一噌幸弘笛づくし

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ヲヒヤリその16
第一夜
一噌幸政三回忌・追善演奏会

父幸政の霊をよびよせようとするかのような激しい三番叟ではじまる。
天寵を負える者どもの懐かしい楽しい祝祭の始まりだ。
さあ今宵こそ!
なんの憚りがあるものか。時も止まれ、生ける者はもとより死せる者すら現れるのは能の習い、この宇宙に在る全ての命がここに集い、神の恵みを祝ぐのだ。

小鼓頭取 曽和尚靖
脇鼓 成田達志
脇鼓 住駒充彦
大鼓 亀井広忠

直面で舞う野村萬斎の美しさ!

能管と尺八による二重奏曲「オーロラのごとく 巻雲のごとく」(大岡信「光る花」より)
幸弘の作曲。
尺八は藤原道山。

三番叟の興奮が収まり切らないうちにすうっと登場して座る位置を決めると藤原と合図をするでもなく無造作に吹きはじめる。

そうなのだ。
この人は何をしていても笛の音に満たされているのだ。
血液が身体を巡り続けるように笛が宇宙の鼓動を彼の内で囃し続けている。
だからラジオのスイッチを入れたように天才の内に流れ続けていた笛は躊躇いもなく奔ばしり溢れてくる。
アドリブのように幸弘の世界を饒舌ーと言って良いのかーそう、幼い元気な子供が初めて見た野山の喜びや不思議を息弾ませて親に報告するような、それでいてちっとも煩くはない。
むしろひたすら快い。
この可愛い天使たちのおしゃべりをいつまでも聴いていたい。
こうしてここでこんなに優しい神の手に抱かれている、そんな幸せを享受するどんな資格があったのか?
人違いだから君は出て行けと言われるんじゃないか?
能から教会音楽、バロック、フォークロア、モダンジャズ、、擬音をも交えジャンルを自由自在に軽々と飛び越える。

この事は最後にやった「一管父に捧げる『鷹の次第』」にも共通するのだ。

勿論自身の作。
飛翔する鷹が大地の霊と太古の魔物どもと呼び交わす。
いったい何種類の笛を使ったことだろう。
ケルトの角笛の大小をも途切れることなく吹き続ける。時には二本の笛を口にしてあたかも四重奏。

目をつむって聴いていると大きな鷹の背に乗って地球を經めぐっているような浮遊感に包まれる。

遠くに見える黒い森がどんどん迫って来たかと思うと一転広がる豊かな野原、急降下する。
確かに見えたぞスルスルと麦畑に這いこむ蛇の尻尾。
危ない!地面に激突、
急上昇すると目の前は360度まったき紺碧。

順番は逆になったが「半能 融 十三段之舞」も凄かった。
シテ・観世銕之丞の身体が心配になるほど囃し方はここを先途とありったけの狂乱。

ワキ・森常好
小鼓 成田達志
大鼓 亀井忠雄
太鼓 金春惣右衛門

地謡 山本順之 片山清司 若松健史 西村高夫 馬野正基 谷本健吾

脇から見ていると大鼓亀井さんの顎が外れないかと、。太鼓の激情は決して乱れない。

アンコールの拍手が宝生能楽堂に鳴りやまない。
未曾有のでき事だろう。

達志、忠雄と幸弘。
それでもまだ残っていた全てを解き放った。
腰が抜けそうな快感!

(車窓に浅間を望みつつ)
Commented by ginsuisen at 2007-09-20 14:00
fukuです。ブラボー、ブラボー、感動再びです。浅間山を見ながらでも書いておかねばというsaheiziさんの気持ち伝わるようなすばらしい文章。さすがですわー。浅間には巻雲は見えますかー。
Commented by saheizi-inokori at 2007-09-21 21:00
ginsuisenさん、モーツアルトのディヴェルトメントが重なってくるのです。ホテルのBGMで聴いたからかなあ。
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by saheizi-inokori | 2007-09-20 13:44 | 能・芝居 | Trackback | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori