なぜ彼女が地獄に堕ちるの? 友枝昭世の会「求塚」(国立能楽堂)

入院中、NHK教育テレビ「日本の伝統芸能」で友枝さんが「能は理屈ではなくて想像力を働かせて楽しんでください」と言うのを聴き、24日に「友枝昭世の会」のチケットも取ってあるし、どうにかして無事手術・検査が終わって能楽堂にいけますようにと祈るような気持ちだった。

晴れて(といっても久しぶりの雨だったが、心は)懐かしの能楽堂にいけた喜び、全てに感謝だ。

狂言「伊文字」、ブログに書いてないがひと月前にここで茂山千作一家のお祭りで丸石やすしと千五郎、あきらが同じ演目をやった。
賑やかなおかしさを強調したような狂言だった。
今日は山本東次郎、則孝、則俊。
千作一家とは違って上品なおかしさ、最後の舞がいい。

さて「求塚」。
同時に二人の男からラブレターを貰った美しい女、どっちに靡くことも出来ず思いあまった末に生田川の鴛鴦を射させて勝負をつけさせようとすると、二人の矢は同じ一羽に当たってしまった。
仲の良かった鴛鴦を自分故にこんな目にあわせてしまった浅ましさを悔いた女は生田川に身を投げて死んでしまう。
二人の男は女が葬られた塚を尋ね求めてやってきて塚の前で互いに刺し違えて死んでしまう。

女の亡霊(シテ・友枝昭世)がシテツレ(大島輝久・内田成信)と共に若菜を摘むところは万葉集から取った物語らしく長閑な若やいだ情景、三人の装束も美しい。
それがシテ一人となって、通りかかった旅の僧(ワキ・宝生閑)に求塚の由来を語る内に突然声も人称も変わって
わらは思うよう
自分がその女であることを現して塚の中に消える。
謡と大鼓(柿原崇志)、小鼓(鵜沢洋太郎)のかけ声、笛(一噌仙幸)が若者の死を強調する。
後段ではシテは「痩女」の面をつけて現れ(塚の作り物の中で着替えをして若いたおやかな女が一変している)生前の罪故に地獄で苦しんでいる様を舞って見せるのが凄惨だ。
てきぱきという表現が当たっているだろうか強さを感じるような舞でもある。

事前に謡曲集で詞章を読んでいったのだが今ひとつ謡の言葉が聴き取れない。
とくに地謡が分からない。
能は観て聴いてその美しさに酔っていればいいとも思うが、何度か観ているうちにそれだけでは物足りない。
地謡の意味をもっとちゃんと聴き取りたくなる。
特にこの曲などはシテの気持ちの変化を地謡がリードしているような気分がある。
その一つひとつの言葉の美しさ、謡う人たちの籠めた思いを聴き取りたい。

なぜ彼女が地獄に堕ちるの? 友枝昭世の会「求塚」(国立能楽堂)_e0016828_0271392.jpg

そんな気持ちが湧いてきたのは、退院直後の高ぶる期待が空回りしたのかもしれない。
なんとなくもっともっと、そのうちに、と思っているうちに終わってしまったような気がする。
未熟な観客だなあ。

「痩女」の面、寂しげであり苦しそうであり、そして時折キュッとなるほど美しい。
近寄りがたい美しさがみえる。
汚辱にまみれた罪ではない、気高い心ゆえの罪を背負っている女の気品があるのか。

こうして何日か経ってから思い出していると、直ぐにも取って返してもう一度観たくなる。

アイ 山本東次郎 ワキツレ 高井松男 則久英志
地謡 友枝雄人 狩野了一 長島茂 金子敬一郎
    粟谷明生 粟谷能夫 香川靖嗣 出雲康雅
Tracked from おまとめブログサーチ at 2008-05-30 07:17
タイトル : 【狂言】についてブログでの検索結果から見ると…
狂言 をサーチエンジンで検索し情報を集めてみると…... more
Commented by greenagain at 2008-05-30 05:09
「求塚」、ストーリーに惹かれました。知りませんでした。
能楽堂は、歌舞伎座のように現代語訳が載ったパンフレットは販売されていないのでしょうか。意味、知りたいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-30 07:39
greenagainさん、たぶん売っていたかと思います。ものによっては一冊2500円もするのです。それで私は事前に古典全集とか解説書で一通りは読んで行ったのですがどうも微妙なところの言葉が聞き取れないのです。
あらすじなどは無料のパンフレットにもあるのですよ。
Commented by ginsuisen at 2008-05-30 08:55
>こうして何日か経ってから思い出していると、直ぐにも取って返してもう一度観たくなる。

これが友枝さんの魔力(いや魅力か)なんですよね~。わかりますわー。謡はなかなか全ては聞き取れませんね。私はそれでいいかと思っています。あんまり意味を知らないほうがいいかなーとも。
歌舞伎座のようなパンフレットで意味ばかりを追っていると、舞台で何が起きているかわからずに、うっかりすると、ずっと膝の上のパンフを見ているうちに終了なんてこともあるのではと思います。下手な人の場合はいいですけどね、それでも。
なんども同じ台詞をいい、拍手を求める歌舞伎と、能の違いがそのあたりにあるのではないかとも。
Commented by shimamelon at 2008-05-30 09:26
お出かけできるくらい快復なさって、何よりです。
体調の不安なときって、座ってることも辛いときありますよね。
さて、私は、お能の謡を何度読んでいっても、ききとれない。地謡なんて、本当にただのBGMとしてしか捉えていません。そこに意味があるといわれてもー!いや、あるんすよね。もちろん。
あの、話が飛びますけど、よくCMで使われている曲で「Relax」という歌があるんですけど、この歌詞知ってたら絶対CMには使えないと思うんだがなぁと複雑な思いになります。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-30 09:58
ginsuisenさん、 shimamelonさん、地謡がシテをリードするのも舞台の上での交渉であって見所ではその結果としての舞やハーモニーを楽しめばいいのかもしれませんね。
パンフレットを見ながらはやる気がないのですが。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-30 10:04
shimamelonさん、そうなんですか、ちょっとググッテみたけれどわかりませんでした。
イタリアの盲目の歌手が歌う[ITS time to say goodbye]という歌は私も好きなのですが豚児が自分の結婚披露宴の入場のときのBGMに使ったのはおかしかった。
まだ続いているところをみると歌詞を知らなかったから良かったのかも。
Commented at 2008-05-30 11:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-30 13:36
鍵コメさん、そうだったんですか!
いやあ、勉強になるなあ。ありがとう。
Commented by ecol-yoshiike at 2008-05-30 17:08 x
お久しぶりでございます。
入院されていたとのこと!!私も勤務場所がかわりバタバタしていたのですがびっくりでした。退院おめでとうございます&「えこる」の靴と「ちいバッグ」で楽しく快適なウォーキング(お散歩)で健康づくりされてくださいね♪
さてさて、time to say goodbyeお好きなんですね!!
実は私も大好きで、目白店では「サラ・ブライトマン」のCDを良くBGMにしていましたよ~♪
実は今新しい勤務場所(御徒町・吉池)で毎日CD販売コーナーから流れています。
銭湯はないかもしれませんが新しい勤務場所にもぜひ遊びに来て下さいませ。お待ちしております(^o^)
Commented by saheizi-inokori at 2008-05-30 21:58
ecol-yoshiike さん、ありゃありゃ、今日目白に行ったのになあ。
今度吉池にいきますよ。
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by saheizi-inokori | 2008-05-30 00:35 | 能・芝居 | Trackback(1) | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori