ダメ男の美しい絵本 映画「街のあかり」
2007年 09月 04日
自分を客観視出来ず人との距離の取り方も分からない。
勿論悪いことも出来ず人を疑うことも出来ない。
騙されてひどい目に会う。
いつも無表情で寂しい負け犬の目。
やさしい犬のように忠実だけど孤独。
男は通りにつながれている犬に自分の姿を重ねてみたのか、ほったらかしにしている飼い主に文句を言って殴られる。
しかし怒る時には怒る。
激しく怒る。
勝目はないけれど闘う。
そんな男のダメ物語を描く美しい絵本。
カットのひとつづつをページをめくるようにうっとりと観ていく。
店や部屋の中のシーンーー窓の遠くにきらっと輝く水や明かり。
赤や黄色がアクセント。
裁判所。
実際にあんな裁判所があるのだろうか?
モンドリアンの絵のような窓がー透き通って外が見える大きな窓ーが画面一杯に広がり、わあっと眺めていると横から入って来たのが裁判官たちだ。
法服なんか着ていなかったんじやないかな。
向き合った壁は暗い赤レンガのようだったか。
窓を背にした判事との対比。
ボロ車の赤、アパートのソフア、最下層の宿泊施設の部屋
ー
豊かな人々を描くシーンよりも貧しい主人公の周りが美しく見える。
口からスーッと流れた一筋の血ですら。
それにしても煙草を吸うシーンの多いこと!
カウリマスキ監督はヘビースモーカーかも。
もうひとつ。
音楽が嬉しい。
「帰郷」「サクランボの実る頃」「ともしび」、、懐かしいメロデイーが次々と、それも古いままの唄いかただ。
勝って勢いのあるものより愚かに負けて行く者の懐かしさかな。
帰りにサウンドトラック集を買って帰ってよくみたらカウリマスキ監督の今までの映画の音楽が集めてあって、それで分かったけれど監督はいつもこういうノスタルジックな曲を使うんだ。
篠原敏武の「雪の降る町を」とか「Ogonek」なども入っている。
チャップリンの「街の灯」と良く似たストーリー、チャップリンのオマージュだ。
冒頭、街を酔っ払いたちがロシアの文豪たちの人生のありようを声高に語って行く。
誰やらが長生きしたとかプーシキンは直ぐ死んじゃったとか。
カウリマスキ、ひねりの効いた映画評論家さんに評判高い監督との印象を持っています。カウリマスキ監督の映画は未見、この映画も予告で見た限り、ダメな男の人ね、観る気起きないと持っていたのですが、saheizi-inokori さんのご感想を目にして、観たいと思いました。
よかったです。理屈じゃないなあ。
確かにもう一度みたいですね。スジではなくて映像とか会話の余韻みたいなものが素晴らしいから一度じゃ見尽くしてないような気がします。