輪舞する死 柄澤齊「ロンド」(上下)(創元推理文庫)

20年前に3日間だけあまり知られていない画廊で公開された幻の名画「ロンド」。
わずかな人しか実物を観ていないその絵がその年の絵画大賞を受賞する。
その矢先に作者・三ツ桐威は交通事故で死亡、名画の行方が不明になる。
その絵は
「死をテーマとし、死と死の表象を描いたすべての絵画の集結点」であり、それを観る人々にとっては「冥界に穿たれた穴を覗き込むにも等しい体験」として作用し、踊りの輪の中に描かれた多くの人物を通して、「古い鏡のように自らの記憶を発見する、集合的な死の肖像画」なのだ
若く優れた学芸員・津牧は三ツ桐の世界に魅入られて研究に打ち込み「ロンド」を観ることを渇望している。
彼に「ロンド part1」と題された個展の案内状が届く。
そこには「天才・三ツ桐と幻の名画「ロンド」の系譜を引き継ぐ新人の作品」と美術評論家・江栗が推薦文を書いてある。
個展会場となった江栗のマンションで津牧が見たものは江栗の死体を使って作られた名画「マラーの死」であった。

ロンド形式そのままに「ロンド」という個展はPART2から4まで繰り返されるのか?
「ロンド」に魅せられた者たちや天才三ツ桐の遺族たちが輪舞に巻き込まれていく不気味さ。
死体の描写の細密。
密室トリックが手品のように続けられる。

輪舞する死 柄澤齊「ロンド」(上下)(創元推理文庫)_e0016828_2140285.jpg
木版画家として有名な柄澤のミステリ第一作。
絵画についての評論、実作の現場、美術館の内情、美術市場の裏表などもたっぷり書き込んで小説の大事な構成要素となっている。
カラヴァッジョについての津牧の考察
カラヴァッジョはおそらく、自分の目が捕捉する限界の外側にあるものを何ひとつ信じられななかったのだろう。異常なまでの死への執心は、それが彼にも必ず訪れるものでありながら、彼の視覚に置き換えられない通過の瞬間であり、時間にも物質にも属さない。どれほど素晴らしい目を持とうと、視覚がなぞるのは骸(むくろ)という物質にすぎないのだ。
カラヴァッジョは視覚という牢獄を生き、そこから出ようとしてたくさんの鍵を拵えた。1ダースも残された彼の斬首像は、差し込むたびに折れて血を流すカラヴァッジョの鍵のように私にはみえる。
そして今テレビやパソコンの画面で死の映像が消費され続けている事に触れて
死の映像が消費されればされるだけ、等身大の死は私たちから遠退き、私たちは自らの死を喪失する。今日の人類がことごとく感染しかかっている無慈悲の眼差しー。カラヴァッジョはそれを、いち早く個人の牢獄で培養してみせた先駆者であり、不吉な預言者だったと言えはしないだろうか。
おどろおどろしいぺダンテイックな文章に飽きると
「言葉を伝えて反応を受けとめる前に、先回りで結果を読もうとしてしまう感性がネキ(恋人・タンノが呼ぶ津牧の愛称)の弱点ね」
と通俗恋愛小説の楽しさとか
小鉢はピーマンの擬製豆腐だった。赤と黄をキューブにして作り分け、鉢の底にだしとブイヨンで割ったトマトのピュレが敷かれている。特有の香りを品よく封じ込めたピーマンの甘さに切れのよい酸味が加わり、鼻の奥に留まる余韻はマスタードの隠し味らしい。どちらも夏を意識した酸味の加減と、胃を刺激する前奏としてのほろ苦さが抜群だった。
などとグルメ小説の隠し味も。
活劇場面や危機一髪脱出のスリルもありサーヴィス満点、読み応え十分、夏休みのお楽しみにお勧め!
Commented by nao at 2008-08-12 20:58 x
早速読んでみます!
カラバッジョも出て来るんですね、コレは読まねば!!
Commented by saheizi-inokori at 2008-08-12 22:36
naoさん、結構読み応えがありますよ。
この人の他の作品も読んでみたいのですが手がまわりかねています。
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by saheizi-inokori | 2007-07-27 21:53 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori