寒いけれどいろいろあったぜ 世界は楽しいのかも知れない
2006年 12月 12日
コートは車の中にでも置いてきたのかな。
教えてあげようかと迷っているうちにエスカレーターに乗って行ってしまった。
区役所の出口で「ワアーワアー」って大声で叫んでいるおじいちゃんがいる。
「どうしたんですか?おじいさん。どこかお加減悪いのですか?」
尋ねると
「なにい!俺はどこも悪りいとこなんてねえさー」
「だってワアーって」
「俺ァ区役所の言う通りにしてただけだ」
おじいさんが指差す先の箱に書いてあったのは
「皆様の声をお聞かせ下さい」
(さて、ほんとの話かな)
ユグチュユモトの村の脱税酒づくりの捜査に自らのりだした税務署長の変装場面。
髭を鋏で切り取り、タールを顔などに塗りたくり、金歯を嵌め、、すっかり変わって請負師か何かの大将のやうに見えるようにした。その後もいろいろやってー
それから帽子をかぶり洋傘を持って外へ出たけれども何と思ったかもう一ぺん長靴をぬいでそれを持って座敷にあがった。古い新聞紙を鏡の前の畳へ敷いて又長靴をはいてちゃんと立って鏡をのぞいてさあもうにかにかにかにかし出した。いいねえ、こういうの。にかにか。くしゃくしゃ。
それから俄かにまじめになってしばらく顔をくしゃくしゃにしてゐたがいよいよ勇気に充ちて来たらしく一ぺんに畳をはね越えておもてに飛び出し大股に通りをまがった。(宮沢賢治「税務署長の冒険」)
4回、にかにかしているところにこの署長の生真面目な性格が出ているとは思いすごしでしょうか。