楽しい掛け取り、まるで大晦日演芸大会だ 志ん輔・さん喬「掛取萬歳」

先日書いた喜多八の「睨み返し」によく似た噺が「掛取萬歳」、こちらも暮れの定番だ。

志ん輔(ビクター落語会)とさん喬(落語研究会)の二人を聴くことが出来た(なんと贅沢な年の瀬なんだろう!)。

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(今年の思い出③豪徳寺・「あめこや」)

長屋の八つあん、からっけつ、寄せ来る掛け取りを追い払うのに去年は死んだふりをしたけれど、香典を持ってきた大家さんに女房が固辞するのを早桶から手を出して「貰っとけ」、大家さんはヒエッって逃げ出した。

今年はどうしようって考えたのが掛け取りに来る人の道楽を使って誤魔化そうってェ、、。

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(今年の思い出④豪徳寺「塩原湯」の廃業)

まずは狂歌の好きな大家さん。
「びんぼうの棒も次第に長くなり振り回されぬ年の暮れ」
「びんぼうをすれどこの家に風情あり質の流れに借金の山」
立て続けにいくつも即興の狂歌を披露すると大家さん、すっかり感心して
「貸しはやる貸しはとらるる世の中になにとて親のつれなかるらん」帰ってしまう。
「お前さん!凄いねえ、どこでそんなこと覚えたの?」
女房が訊くと
なあに、寄席に行きゃア落語家が教えてくれライ
たしかに寄席じゃあ“学校で教えない”ことォおせえてくれるなあ。

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(今年の思い出⑤大塚・「小閣楼」)

次いで来たのが浪花やの旦那、義太夫が大好き。
八五郎の魂胆を見抜いて義太夫で催促する。
出ん、出ん、でんでんでん、、
志ん輔の首を振り振り青筋立てて唸る義太夫は実に可笑しい。
さん喬は美声だが可笑しさや迫力でやや劣るかな。

魚屋のカッつアン、幼馴染のせいもあって取りにくそうに催促するのに逆に挑発して喧嘩に持ち込む。
この後は↑に書いた「睨み返し」に出てくる「取らねえうちは一寸たりとも動かねえ」「払わねえうちは五分だって動かさねえ」の話と同じ。
払ってもない金にお釣りを寄こせと悪乗りしてカッつあんを帰したあと
金ができたら真っ先に返してやらなきゃな
って八つあんのホントの人柄をあらわすセリフを加えるのはさん喬。
この人は乱暴な登場人物もどこかやさしく描く癖があるようだ。

相模やの番頭は芝居好き。
お掛けとり様のお入りィ!
八は大声で感じを出す。
さん喬の演出では町内のお囃子の稽古に来ている衆に三味線に笛や太鼓で応援してもらうという趣向(志ん輔のは断りなしにお囃子がつく)。
どぶ板を花道と見立てて見栄ェ切りながらの登場、このあたりからの可笑しさはさん喬、志ん輔、甲乙つけ難いな。
松にもいろいろありましてえ、えぞまつ、とどまつ、ごようまつ、あなたまつのも松の内
捧げ持った扇を読むとて、気取った節回しでだあ~っとなるセリフはさん喬だ。
ワキで見ている女房は
お前さ~ん、面白いねえ!わたしゃすっかり楽しくなってきたよ。
毎年これで行こうね!
主が汗ェ掻いてんのに、、いい女房だ。

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(今年の思い出⑥小淵沢の夏、暑い夏だった)

最後に出てくる(魚やと浪花やなどの登場順は噺家によって違う)のは三河屋の旦那、そう三河萬歳だ。
まっちゃろうか~まっちゃろうか~一年まとか二年まとか~
優しい旦那だ、でも八つあんはしたたかだ。
なかなかそんな~ことでは勘定なんかできね~
楽しいリズムで、見えない鼓を叩きながら値切っていく。
十年二十年、、、はあ、まだまだ、、
そ~れじゃいってェ~いつ~は~らう

ひゃーく万年もォ、過ぎたならァ
現実にはありえなかっただろうが、等身大の商い、見て触って使って食える範囲での取引、そこには人情やユーモアが十分に入り込めるような商い、現代が失ったものを感じる、と云ったら笑わせるナイ!って言われるか?


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(今年の思い出⑦は~ちゃんも今は歩けるようになった)

ただ噺が上手というだけでは演れない噺だ。
義太夫、芝居、三河萬歳、、いろんな芸能をマスターした上でそのパロデイーをして見せる。
6代目の円生の十八番を当代の実力者が堪能させてくれた。
さん喬も達者だったが少し真面目に過ぎた。
これは少々大仰に道化のように笑わせてくれなきゃ。
志ん輔の青筋と百面相がぴったりだと思う。
彼の当たり芸になりそうだ。
Tracked from el pajaro at 2008-12-28 04:44
タイトル : また「エノケン」     
これも好きで時々歌います。日本語の歌詞にはちょっと無理があるんですけどね。 しかし日本人によるまともな歌唱/演奏は見あたりません。 この方がマシでしょう。珍しくバース付きですし... http://jp.youtube.com/watch?v=jmuypbHcfYQ 次のはクソ真面目な歌唱ですが、この方が落ち着きますか。 ヤッパ面白くない? 失礼をばいたしました。 では、お詫びにまたジェロ君、 ... more
Commented by 高麗山 at 2008-12-28 00:41 x
お祖父ちゃんの“表現の自由”の前には、

  は~ちゃんの、肖像権も存在しないのかな?
Commented by 旭のキューです。 at 2008-12-28 07:58 x
今日もお邪魔しました。お孫さんそっくりです。目の辺りが・・・
Commented by 74mimi at 2008-12-28 08:40
は~ちゃんの可愛い表情がよく捉えられていますねぇ!
抱っこしたくなるような・・・
Commented by takoome at 2008-12-28 09:59
サワディ〜カ〜
佐平次さん、は〜ちゃんソックリなんだって^^ 見たぞぉ〜
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 10:34
高麗山さん、子どもはどんどん変化していくからね、この後又随分変わりましたよ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 10:35
フローラ さん、あのヤカンは私じゃないんですよ^^。わたしはまだ草原がありまする。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 10:36
旭のキューです。さん、赤ん坊の時の私には似ていますが、、。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 10:37
74mimiさん、この後一度会ってるのですが人見知りしてちゃんと写真を撮らせてくれなかったのです。だっこどこじゃない^^。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 10:38
takoomeさん、レイジ君はお母さんに似ているのでしょうね^^。みたぞ~。
Commented by gakis-room at 2008-12-28 18:29
この落語,きっと面白いのでしょうが,なぜか笑えません。世相が暗いときには「お笑い」なのに。首相も「自由と民主主義をもうやめる」を買ったらしいのですが,読めるのですか(漢字のことではありません)と茶化す気も起こりません。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 19:06
gakis-roomさん、落語を、とくにこういうのを聴いていると貧乏万歳みたいな気持になります。
私はますます寄席通いです。
読書量が今月激減しました。
Commented by ふくよか at 2008-12-28 20:04 x
saheiziさん  寄席に行ったようでsaheizi落語は面白いです。
ヘヤーカットが素敵なはーちゃん、もう歩かれるのですね。遥太はやっと2歩でたところです。なんでも口に入れてこの間も猫のドライフードぽりぽりと食べてしまいました。
Commented by MAKIAND at 2008-12-28 20:26
一月末に、息子を成田に送っていこうと思っているんです。またしばらく会えないし、日本では。
それで、息子と落語を聴きに行こうと思います。
また新宿で。
日本の面白いことをお土産に持っていって欲しいなと思って。^^
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 22:50
ふくよか さん、どんどん大きくなりますね。
猫のご飯でよかったですね。
ゴキブリの薬とかだと大変だ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-28 22:53
MAKIANDさん、一月末広亭の下席は昼も夜も特徴のある出演者で面白そうですよ。
親子で寄席っていいなあ。
Commented by tona at 2008-12-29 20:10 x
はーちゃん、本当に可愛いです。
この前の写真から、すっかり顔を覚えて、道であってもわかります。
Commented by saheizi-inokori at 2008-12-29 22:47
tona さん、私が分からなかったりして^^。
久しぶりに正月に遊びに来ます。
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by saheizi-inokori | 2008-12-27 22:14 | 落語・寄席 | Trackback(1) | Comments(17)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori