。日常が”旅”なのかもしれない。
梨木さんは、いや小説の中のおばあさんは、命も旅をしている、身体は旅をする命のお旅所だという。
「秋田県立農業科学館」。入場無料。「タイムスリップ秋田」というパノラマ展示が面白い。下右はオオフトモモ。
ミズ、天然鮎の塩焼き、とうもろこし、きりたんぽ・・土地のうまいものいろいろ食べて雨がやんだので散歩。祭りの今夜は宵宮。100メートルもない長さに屋台が並んでいる。「かたとり遊び」なんて知らなかったなあ。
人びとの共同体意識の根っこに触れてくるような、お先祖様と一緒にいるようなお祭り。でも最近は花火が注目されて近郷近在から人が集まる。今日は昼の雨で花火は順延。
「嶽の湯」というところに泊まり翌日は「楢岡焼き」の窯に。海鼠釉という深い青が特徴。140年の歴史がある。登り窯は年に3度上げるのだと。俺たちも創ってみるが先生が手本でやって見せるようにはいかない。
いっぱい、日に干してある作品についてこれ位の物が成形できるのにはどれほどの修練が必要かと聞くと「4年くらいですか。成形だけならモット早くできますが粘土つくりから全てやるから時間がかかります。機械化されたようなところでは工程の一部しかやれないけれどここでは最初から最後まで手作業で全てやれるから大変だけど面白いのです」。
俺が調子に乗って「からくりからくさ」に出てくる草木染の話し、「同じ植物を使ってもちょっとした具合で全然違う色になってしまうのと同じようなことがあるのでしょうね?」と聞くと、わが意を得たように「そうです。藁の違いで灰の出来がまるで違うのです。それが・・」と。
生きている植物が、かたや糸を染めるし、土となり燃料となり食器を創り、その微妙な変化を人は味わい、衣食をまかない、生きて、死んで土に返り、植物を育てる。つながっている命。梨木さんの物語に出てくる主人公は化学薬品を使って染料の色を出すことに極端な嫌悪と苦痛を感じる人。
ここにも自然の連鎖に魅入られている人がいた。
焼きナスをショウガ醤油で。なんとも言えない風味と甘さ。
田沢湖のほとりのハーブ園に行ってがっかり。8年ほど前にできたのだがその後何回か行っていつも手入れされていて楽しかったのに今日は”見捨てられた庭”状態。まもなく冬を迎える為に鉢に移したりいろいろ大変なのは分かるが、ちょっとひどすぎる”荒れにし”故郷だ。係りの人に聞いたらやはり人手が少なくなって・・。
「からくりからくさ」の4人の庭は生えていた雑草を彼らの食料補給のために毎日とっていって代わりにステキな草花が植えられる。本当にほとんどの草花は工夫すれば美味しいらしい。
下右は角館の武家屋敷にいた梟。
夜、帰宅すると留守電に「せめて花火の音だけでも聞かせてやろうと思ってさあ。・・ドドドドオオオオン、パチパチパチ・・」。本物より胸に響く花火でしたよ。
からくりからくさ梨木 香歩新潮社1999-05売り上げランキング 99,786Amazonで詳しく見るby G-Tools おすすめ度 古い祖母の家、草草の生い茂る庭。 染め織りに心轢かれる4人の娘と 不思議な人形にからまる縁。 何かを探すためでなく、 ただ日常を生き抜くために・・・。 ..... more
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ボクのスキーの先生が住んでいるんですよ。
9月14・15日は、お祭りなんですよね。
今年は、ウィークデーにつき、行けなかった・・・。
「事業は人也り」。ハーブ園が荒れているのも、その人が辞めてしまったせいかなあ。
もー眩惑されてるのか読書してるのかわからない。最後縁深すぎでは?と思いながらもいっきによみあげました。
いい旅行でしたね、海鼠釉、私も好きです。たまに白が強くなっちゃったやつもあって、それもいい。
私の実家は、観光地(静岡県河津町)なので、実家に帰る=旅行って感じなんですね。
だから、旅行経験があまりないんです。
saheizi-inokoriさまのように、旅行を楽しめる人がうらやましいです。
私も、子育てが終わったら行ってみたいところに出かけてみたいのですが、旦那さんとは趣味が異なるので、長女と今から旅行の打ち合わせをしたりして喜んでます。
10年ぐらい先のお楽しみですね。
旅行の気分のお裾分け、「からくりからくさ」とからめての旅行記、たっぷり楽しませていただきました。
梨木香歩さんの作品を続けて読んでいらっしゃるのですね。
私は、新作「沼地のある森をぬけて」を読み、呆然として、再読、再々再読しています。
なかなか、感想が言葉にならないのです。
こちらにいらしている皆さんでお読みになられた方の感想、伺ってみたいです。saheizi-inokoriさんもお読みになられたら、お知らせくださいね。