蕎麦と饂飩は混じりあうのか 三響会(新橋演舞場)

去年この会にお誘いを頂いて「能だの歌舞伎だのってガラじゃないから」と思ったが「これはお囃子が主体で今年は太鼓の林英哲も出る」とおっしゃるし同席していたMさんが乗り気になったので付き合い半分で行ったのだ。

そこでお囃子の素晴らしさ、特にゲストの一噌幸弘の笛に驚いた。
もっと驚いたのは能の凄さ。去年の趣向で「安達原」の一部を歌舞伎(市川亀治郎)と能が別にやったのだが圧倒的に能(シテ・片山清司)が良かったのだ。
あれから早一年、能と、能を観たら狂言をと、どれだけ観たかなあ。
広島まで行ってしまったんだから人生何が起きるか、一寸先は明るい!
三響会サマサマだ。

蕎麦と饂飩は混じりあうのか 三響会(新橋演舞場)_e0016828_2316643.jpgサテ今年。
台風に傘をオチョコにされて、雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、新橋へと。

能楽五変化~神・男・女・狂・鬼~

神舞・高砂・武田文志 男・黄渉早舞・松虫・坂真太郎 女・神楽・巻絹・古川充
狂・楽・梅枝・武田友志 鬼・祈り・道成寺・観世喜正
笛・杉信太郎 小鼓・林光寿 大鼓・亀井広忠 太鼓・大川典良

かつての能興行は一日がかりで狂言を挟んで5番の曲目をやっていたという。
羨ましいような、お疲れさまのような。
その形式をしのんで5番立てのそれぞれを代表する曲目の舞をみせてくれた。
うっとりとした幕開けだ。

月見座頭

田中傳次郎・演出
座頭・藤間勘十郎 男・茂山逸平 男・中村勘太郎
語り・野村萬斎
笛・福原寛 小鼓・田中傳九郎 小鼓・田中傳左衛門 太鼓・田中傳八郎 太鼓・田中傳次郎
他に陰囃子、三味線、唄、筝曲と歌舞伎舞台を観るように勢揃い。
長唄ってのも言葉の通り伸びやかでいいものだなあ。

茂山忠三郎さんの狂言とはずいぶん違って華やか・賑やかな歌舞伎と能、狂言の共演だ。
でっぷりした感じの藤間座頭は堂々としてメクラと侮ってイタズラをしかける男たちを逆手にとってからかう。
ポーズを決めるとほっそりと美しく見えるのは流石。

蕎麦と饂飩は混じりあうのか 三響会(新橋演舞場)_e0016828_23165412.jpg
一角仙人

田中傳左衛門・構成 田中傳次郎・演出
一角仙人・市川染五郎 施陀夫人・市川亀治郎 臣下・中村七之助
龍神・梅若晋矢 龍神・梅若慎太朗 
笛・福原寛 小鼓・田中傳左衛門 大鼓・亀井広忠 太鼓・田中傳次郎
それにやはり三味線や唄がずらっと、
そして地謡。

長唄と謡、能と歌舞伎の融合。
美しい。
楽しい。
他では見られない豪華な顔ぶれの共演だった。
観終わってフ~っとため息がでた。

熱演に負けたのか外の雨は小降りになっていた。
M夫妻とHさんを誘って近くの店に入る。
ちょっと、のつもりが話しに花が咲き、、結局閉店間際までいました。

そうして一人になって帰るさ、シミジミとあの絢爛豪華を思い返してみた。

正直に言って俺はやはり能と狂言が好きなんだ。
削って削って削りぬいて現の姿さえ幻にして、
後は観る者の想像力との相互作用で創り上げていく舞台空間が好きなのだ。

蕎麦と饂飩は混じりあうのか 三響会(新橋演舞場)_e0016828_23181047.jpg
さっき、店へと歩きながら「今日は麺類という意味ではソバとうどんを一緒に食べたようなものかな。(結構いける、という意味で)」と云って「でもパスタじゃないよな」と付け加えたら誰かが「やってる人からすればそのくらいなものかも知れない」と笑った。
それは今日の偉業を讃える意味で云ったのだろうが。

何かを表そうとして何かを付け加えれば付け加えるほど何かから遠ざかってしまう。
能という演芸はそういう危機意識に命をすり減らし、ギリギリの表現を求めて成立してきたのだろうか。
もし、そうだとするなら今日の試みは能にとってはずいぶん辛いものだったと思う。

月見座頭は狂言だからあのどこにもない世界が感じられるので他のどんなジャンルにも表現出来ないのではないか?
だから今日は月見座頭と銘打ってはいるもののパロデイーというにはちょっと物足りない別のファース(笑劇)になったのだと思う。
それはそれでとても楽しかったけれど。

全然話は飛ぶが、昨日FMでクラシックを聴いていたら、楽器が鳴り終わるや否や「ブラヴォ~」の叫びがあった。
トンでもねえ野郎がいるなあ、と思った。
能ではシテが去り、地謡が去り、お囃子が去り、、最後の姿が消えるときに初めて拍手をする。
慣れると拍手のあり方はそれしかない、と思うようになったのだ。

写真、中は今朝の通勤路、最近は出来るだけ歩くのです。
下は江戸川橋・ソウル「クッパ」。
Commented by ginsuisen at 2007-11-02 09:04 x
すっかりはまってしまいましたねー。黒・能狂言?そして「クッパ」に惹き付けられますー。寒くなってくるとこういう汁物がいいですねー。
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-02 10:01
ginsuisenさん、仮歯の様子がおかしかったので「あまり噛まないでもいいもの」といったらこれを出してくれました。
お母さんはソバにきて体調を気遣ってくれたり料理もともかくそれがあったかでした^^。
Commented by sakura at 2007-11-02 12:18 x
長唄とお謡と能と歌舞伎の融合 だそうですね。
saheiziさんの文を読み素晴らしかっただろうな~と
心から思いました。良かったですね。
明日から京都へ姉のお謡いのおさらい会に参ります。
えらい違いですけれど・・・

Commented by polaris at 2007-11-02 12:31 x
いい道ですね。歩いていらっしゃる姿が見えるようです。
幽玄の世界に遊ぶ、という言葉は適切かどうかわかりませんが
いつも引き込まれて、2、3度読んでいます。
楽しませくださって、ありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-02 14:51
sakura さん、今頃の京都、いいでしょうね。お気をつけて楽しんでおいでください。
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-02 14:54
polarisさん、そんな事言われると嬉しくてメガネが落ちます(古いね)。
この道は桜の季節も素晴らしい。問題は車が多いこと。
環境問題の決め手は自家用車のガソリン代をめちゃくちゃあげることだと思うのですが。
Commented by tona at 2007-11-02 21:03 x
雨にも負けず、風にも負けずに出向き、能と狂言にのめり込むsaheiziさんが神々しいです。
熱中人、極め尽くす人。知らない世界に連れて行ってくださってありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2007-11-03 00:16
tonaさん、今晩は。神々しいとは恐れ入ります。
到底尽くすことは出来ませんが楽しんでいまあす。
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by saheizi-inokori | 2007-11-01 23:29 | 能・芝居 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori