マスコミよ、しっかりしてくれ 魚住昭「国家とメデイア」(ちくま文庫)

この人の本は「渡邊恒雄 メデイアと権力」、共同通信社会部名の「沈黙のフアイル」を読んだことがある。
どちらも(後者は瀬島龍三を描く)世にときめく力を持った男を取り上げ、並みの連中なら触らぬ神とばかりに逃げ出すようないわばアンタッチャブルな領域に切り込んで綿密な取材で容赦なくその本質を抉り出していた。
「野中広務 差別と権力」を書いた時に野中本人に「君が部落のことを書いたことで、私の家族がどれほど辛い思いをしているか知っているのか」と激しく言われて「ご家族には申し訳ない」と謝り、「これは私の業なんです」と答えたという話(この本の解説でも森達也が書いているが)を何処かで読んでちょっと感動した覚えがある。

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この本は2001年から2005年にかけて「ダカーポ」、「日刊ゲンダイ」に連載されたコラムと2005年3月、9月号の「月刊現代」に書いた「NHK番組改変問題」についての記事からなっている。

特段にディープスロートのような情報源などなくてもマトモナ注意力を働かせていたら看取できる現代の危うさの数々。
それを遠慮会釈なく具体的事実をあげて問題提起するコラムをこうしてまとめて読むと気が重くなってくる。
いっそ、彼がある種のイデオロギーに”汚染”された嘘つきでいい加減な思い込みをでっち上げているならいいのに、と思う。
それ程今この日本は危なくなっている。もしかしてもうダメなんじゃないか、と思えるほどに。

残念ながら読んでみれば良く分かるが彼は"真実"に対して素直なのだ。
左翼とか(まあ、どう考えても右翼ではなさそうだが)いう古色蒼然たるレッテルに馴染まない。
というよりそういう徒党を組むような生き方をするのが嫌いで一匹狼のフリージャーナリストになった男だと思う。
佐藤優との対談を読んでそのことがよく分かる。

NHKの番組改変問題については朝日新聞やNHKの内部から取材して、朝日記者と安倍、中川並びにNHK幹部とのやりとりを録音したテープなどの決定的な証拠を元に関係者の発言がどのように変化していったか、それとともに「報道内容に対して政治家の事前干渉があった」ことの重大性が見失われて(意図的にか)、なぜか肝心の朝日も絶対の証拠となるテープを公表しようとしない上に、それを報道する他のメデイア各社の見当違いな反応(報道の自由を守るよりも朝日の敗北を喜ぶかのごとき)などを糾弾する。

共謀罪、個人情報保護法、司法”改革”、有事法制、、確かに日本はひとつの方向を向いて動き出した。戦争に突き進んだ日本を反省して新たな民主主義の国を創ろうとスタートしたことが間違いだったかのような動きだ。
どこがどのように間違っているのかもキチンと議論されないままに流れで決まっていくような感じがする。
政治、財界、司法、行政、、総崩れ、スキャンダルの続出、どこにも凛とした使命感がなくなっている。
そういう中で一握りの人々の思惑が日本を変えつつあるようだ。

特にメデイアの権力監視機能が麻痺している。
著者が書中で懐かしがって書いている本田靖春辺見庸のような骨のあるジャーナリストが若いところに出て来て欲しいが・・きそうもないなあ。

格差社会がますます進行していくと(新自由主義の帰結として)下層の人々は生活に困窮していく。そのときの不満の捌け口として排外思想の鼓吹、悪いのは○国だ、というやり方は古今東西の歴史上よく見られた。
アメリカでも「勉強しないとイラクに行かされるよ」と本音をポロリの元大統領候補もいた。
天皇機関説は間違いだと口を揃えて言わされた時代が再来しなければいいのだが。
Tracked from 墓の中からコンニチワ at 2007-02-09 05:32
タイトル : バカだね、まったく
あの大臣、また変なことを言ったらしいが自ら「国語力が弱い」と言っているし、あのオッサンの人間観、社会観ははっきりしたのだから放っておけばいいと思うし、現に2発目については新聞はあまり騒いでいない。The Japan Timesは完全無視。しかし、なぜかテレビと野党が騒いでいる。福祉と労働に関しては国民の生活、さらに生命にかかわる火急の問題が山ほどあるのに、そっちの方はほったらかし。安倍があのオッサンをクビにしないのは、あのオッサンを残しておけば野党の目、テレビカメラ、つまり愚民の目には彼しか見えなくな...... more
Commented by 高麗山 at 2007-02-09 02:22 x
『蓑田胸喜』懐かしい名前を見て、松本清張の『昭和史発掘』にあった人物を思い出し、引っ張り出してみているうちに再読してしまった。
再度、開いてみると、「マスコミよ…」に記事内容も変わっていた。      ナ-ンと時間経過の早いこと。

それにしても、現在の“メデイア”の腰抜け振り。ぺコチャンを叩きのめしたり、言葉尻にのみ、何時までも拘泥したりしてないで“要所”を締めてもらいたいものだ!。
Commented by saheizi-inokori at 2007-02-09 08:28
高麗山さん、夕べは有楽町の「海外特派員協会」のクラブで人と会いました。おいしい料理を安くいい景色を(電気ビル20階)みながらマスコミ関係者がいつまでもにぎやかに楽しげにウタゲを愉しんでいました。その自足した表情を見ていて思わず「こんなことしてる場合か!」と叫びたくなりました。
昔のブンヤのイメージは夜遅くまで取材に駆け回り仲間内の情報交換だって安い赤暖簾で、というのが通り相場でした。本田さんなどは会社に寝泊りしていたこともあるそうです。
魚住がある新聞社の幹部から「どうしたら新聞経営はよくなるか」と問われて「幹部始めデスクワークの社員の給料を半分にして取材現場の社員を増やしたら」といったら返事がなかったそうです。
Commented by antsuan at 2007-02-09 14:48
もうマスメディアの凋落が始まっていますね。されど謀略宣伝にはまだまだ絶大な効果がある。自由主義、キリスト教民主主義の限界がここにあるようです。
うろ覚えですが、噂の眞相の岡安氏はこの魚住氏のことをあまりよく評価していなかったような気がします。
Commented by saheizi-inokori at 2007-02-09 22:06
antsuanさん、コラムをまとめた物ですから読みやすいです。ご一読をお勧めします。話半分だとしても憂鬱です。
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by saheizi-inokori | 2007-02-08 23:42 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori