新年だもの 力も入るさ 黒談春(横浜にぎわい座)

新年だもの 力も入るさ 黒談春(横浜にぎわい座)_e0016828_23161013.jpg北沢・「八幡湯」。
「髪の毛の長い人は湯船に入る時ゴムで結んでください」という貼紙があるガラス戸を入ると目の前、中央に一列、右手の壁から突き当りの壁に沿ってぐるりとカランが並んでいるから高い天井とあいまって広々した感じがする。
お湯はぬるい(42度、銭湯にしてはということ)。
広いし清潔でなかなかいい風呂なんだけれど、ちょっとナンだったのは”ご注意”の貼紙が多すぎる。
カンカンに乗ろうとすると「静かにお乗りください」。
脱衣所の洗面台には「ハミガキ。タオルのゆすぎは中でお願いします」。
浴室を出ようとすると「身体をよく拭いて、、」はどこの銭湯にもあるけれど「タオル、手ぬぐいなどを足拭きの上で絞らないでください」。
他にもいたるところの柱や壁に諸々の”ご注意”が貼ってあって、気の小さな俺は首をすくめて入浴した次第。
いわば「小言幸兵衛」さんの経営する銭湯だ。

首をすくめて入っても気持ちはよくなる。

横浜・「にぎわい座」で「黒談春」。
風邪を引いて咳が止まらない小雪さんが開口一番、「小町」をやる。
女性の前座をみるのも初めてではない。
隣りでパリパリいい音をさせて煎餅を食べている人がいる。
みたら若い女性、そのうち「エビスビール」をグビッとやる。
ツレはいないようだ。

談春は初夢のことなどから談志の正月の酔態について話す。
なんと暮れに見た「金玉医者」を踏まえて談志が自らそのマンマ「金玉医者」状態(患者に謹厳実直、とてもいい説教をするのだが、己が一物がはみ出してみえている)だったというのだ(なお、この噺は絶対に外で言わないでくれと談春が云ったので、その点よろしく)。
「黒談春」、談春のデイープなファン向けの独演会だけあって、身内で楽屋噺を一緒になって笑えることを喜ぶ人たちがたくさん来ている。
マ、楽屋に通じていなくとも笑えないことはないけれど笑いの濃度が違うだろうな。

最初は「棒ダラ」。
薩摩侍?の野暮な飲みっぷりを戯画化して冷やかした噺。
江戸っ子の威勢のいい啖呵をどれだけかっこよく聴かせるかが命。
いささか力が入りすぎた嫌い(江戸っ子の啖呵なんて俺も知らないがいくら威勢がよくても力が入っては野暮だろう)はあるが、精進を買おう。
文句を云っちゃいけない。
今、これだけの啖呵をやれる噺家ってどれだけいるだろう。

なんでこの噺が「棒ダラ」というのかが良く分からなかったので後で調べたら野暮とか酔っ払いのことを言うのだと。
噺の中で喧嘩の仲裁に入る料理屋の板前が作っていた料理が「鱈もどき」だというのに引っ掛けたらしい。

中入り後、「妾馬(めかうま)」、「八五郎出世」ともいう。
これまた江戸っ子の啖呵と侍言葉のやりとりが目玉で、正月らしい目出度い演目。

殿様に目をつけられてお屋敷奉公にあがった長屋住まいの娘「おつる」に男の子が生まれた。妹とは同じ腹から生まれたとは思えないような”生まれゾコナイ”(と当の母がいうのだ、談春の演出では)の兄貴「八五郎」が羽織袴に身を正し、心は正しようもないからマンマで殿様にお目通りする。

今の感覚からすると「許せな~い!」状況ということになっているが、大家さんや母親は「おつるがエライ出世だ」と喜ぶ。
身分違いになってしまっても親は親、兄貴は兄貴という当たり前の感情をどう表現するかもこの噺のもう一つの眼目だ。
談春はそこのところを随分角ばってやった。
いわば「けしからん、許せない」の現代感覚を強調したのかもしれない。

新年だもの 力も入るさ 黒談春(横浜にぎわい座)_e0016828_23175348.jpg志ん生だったら25分くらいでやるところを50分以上やった。
今までに聴いたこともない演出。
特に志ん生などは短くやる、お屋敷に行く前のところだけでも30分近くやったから「妾馬」の(上)(この噺は普通は上だけで終えるのだ)の、その又(上)で終わるのかと思ったくらいだ。

俺はこの噺は「けしからん」という感情よりも少々の羨ましさをスパイスにした、喜びの感情でおおらかにやった方が好きだなあ。
親子・兄妹の肉親の情はさらっとやっても十分に滲み出てくるんじゃないだろうか。

銭湯がやや理屈っぽい安逸だったから談春もそれに合わせたのかも。

写真下は野毛・「麺房亭」、「紅豆のサラダ」、白ゴマが香ばしく柿も入っておいしい。
オリーヴオイルがいい塩梅。
きれいでしょう。
Commented by asuno-kazemachi at 2008-01-09 10:26
うちの近所の銭湯には、「バスタオルを浴室に持ち込まないでください」とか「浴室の中で飲食はお断りします」なんて書いて貼ってありまして、最初見たとき、なんじゃこりゃ?と思いました。
でも、書いて注意をしないと、やる人がいるってことですよね。
日本人は、今、マナーやエチケットの「マ」の字、「エ」の字の書き方から、順に言われないと、自分の頭で考えたり判断することができなくなっているのです。
(実際、バスタオルを巻いて、湯舟に浸かろうとする若い女性に注意したことがあります。)
Commented by gakis-room at 2008-01-09 11:08
温泉の湯船に水着で入る修学旅行生の話を聞いたことがあります。
Commented by saheizi-inokori at 2008-01-09 13:31
asuno-kazemachiさん、なんとも情けないですね。
昔はそうやって注意する人がいて子ども達はマナーを身につけていったのに。
今は(私も含めて)触らぬ神で、みてみないふり。
もっとも私の銭湯タイムではおじいちゃんが多いからあまりそういうところは目撃しませんが。
Commented by saheizi-inokori at 2008-01-09 13:33
gakis-roomさん、それは恥ずかしいからなのでしょう。
裸を見せるのも恥ずかしい。
仲間がみんなそうするから裸で入るほうが恥ずかしくなる。
Commented by molamola-manbow at 2008-01-09 14:14
エビスビールの煎餅女、笑いが止まりません。
「うるせ~、ここを何処だとおもってやがる」と言われちゃうオンナ、「ちら見」で許しちゃえるオンナ・・・・・。
アハハ、いろんなタイプが居るからな~。
醜美じゃない、年でもない、許せるタイプ!
その時のsaheiziさんの顔、失礼ながら・・・・・。
また笑いが込み上げてきた!
Commented by 散歩好き at 2008-01-09 14:30 x
江戸っ子は薩長は嫌いかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2008-01-09 23:04
molamola-manbowさん、いい図でしたよ。
いい世の中になったなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-01-09 23:06
散歩好きさん、江戸落語は基本的に幕府びいきです。薩長の侍や役人を笑い倒す噺が結構あります。
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by saheizi-inokori | 2008-01-08 23:36 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori