俺も吉原に行ってみたくなったぜ(うそうそ) 第5回「黒談春」(紀伊國屋ホール)

月に40日も吉原に行くって?
そうさ、一日に二度も行く日があるんだから。

どうにも止まらない若旦那のことを心配した番頭さんが意見をする。
分かった、これから月に一度にするよ、ってえからホッとしてよく聞けば、なんと月に一度行かない日にするよだってぇ。

番頭が吉原の良さを知らないとみてその魅力を語ろうってんでまず吉原への行き方をしゃべる。
川からと陸からとふたァツ行き方があるんだと云って柳橋から猪牙舟(チョキブネ)に乗り込んで北へつ~っと上っていく様を、チョキブネの名前の由来からその舟が速いから舟からタチションベン出来る男は随分遊んだ男だ、などと両岸にみえる「首尾の松」やら土手八丁、モノや地名、その由来をぺらぺらと、まるではとバスのガイドだ、若旦那。

このあたり、言葉の流れと意味の繋がり、川の流れのように滑らかにイメージが浮かんでくるようでなくっちゃ噺家は落第だ。
談春、吉原の灯が消えてから東京に出てきた俺でもわくわくするような躍動感があった。

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志ん生の十八番だったこの噺、今日談春はネタおろしだ。
俺が持っているテープは、志ん生が倒れた後の音源でちょっとテンポが緩いし舌がもつれる感じもあるけれど、彼のこの噺に対する愛着が感じられる。
談春がやった道中案内のところは志ん生は吉原田圃をあるって行くって話から田圃の蛙たちが俺たちも人間のように一度遊んでみようと、「アオ」、「殿さま(背中の筋の様子がいいよ)」、「アカ」、「エボ(あいつはきたねえなあ)」、、連れだって(立ち上がって)吉原を冷やかしに行くという大傑作な枕になっている。
いい女がいるってンで若い衆に名前をきくのだが(蛙がだよ)
そんな女は家にゃいませんぜ。
蛙は目が後ろについてるから立ち上がると後ろの店の女のことだった、なんて。

さて、談春。
そんなにいい女がいるならいっそ身請けして囲ったらどうです
番頭がいうと
ダメなんだ。俺は女じゃないんだ。吉原っていう場所がいいんだ。
「ぞめき」、ざわざわと冷やかして歩く。それがいいってんだね。

しょうがないから家の二階に吉原そっくりの街並みをつくってあげたらどうかってことで腕っ利きの大工・職人が集まって金に糸目はつけないで吉原そっくりを二階に作り上げる。

古渡り唐桟に手ぬぐい(夜露は毒だから頬っかむり)で支度をして、出来上がった二階へ、トントントン、上がって襖を引きあけると
すげ~ェ!
忽然と現れたアナザーワールド。
衣紋坂があって脇にはちゃんと見返り柳がある。
大門を入ると、四郎兵衛会所があって、右が江戸一(江戸一丁目)で左が江戸二、間が仲の町を行くと茶屋が軒を連ねて灯がきれいだあ。
堺町、角町、揚屋町、京町一丁目に京二、名だたる店も、ぜ~んぶ揃ってる。
そうだ、いいことォ考えた。今度ここで花魁道中をやろう。ナンたって「道中」ってのは東海道中とこの吉原しかいわない。なぜ吉原かっていうと江戸町から京町まで続いているからで、、
有頂天になって二階の吉原を歩く若旦那。
(ここも薄っぺらく嘘っぽくなると聴いていられなくなるところだ。)

でも、やっぱり人っ気がないのがチョトさびしい。
まあ、いいか、大引け(午前2時)過ぎだとこうなることもあるから、そのつもりで
まことに素直な男だ。
その内、客引きの男が現れ、それをあしらい、上がっておくれ、誘う女がいてこれもやり過ごし、、(このあたりが「ぞめき」の真骨頂、醍醐味なんだろうな)して
忙しいね、ひとりで全部やらなくっちゃ
このクスグリ、志ん生もやっている。

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やがてぞめきも熱を帯びてくる。
お茶をひいた(客にあぶれた)女に煙草をもらいながら「目が細くて皺かと思った」などと悪たれてションベンするもんだから女が怒る。
タバコ泥棒!

泥棒たァなんだ客に向かって!

フン、金を払うから客だよ。
お前のようにお足もない奴は泥棒で沢山だい

なにうォ~
止めに入る若い衆、花魁、収まらないからあっちこっちから集まって来て、喉元絞め上げられたりわめいたり、ひとり何役?大変な騒ぎだ。

下にいた親父、「たまに家にいるかと思えば、いつの間にか友達をたくさんひっぱり込んで、しょうがねえなあ、喧嘩してやがる」。
小僧の定吉に言いつけて「上を鎮めてこい。」

定吉が上がってみるとおりしも若旦那、自分で自分の首絞めてる。
若旦那、若旦那!

誰だ、うるせい。後ろからキヤがって、、なんだ定吉か。
悪いところであったなあ。
いいか定吉、ここで俺に会ったことは家ィ帰っても親父にゃあ、黙っててくんねえ
落語は業の肯定、主観=思い込みの世界、談志の落語感そのまんまの噺を弟子の談春が大熱演、よかった。
半村良に「浅草案内」という連作集があるけれどこの噺はさしづめ「吉原案内・その1」か。

他に「花見小僧」と「お血脈」。
「お血脈」もネタおろし(初めて高座でやること)。
どちらも熱演だが今日は「二階ぞめき」につきる。

枕なしでやったこの噺。
噺自体が持っている力を引き出して演じればこの人の才能が光る。
先日の「文七元結」「札所の霊験」がそうだった。
だが、自分なりに枕を振って笑い(追っかけファンの)を取ったりするとどうもだれる。
「お血脈」は地噺でいろんなくすぐりを工夫してつないでいく噺だ。
言いかえれば噺家の人間としての力がもろに出てくる。
その点はまだこれから伸びて行くべき余地が十分にあると思った。

写真上は新橋駅西側、このあたり焼き鳥や横丁になっている。
下の「すずらん通り」は不忍通りとよみせ通りを結ぶ横丁。
どちらも未体験ゾーンだが一度行ってみたい風情がある。
こっちはホント。
Commented by henry66 at 2008-03-27 04:13
私は男性ではないし、吉原に行ったこともありませんが
「ぞめき」がいいんだ、という気持ちはたいへんよくわかります。

母が私に帰ってきてほしいと言っているのですが
もし東京に戻った際にはぜひ談春をきいてみたいと思います。
Commented by sweetmitsuki at 2008-03-27 05:27
三ノ輪駅周辺は、私が唯一、怖くて行けない場所です。
浄閑寺とかには行ってみたいのですし、実際に行ってみれば歌舞伎町なんかのほうがよっぽどいかがわしいのでしょうけど、やはり足がすくんで行く気になれません。
若旦那、博物館などに展示してある模型みたいな吉原で遊んでいるのでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-27 06:54
henry66さん、談春のチケットは早めに手配しないとなかなか手に入らないのですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-27 07:00
sweetmitsukiさん、そのあたり私もまだ行ったことがないのです。
だから本や映画の知識しかないなあ。
Commented by henry66 at 2008-03-27 07:24
佐平次さん、ではDVDかCDで我慢します。
それも特別注文限定だったりして。
Commented by knaito57 at 2008-03-27 07:50
「月に一度にする」というから“流連”で落とすのかと思いました。「一日に二度」はすごいけれど、きちんと家に帰ってくる律儀な若旦那ともいえる。競馬に入れ込んでいた時期「どれくらいいくの?」と訊かれて、私は「たいしたことない。せいぜい週2回ですよ」と答えたものです。
この噺は円歌(会長)で聴いたことがある。落語によくでてくる“吉原田圃”はそれだけで独特の情緒を漂わせますね。でも、田んぼ好きの私はあの辺が田んぼだったころを懐かしむ気分のほうが強いです。
Commented by ginsuisen at 2008-03-27 08:02
三ノ輪の馬肉料理屋さんでは、吉原の堤を馬を引いてきた田舎者がまず、馬を売って、その代金で吉原に行く。帰りは馬肉料理を食べる(なんですか、吉原病が抜ける?)というのが例だったとか。
ちょうど吉原から大酉神社に向う道は、スゴイですが、途中に一葉神社もありますー。あそこが土手で川が・・と思うと変わりましたねー。昼は、怖くないですよー。
新橋のこの横丁もおもしろいですねー。夜はなるほどお父さんの町。どこも美味しそうです。なぜか、どちらも知っている私、イヤだなー。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-27 10:12
knaito57さん、「流連」いつづけって読める人がどのくらいいるでしょう。ましてその意味となると。
この若旦那は「ぞめき」派、観るだけ冷やかしだけがお好きなようですね。それなら二度行くこともできたかもしれません。
吉原田圃、何時ごろまであったのでしょう?
あの、「とうなすや政談」、やはり極楽トンボの若旦那が「トーナス屋でござい」と情けなく呼びながら歩いたときも吉原田圃の向こうに吉原を見て妄想にふける場面がsりますね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-27 10:13
ginsuisenさん、先に食べて精をつけるんだという説もありますね。
なんか凄い話題になってきた。
Commented at 2008-03-27 13:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 散歩好き at 2008-03-27 13:25 x
一葉の「春は桜の賑はいよりかけて、亡き玉菊の灯篭の頃、・・・赤蜻蛉田圃にみだるれば横堀に鶉なく頃も近ずきぬ、朝夕の秋風身にしみ渡りて上清が店の蚊遣り香懐炉灰に座を譲り・・」四季を語った美しさに感じ昔、吉原の昼を歩きました。ソープの客になる気になっていけば感じは違うのかもしれませんが入り口入り口にいる黒いスーツの兄さんと顔を合わせないように歩くののが精一杯でした。
若旦那はどの位の金遊んだのか店も鳴り物入りで楽しかったのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-27 16:15
散歩好きさん、一葉の描いた風景はいまや夢の中でしょうね。
退廃とか衰微を味わう街になっていないかと思います。
確かめに行かなくちゃ。
Commented by lotus at 2008-03-27 18:17 x
初めて「二階ぞめき」を聴いた時、「あたまやま」と同じくらい(ちょっと規模が違うけど)シュールな噺だなと思いました。志ん生の、かえるが立ち上がっているから向かいの家の女を指名するというはなし、読んでてもおかしいです。「首尾の松」も「流連」もちゃんと広辞苑にのっていました。着物の言葉も知らないので、いつもメモしてあとから調べています。
Commented by 散歩好き at 2008-03-27 21:36 x
saheiziさん 現在、吉原はお風呂屋さんばかりですから是非入浴して来て下さい。
Commented by MAKIAND at 2008-03-27 22:55
私は、読みながら頬が緩みっぱなしです。
おかしい~ 実際に行けなくても、話を聴いて想像してるのも楽しいモンですね。^^
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-28 07:11
lotus さん、吉原行きのいでたちはさらに平袖と言って袖を切り取った着物にするんだそうです。
出会いがしらの喧嘩ですぐに手が使えるようにだって。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-28 07:12
散歩好きさん、私は銭湯専門ですよ^^。このあたりにもあるでしょうが。今戸の銭湯にはいきました。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-28 07:13
MAKIANDさん、その点、志ん生はやはりすごいと思います。短い高座でも何とも言えない味があるのです。
Commented by 散歩好き at 2008-03-28 07:56 x
日本堤の桜肉の中江にちなんで、わが師は自分の干支と尊敬する師の干支は食べてはいけないと言われました。
よって小生は桜肉は食べません。牛や鳥の干支でなくて良かったです。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-28 10:10
散歩好きさん、そうしたら親の干支、これは私は虎と犬だから問題ないけれど、などもいけないのですか^^。
サクラも旨いのになあ。
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by saheizi-inokori | 2008-03-26 23:40 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(20)

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