恥ずかしながら勉強させていただきます 佐藤優「国家と神とマルクス」(太陽企画出版)

『「自由主義的保守主義者」かく語りき』が副題。
保守主義とは、人知を超えるところの価値を尊重するということ、自分の好き嫌いは関係なしに、現にあるところの伝統を尊重する。
自由主義的とは、自分の考えるところの保守主義に対して、違う保守主義や進歩主義の人がいても、自分に対して危害が加えられない限りは並存するという考え方。
したがって著者は旧来の右とか左の区分けにはなじまない。
「世界」や「週刊金曜日」に書き「正論」、「SAPIO」に書く。

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鈴木宗夫の巻き添えを食い背任罪で現在懲役2年6月の判決を受け上告中の著者は、東京拘置所の独房で512日間読書三昧の日々を過ごした。
6・6平方メートルの部屋で読んだ本は「新旧聖書」、宇野弘蔵「恐慌論」、ゲルナー「イスラム社会」「太平記」を始め哲学書、神学書、歴史書など212冊。
62冊の思索ノートを綴る。
彼の最大のテーマは「何故、自分はこのような無実の罪で裁かれなければならないのか?それは国家のいかなる内在的論理によるものか?」であった。
心にもないウソをつき著者に不利な証言を行うかつての同僚や上司(信頼していた)についても単に憎むのではなく何故そのような行動をエリートが取りうるのかを考察する。

小泉による新自由主義国家への舵きり、それは日本にとって決してプラスにならない。
新自由主義とはナンバーワンだけが得をする原理、アメリカだけが得をする原理なのだ。
しかし、小泉は舵を切った。
そのために従来の自民党政治、地方や下層社会に対する財源の再配分を基本とする政治の方向転換をした。
鈴木宗夫や村上正邦など従来型政治家を切って捨てる。
そのために、彼らの犯罪を作り上げたのが「国家の罠」である。
そうすることによりマスコミを通じ多くの国民は圧倒的共感をもって新自由主義を受け入れたのだ。
それが殆どの国民にとって決して得にはならないのに。
歴史は進んでいくためにそのコストを自らは支払わない。そのつけは情熱をもって現実と取り組んだ個人に払わせるのだ。
著者はヘーゲルにそれを教えられる。
太平記の記事の中に、人を裏切る人間が神話時代から存在していることが語られるのを発見する。

「日米開戦の真実」「インテリジエンス 武器なき戦争」「国家の崩壊」、「国家の罠」「自壊する帝国」などと重なる内容もあるが、資本家、地主、労働者に加えて「国家を運営し税金を収奪する」官僚を資本主義体制の重要な階級として把握すべきだとか(ついでに外務省官僚の呆れた実態も披露している)、自らの逮捕・監禁・取調べ・裁判の経験から肌身に感じた国家の暴力性・今現在の日本の司法の無法性、日本史、特に太平洋戦争をめぐる真実の歴史、、など蒙を開かれる思いをする記事が多い。

「情況」誌上におけるレーニン研究家・白井聡との対談「国家という名の妖怪」が収録されている。
残念ながらよく分からないやりとりが多かった。
専門書でもないのに。
賛否はともかく意味が分からないということは如何に俺がナンも知らずに生きてきたかを示している。情けないことだ。

活字メデイアの重要性。
映像、音声、文字の複合媒体であるテレビは人間の思考を停止させる機能がある。
活字は、それを読んでから頭にイメージが浮かぶまで、若干の時間差があり、そのことが思考することを強要する。
活字メデイアは、すべてを貨幣に換算することができる新自由主義と基本的に相性がよくない。
貨幣も人間が創りだしたもの、それに人間が支配されるのはおかしい。

こういうコメントがアチコチに埋め込まれている。
ここら辺はよく分かるし大賛成だ。
Commented by roko at 2007-06-20 23:55 x
あっ・・・
この人の本・・・読んでみたいと思ってますが・・・
その内いつか!?より、今読まないと駄目でしょうか?
只でさえ斜め45度の価値感と相方に言われているのに^^;
根底からステレオタイプの価値感が崩れ去りそうで・・・
恐い感じもしますね(^▽^;)っていうか、難しいそうで( ̄Д ̄;;
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-21 00:03
rokoさん、難しいところは飛ばして、分かりそうなところだけ読んで、そのうち難しいところも読みたくなるかも。
Commented by eaglei at 2007-08-10 16:21
はじめまして、
「インテリジェンス 武器なき戦争」で検索して飛んできました。
佐藤優さんについてもっと知ろうと思っています。
この本の記事を読んで、この本も読もうと思っています。
牢獄に入って、どんな想いで本を読んだり、考えているのでしょう?

リンク先を見たら、僕が訪問するところが多くてびっくりです。
どこかで、ニアミスしてたでしょうか^^

Commented by saheizi-inokori at 2007-08-13 18:48
eagleiさん、こめんとありがとう。旅行していたので返事が遅れてすみません。よろしく。
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by saheizi-inokori | 2007-06-16 23:45 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori