アメリカ人よ目を覚ませ ノーム・チョムスキー「お節介なアメリカ」(ちくま新書)

アメリカ大統領選挙は、ほとんど集団ヒステリー状態といえるほどの過熱ぶりを見せているものの、健全な民主主義欲求をみたしているとはいえない。
アメリカ人は、投票をするよう促されることはあっても、政治の世界に本格的に参加するよう求められているわけではない。本質的に、選挙は政治から一般国民を疎外する、またひとつの方法である。大々的なプロパガンダ合戦がしかけられているのは、人びとにこうした4年に一度の、特定個人のための催しに注意を向けさせ、「これこそが政治だ」と思わせるためだ。しかし、実際は、選挙イコール政治ではない。選挙は政治のごく小さな一部分でしかないのだ。
国民は、いまでは政治活動の場から周到に排除されているが、これは偶然に起きているのではない。政治に参加する権利を彼らに与えないようにするためのそうした試みには、途方もない労力が費やされてきたのである。1960年代に押し寄せた、民主主義への市民参加の波は、特権支配層を震撼させ、今日にいたるまで、さまざまなかたちの激しい反動的運動が展開されつづけるきっかけとなった。
ブッシュとケリーが出馬できるのは、彼らに、同じような企業がこぞって出資しているからである。両候補ともに、選挙においては、争点を極力避けるべきものであると理解している。彼らは広告業界(つまり、選挙の手続きから一般国民を遠ざける仕組み)の産物である。この業界の仕事は、候補者の政策ではなく「資質」に焦点を絞ることだ。指導者の器か?いい男か?有権者が結局支持するにいたるのはひとつのイメージであって公約ではないのである。
2004年11月の大統領選挙を前にチョムスキーはこう書いた。
どちらも同じ穴の狢みたいな悲観的なことをいいながらも
ブッシュが再選されれば、彼の陣営は、この国にとても深刻な、おそらくは取り返しのつかない危害を及ぼすだろう。
さらに
ブッシュとその政権は、過去100年間で一般市民が戦いの末に勝ち取ったいかなる革新的な法制度や社会福祉制度も、公然と解体し、破壊することに取り組んできた。また、国際的には、同政権は軍事力による世界支配を標榜している。その視野には「宇宙の所有権」でも入っている。この国の監視能力と先制攻撃能力を拡大させるためである。
と書き、アメリカ国民に“賢明な選択”を訴えた。
ブッシュを推す人びとは実質的に国民に
君たちが将来十分に医療保障を受けられるかどうか、年老いた母親を扶養できるかどうか、君たちの子どもがまともに育つ自然環境が将来残されているかどうか。
ブッシュや、チェイニー、ラムズフェルド、たちが思い描いた暴力による破壊を回避しうる世界が来るかどうか。
そう云ったことには一切関知しない。
と云ってるのと同じだと。

アメリカ人よ目を覚ませ ノーム・チョムスキー「お節介なアメリカ」(ちくま新書)_e0016828_11124093.jpg


その後の推移は?
2002年9月から2007年3月までの間にチョムスキーがニューヨークタイムズ通信社から配信された毎回1000字程度の評論で指摘し予想した事態は悪くなれこそすれ杞憂と云うべきことは何もない。

9・11テロ以降のアメリカの“お節介ぶり”、国連何するものぞ、核拡散防止なんて知ったこっちゃない、アフガニスタン、イラク、中南米、どこであろうがアメリカの支配に逆らい利権を犯す(それが正当にも自国の利権であろうとも)国や勢力を踏みつぶすことに何のためらいも見せない。
本書に書いてあることがらは他の著作でもなんども読んで初耳ではないが、改めて胸が悪くなる。
目の前にブッシュがいたら、、自分を抑えられるか、自信がない。

アメリカ人よ目を覚ませ ノーム・チョムスキー「お節介なアメリカ」(ちくま新書)_e0016828_11141345.jpg
(ホワイト・ジンジャー)

それにしても、、、あまりにも日本の状態に似ていはしないか。

超大国が軍事力と経済力に物言わせて無法のやり放題だったが、さすがに世界は変わりつつある。
ヨーロッパ、中国、朝鮮半島、インド、南米、ロシア、中東、、冷戦終結後のアメリカ独り勝ちの情勢は大きく揺らいでいる。

今度こそ日米の選挙民は“いくらかまし”な選択をするのではないか。
Tracked from about ・ぶん at 2008-10-08 07:15
タイトル : 善魔の思想を支えるもの
今までも何度かアメリカの善魔性の問題を述べてきました。アメリカに居る自分にとっては自明のことなので、その善魔の思想を支えているものをきちんと述べてこなかったかもしれませんが、ひとことで言えば、それはアメリカは自由と民主主義を守ることを自らの使命として持った正義の国だという思い込みです。 アメリカが目指すものが文明の最終理念と言う考えが建国の歴史を通じて根強くあります。その信念を揺ぎ無いものにしたのは、第二次世界大戦が反ナチス・反軍国主義日本として戦われたことによると思います。その考えの中では、同...... more
Tracked from にぶろぐ at 2008-10-28 23:29
タイトル : お節介なアメリカ
こんばんは。今日は暖かくなりましたね。初詣に行ってきました。 年末からチョムスキーの「お節介なアメリカ」を読んでいる。本当は年内に読み終えられる量なんだけど、今日読み終わった。 チョムスキーが2002年9月からニューヨークタイムズ通信社の配信で定期的に配信していた評論を集めたもの。「ニューヨークタイムズ通信社」ということは、「ニューヨークタイムズ」本紙ではないということ。主に海外で掲載され、米国内ではわずかな地方紙のみで掲載されたに過ぎないという。だからアメリカ国民のほとんどはチョムスキー...... more
Commented by orangepeko at 2008-10-08 05:56 x
saheiziさん、おはようございます。
社会の仕組みが解るようにようになると…民主主義って何だろう(・・?)と疑問だらけ…
選挙は参加することに意義がある(・・?)
参加しても意味がない現実がたくさんあります(;-_-) =3
組織票が幅を効かせている!これって可笑しいですよね!
個人の意志で投票できない票なんてあるはずないのに(^^;
右向け右!は生きている…
従順な人が多いなぁ~(^O^)日本もアメリカも変わらないですね…
尤も日本の民主主義はアメリカから入ったものですから…当然か(^O^)
選挙に参加するだけではなく監視し続けることの方が大事なのにね…

>今度こそ日米の選挙民は“いくらかまし”な選択をするのではないか…
選択の先は…期待できるのでしょうか(・・?)…(^O^)
今、どちらもターニングポイントを迎えているのですけどね…
Commented by sweetmitsuki at 2008-10-08 06:12
今、ロバート・B・ライシュの「暴走する資本主義」読んでいるのですが、こちらの方がわかりやすそうですね。
考えてみればアメリカに対してただ漠然と憧れたり、あるいは嫌悪したりするだけで実状をあまりにも知りませんでした。

南の地方では、生姜の花が咲くそうですね。
TVのクイズ番組で知りました。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 06:37
orangepekoさん、個人の意志で投票できる票は顔つきとか物の言いかたで決まるなんてね。
政権誕生後の賞味期限のうちに解散総選挙をなどという発想自体が選挙民を舐めているのに何とも仕様がないじれったさ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 06:40
sweetmitsukiさん、この本は“読みやすい”^^。ですが、チョムスキーの著作は独特の機知とか言い回しがあって分かりにくいものもあります。訳者のせいかもしれない。
ホワイト・ジンジャーはハワイではレイに使うそうでいい香りがしました。
南島焼きの方の庭にあった花の一つです。
Commented by bs2005 at 2008-10-08 07:25
こんにちは!TBさせて頂きました。^^

大統領選に関しては、最近、ここで触れていることとはまた別の側面も感じていますが、その内、記事に書きますね。

首相が公選できず、自民党員ですら、国会議員よりはるかに小さな選択権しか与えられていない日本の一般の有権者よりは公選出来るだけましで、その違いは今まで自分が思ってきたよりずっと大きいかもと思い始めているのです。

オバマ人気のそもそもの始まりはイラクに反対していたということにあると思いますが、アメリカ人のイラク戦争反対の弁の中に、アメリカ兵が沢山死んでいることばかりが取り上げられ、私自身の耳ではただの一度もイラクの人々への同情が聞かれないことにやり切れないものを感じています。 byぶん
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 09:49
bs2005さん、第二次大戦後アメリカが世界の市民を何人殺したか?9・11の数字などは誤差の範囲でしょうね。
こういうことを知らされていないアメリカ人、知っていてやりきれない思いをしているのにその意志が伝わらない人々、、イラクの戦争目的を中東に民主主義を広めるためと変更してもそれを信じているヒトはアメリカにもそうはいないのに、まして世界には日本の一部を除いたら皆無に近いでしょうに。
Commented by antsuan at 2008-10-08 14:10
最悪の選択肢がまだ破棄されていません。米国もチャイナもロシアも国内の失政をごまかしたがっています。第二次朝鮮戦争が起こったら、国民はいくらかましな選択をとるでしょうか。
Commented by tona at 2008-10-08 14:28 x
大統領選に直接参加できないアメリカ国民、ブッシュ政権の罪悪など胸のすくような内容の本ですね。

紹介された「コンゴ・ジャーニー」を読みました。テレビなどから想像していたアフリカよりずっと厳しく、人生観がひっくり返りそうなほどでした。勝手なエゴですが、アフリカに生まれなくて良かったと。また、何であんなところを探検するのか、そういう人がいること自体も驚きでした。

ジンジャーに添えられた手が若々しく美しいです。
Commented by フローラ at 2008-10-08 17:23 x
前項での、現在のアメリカ外交では核戦争を招く、の示唆に震えました。おっしゃるように、逃げ場は実はありませんね。自国ならずとも、戦争が起こったら、という発言は、それだけで怖ろしく、不謹慎に聞こえます。そして、既に落命させられた人々の逃れようのなかった環境を思うと暗澹。システムを変えること、方法論は別としても、必要に違いないと思いますし、必要な時期はとうに過ぎているのでしょうね。心配するほどもなくエネルギッシュでらっしゃったので、まずは一安心です^^
Commented at 2008-10-08 19:16
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 23:11
antsuan、最悪の選択肢とはなんでしょうか?
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 23:13
流石の行動派、tona さんもコンゴには二の足を踏みますか^^。
花に添えられた手は南島焼きの主、奈美さんの手です。
おいくつでしょうか、生き生きとした方でした。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 23:15
フローラ さん、いえいえ青息吐息、ご心配が身にしみて有難いです。
ホントに憂鬱な世界、やけっぱちの人が増えてきそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-08 23:17
鍵コメさん、せっかくご縁が出来たのに残念です。
とても楽しみに拝見して文章にも感動していました。
又お会いできる日を!
Commented by suiryutei at 2008-10-09 17:04
こんにちは。
今日の朝刊記事には「オバマの地滑り的勝利も」とも。討論でもオバマ優勢のようですね。そうなることを願ってます。
チョムスキーの講演のビデオを以前、知人に見せてもらったことがあります。明快ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-09 23:59
suiryuteiさん、こんばんは。
オバマが勝っても大きな違いはないかも知れませんね。それだけの復元力がアメリカにはないのかもしれない。
でもマケインよりはきっかけを作れるかもしれませんね。
問題は日本です。
チョムスキーも日本には厳しい見方をしています。
知的エリートが責任をとれるかが勝負ですね。
Commented by yoshihiroueda at 2008-10-28 23:29
はじめまして、ぶんさんのところから来ました。
私も読んだのでトラックバックしますね。
今度の大統領はオバマになると思うけど、アメリカ人は反省しているわけではないですよね。アメリカ人が多く亡くなったことは反省しているけど、アフガニスタン人やイラク人を多く殺したことは反省していない。
そして反省していないという点では、日本人はそれ以上に反省していないと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-29 06:34
yoshihirouedaさん、よろしく。
オバマを引きずり降ろそうとする白人たちの行動をテレビで見るとやりきれないです。
では日本人はと云えば「自己責任論」という“差別発言”、今は少し静まったとはいえ底流に流れる“自分だけは間違っていない”という根拠のない自足、辺見庸ならずとも「いまここに在る恥辱」を感じます。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2008-10-07 23:49 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori