今宵、国立小劇場で^^。 第471回「落語研究会」

チケットが取りにくくなっているからかネットでオークションがあったので暫く中入りでの前売りはしないという貼紙があった。
俺は会員でもないのにこうして指定席に来れるというのは、俺の識見と業界に対する貢献を評価して招待状が来るのだ。

ナンちゃって、そんなことを言ってみたいもんだ。
実はある会員がご都合が悪くなって代理で。
ホントは本人以外はいけないのかもしれないが、ナニ噺家だって代演は得意じゃないか。

今宵、国立小劇場で^^。 第471回「落語研究会」_e0016828_23491959.jpg開口、三遊亭好二郎「高砂や」
晴朗な声で伸び伸びと語っているのが心地よかった。

古今亭菊志ん「紙入れ」
今年真打になったばかり、円菊に惚れこんで弟子入りした由。
ちょっとみ、トッポイあんちゃんみたいな感じでやや野太い声でガラガラと大師匠・志ん生(菊志ん2歳の時亡くなる)のエピソードを枕にふる。
関東大震災のときにグラグラっと来たら、「こりゃ暫く酒が呑めなくなるってんで」酒屋に飛び込んで店先でがぶがぶと呑んで通りに出たらふらふらするのだがそれが地震のせいだか酒のせいだか、、という噺、これは志ん生自身がマクラで話している。
志ん生が話すとナンともいえない飄逸味とペーソスすら漂うのだが、それを説明的に事柄の面白さを伝えようとするから「へ~変わった人がいたんだ」で終わってしまう。
本題に入って突然色っぽいお上さんに豹変した。
どうやらこれが得意な人らしい。
いいんだけど、これだけだとやはりツマンナイ。
旦那にばれやしないかと青くなっている新吉や間抜けな旦那をもう少し彫り込んで欲しい。
この旦那、仮にも旦那としての貫禄のある人だ、噺のように間抜けであるはずがないように思うのだ。
ひょっとしてぜ~んぶお見通しの上で騙されている振りをしてるんじゃないか?
そんな大きさを感じさせたら凄いな。
まだまだこれから大きくなって師匠も大師匠もビックリするようになって頂戴。

三遊亭歌武蔵「タバコの火」
元相撲取りだったという噺家。
これだけよくしゃべるのであるからには確かに転業は成功だ。
底なしの大金持ちがふらっと割烹に現れてパア~っと大散財をする噺。
男なら(女も)みんな一度は夢を見るんじゃないか。
一晩でどれだけ使えるかって。
貧乏学生が、うまいもの食って呑んで芸者をあげて、、といくら架空計算しても使える金は高がしれていた。
俺が南極の氷を取り寄せてオンザロックにしてペギー葉山を呼んで俺一人のために歌ってもらい、飽きたらウイーンフイルにモーツアルトをやらせて、、などと言ったのがセイゼイのところ。

でもこの噺のお大尽は小判をばら撒いちゃうんだから雑作もないよね。
元相撲取りだけあっておおようにお金を使う風はいいのだがもう少し品が欲しかったかな。
枕で相撲取りの「タニマチ」と噺家の「おだん」、どちらも贔屓筋のことを言う。
その語源の説明までは良しとしてタニマチのキップの良さに比べて噺家が惨めだとかなりくどくどと話したのが面白いけれど本題の春風駘蕩と遊ぶ風情を殺いだように思う。
もっともスポットライトを小判をばら撒く隠居ではなく目を丸くしてそれを受け取る喜助に移せばなんとなくセコイ感じがいいのかも知れない。

今宵、国立小劇場で^^。 第471回「落語研究会」_e0016828_23514042.jpg春風亭正朝「黄金餅」
さて大ネタだ。
なんたって志ん生の十八番、あの快演を意識すると余程の覚悟がないとやれないだろう。
噺そのものも
①西念という乞食坊主が病気で苦しんでいるのを隣に住む金兵衛が見舞う。
ケチだから医者に診せずに水を飲んでは病を下らせようとしている、などと陰惨なクスグリ。
②西念に頼まれてアンコロ餅を大量に買ってきてやったらそれに隠し持ったる小粒の金(一生懸命貯めたらしい)を包んで飲み込む。金に気が残って死ねないのだ。
③全部飲み込んだと思ったら苦しんで死んでしまう。
一部始終を見ていた金兵衛は西念の腹の中にある金を取ろうと決心して菜漬けの桶を早桶代わりにして長屋のみんなと担いで下谷から麻布まで夜の葬列。
明日は働かなきゃ釜の蓋が開かない連中、徹夜で義理立てというわけだ。
ここでその道行きを言い立てるのが有名だ。
30箇所ほどの地名が調子よく並べられる。
丸谷才一言うところの日本文学伝統の道行きだ。
④着いた寺が木蓮寺。長屋の衆が貧乏の国の取り締まりだとすればこの寺は社長みたいな貧乏寺だ。
和尚はいつも酒の気を絶やさず袈裟の変わりにボロ風呂敷の真ん中に穴を開けてかぶりホオズキの化け物みたいになって払子の代わりにハタキをぶら下げ仏様もナンも金っけのものはみんな売り払ってしまったから茶碗をチ~ン。
お経が「金魚~金魚~、、、あじゃらか、なとせの、きゅうらいす、テケレッツのぱあ、、」あくび交じりでやっつける。
⑤長屋の衆を追い返した金兵衛は早桶を背中に背負って火葬場まで運ぶ。真夜中だ。
薄気味悪いけど欲と二人連れ。
火葬場で脅しつけて急いで焼かせる。
「仏の遺言で腹んとこだけ生焼けにしといてくれって」。
⑥朝方火葬場に戻った金兵衛が錆びた鯵きり包丁で西念の遺体の腹から金を取り出して懐へいれて「骨なんかいらねえ、犬にでもやっちまえ」と飛び出していく。

とまあ、凄い場面の連続、山あり谷あり、よほどの肺活量がなくっちゃ息切れがしちゃうってもの。
陰惨そのもの。
それがカラッと爆笑の連続になるのはクスグリの連続のせいもあるけれど、これほど徹底的に貧乏だとかえってスカッと突き抜けちゃうんだね。
差別とかナンだとかメンドウな理屈ぬきで開き直った人間のしたたかさが快いのだ。

正朝は殆ど「志ん生のまま」からあの独特のメリハリを少なくしてマトモにやってくれた。
そりゃあ、いつまでも志ん生や志ん朝のことばっかり言ってちゃダメだよな。
どんどんやって新しい黄金餅を焼いて欲しい。
あの志ん生の凄みは今の人の生き方では出せないかもしれないから違うアプローチがいるかもしれない。

写真上は雑司が谷「和邑」で「二色蕎麦」、せいろは新蕎麦。
下は落語研究会の前に、麹町で「冷やし狐そば」。
Commented by 散歩好き at 2007-09-29 11:15 x
「直し」を思い出しましたので紹介します。
初夏の頃でしょうかある屋敷で植木屋さんが仕事をし夕暮れに後片付けをしていると旦那に一杯やって生きなさいと言われ酒を飲むと「直し」ですね・・。旦那が奥さんに青菜を持ってきなと言うと奥さんが「鞍馬の山から九朗判官がまいりまして」と言うと旦那が「義経」にしておけ。と言う前置きで植木屋が長屋に帰って真似をする話です。
Commented by saheizi-inokori at 2007-09-29 12:29
散歩好きさん、そうですそうです。「青菜」という噺です。扇橋は小三治がこの噺をするのが好きでしょっちゅうやれやれと言うんだそうです。この「麻のれん」と「青菜」はよく似た気分の噺だと思います。柳陰と呼ばれもしたそうですね。
梅酒みたいな感じだったのでしょうか。冷やして、それも井戸で、というところが季節感。ビールをぐっと、ともやや違うしみじみとした日本家屋の陰影が感じられます。
便所の匂い(決してあの生の匂いではない)すら漂ってきます。
Commented by 散歩好き at 2007-09-30 21:31 x
果実酒は焼酎またはホワイトリカーに砂糖を結構入れて寝かして
作るのでsaheiziさんの鋭い推測どうり梅酒の様なものと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2007-09-30 22:06
散歩好きさん、すっかり涼しくなるともう熱燗ですね^^。
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by saheizi-inokori | 2007-09-28 23:54 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori