これでは試験は落第だな 松岡正剛「17歳のための 世界と日本の見方」(春秋社)

著者が帝塚山学院大学・人間文化学部の一年生に行った講義を基にしている。
はじめ著者が学生たちに予備講義をしたときに、ブツダのことや帯のこと三味線のこと、伊勢神宮、連歌、ドストエフスキー「罪と罰」、与謝野晶子、、みんな何も知らない。
これでは世界と日本の相互関係といったって、何も分かるはずはありません。(略)
そこでせめて「世界と日本をめぐる人間文化」という視点で話してみようと決意したのです。大事なことは、あえて風変わりなことでも話そうと決めました。教科書にのっていないことや、文明と文化のディテールのことも話そうと思いました。
たしかにユニークな講義だ。17歳はトウの昔の夢のような俺にも”ためになった”。

著者の方法論は”編集”。
二つ以上の物事や人間や世界観をさまざまな角度や意味あいから見て、そこから新しい関係を発見する、ことを”編集”というのだ。

二本足で立ち上がることが人間にどういう変化をもたらしたか?
そして人間はどういう物語を持ったのか?
自分たちの物語(神話)を伝え編集するために言葉が出来上がっていく。
物語は東と西では違った。

紀元前600年頃には世界中で期を同じくして宗教編集者たちが現れる。
ゾロアスター、第二イザヤ、マハーヴィーラ、ブツダ。
哲学や思索を深めてまとめた老子、孔子、荘子、ピタゴラス、ヘラクレイトス、。
西でも東でも、現実世界において新しいルールやしくみが必要になり、人間の想像力やイマジネーションにおいても大きな変革が必要になっていたから彼らがでてきたのだ。
神々の物語の伝承だけでは物足らなくて、現実の世の中や未来をどうするかが問題になってくる。
神の予言と神と人間の契約が必要になってくる。

キリスト教の成立について著者は、パウロがユダヤ教のクムラン宗団が編集しつつあった信仰を再編集し、ユダヤ教よりも先に救世主(メシア)=イエス=キリストという分かりやすいヒーローを強調することで、一気に成立していった宗教だという。
そして神、神の子、精霊、マリア、、キリスト教の理論武装=神学についてもオリゲネスやアウグスティヌスの考えたことにも触れるのだ。
、、、。

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このようにして5回の講義は17世紀までの世界の人間文化の歴史をあるときは大胆にあるときは細部について解き明かす。

古事記に書かれた神話は日本という国の成立過程についての重大な情報をもつといい、神話の構造を分析してみせる。
日本文化の特徴は、外来の素材を日本の様式に編集し直してしまう、という編集方法にある。
ただ、明治の文明開化や戦後のアメリカ直輸入のやり方には文化の編集の深みがないというべきだ。
源氏物語=貴族の「もののあはれ」が平家物語=武士に受け継がれても貴族が身に着けていた”みやび”のない悲しさ、「あはれ」は「あっぱれ」に変化していく、という指摘は愉快だ。

ルネサンスの世界観では宇宙はひとつ、神を中心にして完全に調和している。
ところがバロックでは、唯一型の宇宙観が崩れはじめマクロコスモスとミクロコスモスがふたつながら対比してくる。
バッハの「フーガ」だ。

日本では「弥生型と縄文型」、「公卿型と武家型」、「みやびとひなび」のようにたえず対照的に文化が発展してきた。「漢」と「和」、「和」のアマテラスと「荒」のスサノオに象徴されるような二つの軸で動いてきた。
、、、。
こうやってポロポロまとまりもなく書いていてもしょうがないな。
出来の悪い生徒のノートみたいだ。
帝塚山の学生と同じで俺もナンも知らなかったことを知らされた。
大学に入ってもアルバイトと怠惰に明け暮れて授業にも出ず、モラトリアム満喫の毎日だった。
今頃になって反省!
反省しつつとても面白く読みました。
副題「セイゴオ先生の人間文化講義」。

セイゴオ先生が若者に言いたかったことは、「世の中を単純な二分論で割り切ってアッチが悪いとか、日本は今あるようにしか生きていけないなどと決め付けずにいろんな情報を自分で集めて編集してみて新しい関係付けを考えて欲しい」ということ。
キリスト教的二元論が克服されるべきだということか?
Commented by shimamelon at 2007-07-06 09:55
面白そう!
今度よんでみます。
そいえば李香蘭を知らぬ学生っつう話があった、しかしその学生は「巨人 大鵬 卵焼き」のうち卵焼きしか知らなかったそうであまりあてにならない、
なんの本だったかなぁ。
Commented by fuku(ginsuisen) at 2007-07-06 10:21 x
このごろ思うこと・・名前だけは知っているけれど、本当に知っていたのだろうか、デス。いまどきの若者とたいして変わらない無知ぶり。でも、知らないことに出会うことがうれしい、このごろでもあります。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-06 11:12
shimamelonさん、巨人を知らないってエラインとちゃうか。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-06 11:14
fuku(ginsuisen)さん、この本も読み終わってコメントを書こうと思うともう不確かになっている。
読んでいるときには分かっていたつもりが書いてみるとちっとも分かっていなかったことに気がつくのです。道遠し、です。
Commented by antsuan at 2007-07-07 07:42
日本人って昔から文化や文明の翻訳が上手かったんですね。確かに明治以後は直訳が多くなり、戦後は原文をカタカナに直しただけ、「あっぱれ」じゃなくて「あわれ」に思います。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-07 09:32
antsuanさん、言語自体が二重国家だったわけですから。今は三重国家かもしれません。和語、漢語、英語。
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by saheizi-inokori | 2007-07-05 23:21 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori