ホリエモンの手に負える玉ではなかった?日枝の凄さ 「メデイアの支配者」(上下) 中川一徳(講談社)


ライブドアとフジテレビのニッポン放送の支配権をめぐる70日間の手に汗握る抗争。早くも半年過ぎようとしている。このノンフイクションを読むと、あの騒ぎがフジサンケイグループ(日枝体制)の歴史から見てどういう意味を持っていたか・なぜホリエモンはつけ入ることができたか、がよく分かる。当時ホリエモンは”行儀が悪い”などといわれたが、実は日枝サンの方がずっと行儀の悪い人だったことも。

社会の公器という名のもと、税金面・公有地の取得など、さまざまな庇護を受けながら実は私利を追求し、覇権を目指して成長してきたフジサンケイグループ。その原動力は徒手空拳、度胸と才覚であたかもオーナーであるかのようにグループの”議長”という支配者になり世襲を企て成功する鹿内信隆・春雄親子。信隆の野望は美術に対する理解者としての国際的な声望も手に入れほとんど達成するかに見える。

それにしても陸軍でのすばしこい動きから始まり戦後の経済復興の流れの中でナントまあ、ようやるものよ。しかし得意の絶頂で春雄が若くして急死。やむを得ず娘婿の宏明を興銀から無理やり引き抜き養子として議長の座につける。そこから信隆の周到と思われた布石・シナリオが崩れ始めるのだ。
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宏明はそれまでの信隆・春雄路線とは違う感覚で合理的・国際的展望にたったグループ経営を目指そうとする。新聞業界の恥部とも言うべき販売の悪慣行や不祥事を司直に委ねて膿を出そうとする。今まで信隆もその配下も決してやろうとしなかったことだ。

そこに立ちはだかるのが日枝フジテレビ社長。4年以上もかけて宏明追い落としの作戦を練り包囲網を作り上げる。産経新聞社の取締役会で突然の宏明会長の解任決議。取締役会の召集通知の記載事項は宏明宛のものとそのほかの取締役宛で違うものにするなどの詐術も駆使する。本書は日枝によるクーデターの記録から始まる。スリルに満ちたフイクション顔負けの陰謀の勝利だ。

日枝やクーデターに組した者たち(流れがどこに向かうかをすばやく察知してそそくさと宏明を裏切るもの、亀淵なども含めて)は、信隆たちの側近としてフジサンケイグループを育てあげて来た。と言うことはフジサンケイの負の部分も彼らがつくってきたのだ。しかし宏明を血祭りに上げると全て口をぬぐい、あることないことを言い立てて宏明の復権を許さない。クーデターの後13年間の暗闘が続く。

本書は日枝と宏明の戦いで始まり、筆を転じ、信隆がどうやってマスコミの権力の簒奪者になりおおせたかを戦中から丹念に記す。そして、絶頂、春雄、宏明、クーデター、日枝の天下、最後にホリエモン騒動。本書の最後に著者は言い切る。

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屈辱感と欲求不満の二人(注・日枝と堀江のこと)が一時的に手を握ったところで・・(中略)・・どのように収斂するにせよ、日本の戦後史に徒花のように咲いたフジサンケイグループの事実上の崩壊が音立ててはじまったのである。その賑々しさは、このグループに相応しくもある。しかし、一人ひとりの営みに耳を澄まし、鹿内家三代と日枝久の暗闘の結末がこれかと思えば、響いてくるのは哀調を帯びた音色かもしれない。


社会の公器たるべきマスコミがその原点を忘れて権力者の野望達成の具になっていく醜悪な姿。それを論評もできないメデイア・ジャーナリズム、メスを入れられない検察当局。著者の怒りが伝わってくる。フジサンケイだけに限られた話ではない。現代日本のマスコミに通有の病状だと言いたいようだ。

60年を経た戦後のひとつのありようだ。俺はそう思う。

あとがきで著者が書いているが宏明と日枝の戦いゆえに信じられないような内部資料が大量に著者に両陣営から漏らされた。まるでその場に立ち会っているかのようなやり取り・司法関係の調書・会議の非公式発言・・。

息をもつかせず読ませる。フジサンケイは訴訟を起こさないのだろうか?活字メデイアの影響力なんて大したものじゃないから黙殺?じゃあ映画化?TVドラマ化?電通もあまり嬉しくないだろうなあ。郵政(総務省)や東京都も。そうそう鹿島も。みんなそっとしておきたいだろうなあ。

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by saheizi-inokori | 2005-09-05 21:31 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(0)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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