お久しぶり ゴダードさん ロバート・ゴダード「眩惑されて」(講談社文庫)
2007年 06月 10日
「周りが真っ白になってカルピスの中を歩いているようだった」とFMで誰かがしゃべっていた。
ゴダードの作品を読んでいると闇の中に不気味に響く雷音と突然漆黒を切り裂く稲妻を感じることがある。
一瞬の閃光、謎がチラッと横顔を見せる瞬間。
「闇に浮かぶ絵」「リオノーラの肖像」「蒼穹のかなた」「日輪の果て」「閉じられた環」「鉄の絆」「千尋の闇」「永遠に去りぬ」、、読んだ記録が残っているゴダード作品。
最後に読んだのが「永遠に去りぬ」で2001年5月に読後メモがある。
ほらね、便利でしょ。メモ残しておくと。
「それが何か?」って言われると困るけど。
というわけで久しぶりにゴダードとゴタイメン。
どっちかといえばパッとしない男がふとした切っ掛けで事件に巻き込まれていく。
素敵な美女がいて救いを求める。または救わなければならない状況にいる。
悪女もいてその誘惑に身を委ねたくなる。
事件は遠い過去の謎を引きずっている。
複雑に絡み合った謎だ。
その謎を明らかにすることは今生きている人々の安穏な(豪奢な)生活を土台から揺るがせることになる。
だから人々は男を騙し罠を仕掛ける。
男は誤解され、自らの命を犠牲にしても謎を解き美女を救おうとする。
と、ゴダードの基本パターンもおおむね健在だ。
上のように書くとなんだか安っぽいハードボイルドみたいだけれどそんなことはない。
重厚な筆の運びは俺のような移り気な読者にはじれったいくらい。
細かいところを味わいながら読まなくちゃ。
たとえば女性セラピス・クレアと主人公・アンバーの会話。
ゆがんだ笑みを浮かべてクレアがいった。「ストレスはさまざまな形で人々に影響を及ぼすのよ」たいていの作品がそうであるようにこの小説も前半はジグゾウの欠片が少しづつ提示されていく。丁寧に、カタカナの名前の羅列に参りそうになるけれど。
「あなたはきちんと対処しているように見えるよ」とアンバーは言ったが、彼女の一貫した冷静さを考えると、それはむしろ控えめな表現だった。
「それは単なるテクニックなの。問題を小さな解決できるパーツに分解するのよ。そんなふうにすれば、一度に一歩づつ論理的に進んでいけるかぎり、わたしにできないことはないと自分を騙せるの」
ガタゴトと頂上を目指すジエットコースター。
ドキドキしながらもまだ嫌なら降りることが出来そうな錯覚の上に乗っかって笑顔を浮かべ、スピードの遅さに不満すら漏らす俺たち乗客。
頂上を極めるや錯覚は雲散する。
行き先は分からない。このまま真っ直ぐに地に激突するかと目をつぶるとガクンと右にカーブして俺は投げ出されそうになる。
でも正直に言ってかつてゴダードから感じたあの感動はなかった。
凡百のミステリよりはるかに水準は上だけれど。
それと加地美知子の訳が必要以上に鈍重、「手はずをととのえたか」みたいな言い回しが会話で繰り返されると時代劇を読んでいるような気になってしまう。
上に引いた文章も言ってることは面白いけれどちょっと回りくどいと思いませんか?
写真は小海線「吐竜の滝」あたりの鉄橋。
訳って、大事ですねー。
今週というか先週末発売の週間文春の室井滋さんのエッセイお読みくださいませー。saheiziさんと同じような靴経験で、飛行機に乗ったようですよー。