贅沢だなあ 亀井一家勢ぞろい 第6回「囃子の会」(歌舞伎座)

ビデオ「鼓の家」で観て感嘆した天才一家(亀井忠雄・田中佐太郎夫妻と三人の子ども)の「囃子の会」に行ってきた。
今年で6回目というが俺は初めて、手に入りにくい情報と切符を取って下さった先達に感謝だ。

夕方になってもちっとも涼しくならない炎熱の東京、にもかかわらずきちんとお着物をお召しで来られる方が多い。
俺は修行が足りないからテイーシャツにジーンズ(夏用の薄物)でもアヘアヘ。
歌舞伎座に入るときに持って行った薄いジャケットを着てごまかす。

藤間勘十郎の「三番叟」(広忠も登場)、中村梅玉、梅枝、萬太郎、梅丸「鶴亀」と歌舞伎の美しさで眠気を覚ましてくれる(まるで歌舞伎座の舞台をみているようだ^^。)043.gif
次いで「小袖曽我」は観世銕之丞(ツレ)、梅若六郎(シテ)に忠雄の大鼓、幸清次郎の小鼓、松田弘之の笛とめったに見られない組み合わせ。
素面の二人の舞が圧倒的、重厚にして端正。
「静と知盛」は中村富十郎が静御前と平知盛を舞い分けてため息!
キリっとして美しい。

40分と能楽堂にはない長い休憩時間、ロビーに座るところが少ないから、お着物姿の淑女たちが立ったままサンドウィッチやお稲荷さんを召しあがっているのは珍なる眺めでありました。

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(上野大仏、知ってましたか)

中村吉右衛門「羅生門」、笛に鳳声晴由、佐太郎、広忠、傳佐衛門親子。
吉右衛門が馬の暴れるのを乗りこなす写実など能とはまるで違って”わかりやすい”。
能「楊貴妃」、シテ・観世清和、ワキ・宝生閑、忠雄、清次郎、弘之。
閑さんにここで会うと、懐かしいような気分になるから不思議だ。
幕が上がると場内に嘆声とも歓声ともつかないふわ~っと波が広がる。
舞台正面、唄方、三味線、鳴り物・田中流一門が並んだ雛段の左前に博多人形が座っている。
坂東玉三郎。
黒い着物に真っ白な襟(留袖だ、かさねだ、って知らないんだ)そこから細い首が優美に伸びて小さな白い顔。ポッと刺した紅。
立ちあがって舞うと背が高くて、それでいて少しも大きいということを感じさせない、すっと、だ。
「老松」。

最後は番外として親子5人に福原寛の笛で「獅子」。
5分足らずだが獅子の親子の競演、俺たちには特別な饗宴だった。

満足満足、最高最高!
そうそう、地謡も銕之丞、六郎、片山清司、、オールスターキャストで凄かった。






なんだか、もうひとつ。
それは能で感じる、あのシビレル緊張感とふあっと緩むリズムが俺には感得できなかったから。
このところ、飲み過ぎやらなんやらで草臥れきっていたから体内アンテナが半分寝ていたのかもしれない。

歌舞伎と能の違いもあるのかもしれない。
能の演目を能のメンバーでやってもどこか違うのは舞台の違いなのか。
四本の柱で区画されて見所につきだした能舞台と平ったく前方に広がる歌舞伎の舞台の違いだ。

歌舞伎の演目は観ていてとても楽な感じがする。
長唄や三味線、笛などが”伴奏”っていうのか役者の動きにあっている。
それぞれが合奏、気持よく和している。
能ではお囃子はある意味では謡や舞とは独立して宇宙を創っていく。
それは身体の動きがいろいろであっても自律神経、心臓の動きは直ぐにはそれとは連動しないのと似ている(最後は全体として一つの宇宙を創るという意味では無関係ではあり得ないのだが)。
それぞれが自己主張してお互いにぶつかりあって相互に干渉しあうようにして世界が創られていく、そのプロセスが見所の緊張を強いる。

歌舞伎では最初から調和が求められているように感じた。

吉右衛門が馬を乗りこなす所作の写実性は能ではほとんど見られない
(だから「鵺」でシテが時折見せた写実的な動きがとても新鮮な驚きを与えたような気がする)。

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(石垣島の神様、お暑いことでしょう)

「三番叟」の「叟」は翁とも読むそうだ。
能ではまさに神事として行われる舞が、娯楽として観ても楽しく美しくみえる。
歌舞伎では最初から神事ではなくて娯楽として美しく楽しく見えるように工夫されている。

どちらが優れているとかいう問題じゃない。

昨夜は一滴も飲まずに早寝をしたら随分楽になった。
体調にも気をつけて行かなければ天才一家に失礼ですね、反省(深くうなだれています)。
Commented by ginsuisen at 2008-08-03 14:28 x
だが・・とあったので、ドッキリしました。
なんか、すごいことがあったかと思いました~。
うーん、そうですねー。能と歌舞伎は相容れて相容れない関係かも。
でも、それができるのは、亀井家だからこそなのかも~。
休肝日をもっと取られることをすすめます(自分のダイエットをカンガミテモ)。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-03 16:24
ginsuisen さん、ありがとう。
歌舞伎にはまると大変だと思います。
手を広げすぎないようにしないと。
Commented by みい at 2008-08-03 17:07 x
上野大仏、こんな所に大仏様がいらっしゃるのですね。ちょっとびっくりです。大きなお顔にどっきり!
大仏様も暑いでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-03 20:32
みいさん、私も今まで気がつかなかったのですよ。
上野公園の懐は深い!
Commented by sakura at 2008-08-03 21:55 x
お能も歌舞伎も切符を頂けば 行けるのですが、、
佐平治さんのお話をうかがうだけで(お上手だから)結構 楽しんでいます。何時も有難うございます。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-04 07:28
sakura さん、ありがとう。でもあの美しさは目で見て耳で聴かないと分からないのではありませんか。
長唄の声もいいものですね。
Commented by sakura at 2008-08-04 11:04 x
本当に佐平治さんのおっしゃる通りですね。
実際に聴いてみる事なのですが、、
日本舞踊をやっていましたから長唄や常磐津を聞くと お稽古場の雰囲気や京都南座の舞台に出た事などなど思い出されます。
Commented by とみた at 2008-08-04 12:26 x
はじめまして。私もはじめて囃子の会に行ったのですが、歌舞伎ファンなので、能のファンの方の書いたものは自分の知らないことがたくさん書いてあってためになります。
特に、歌舞伎では長唄や三味線、笛などが”伴奏”、能ではお囃子は謡や舞とは独立、というのが自分が漠然と感じたことと合っていたので嬉しいです。
Commented by MAKIAND at 2008-08-04 20:58
なーるほど。解りやすくてそーなんですねって、納得してしまいました。能と歌舞伎のお話。
しかし、暑くて私も今日は特にへなへなです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-04 22:26
sakura さん、習っていた人が羨ましいですよ。
私などは言葉がちんぷんかんぷん。ちりとてちんです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-04 22:27
とみたさん、私も能を見出して一年くらいです。
見当外れの感想かも知れませんよ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-04 22:28
MAKIANDさん、私もへろへろ。
でも今夜は少し元気です。ぐーっとやってきたから^^。
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by saheizi-inokori | 2008-08-03 12:20 | 能・芝居 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori