寒いけれどいろいろあったぜ 世界は楽しいのかも知れない

上着の背中に大きなホカロンを貼付けたまま歩いているおばさんとすれ違った。
コートは車の中にでも置いてきたのかな。
教えてあげようかと迷っているうちにエスカレーターに乗って行ってしまった。

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区役所の出口で「ワアーワアー」って大声で叫んでいるおじいちゃんがいる。
「どうしたんですか?おじいさん。どこかお加減悪いのですか?」
尋ねると
「なにい!俺はどこも悪りいとこなんてねえさー」
「だってワアーって」
「俺ァ区役所の言う通りにしてただけだ」
おじいさんが指差す先の箱に書いてあったのは
「皆様の声をお聞かせ下さい」
(さて、ほんとの話かな)

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ユグチュユモトの村の脱税酒づくりの捜査に自らのりだした税務署長の変装場面。
髭を鋏で切り取り、タールを顔などに塗りたくり、金歯を嵌め、、すっかり変わって請負師か何かの大将のやうに見えるようにした。その後もいろいろやってー
それから帽子をかぶり洋傘を持って外へ出たけれども何と思ったかもう一ぺん長靴をぬいでそれを持って座敷にあがった。古い新聞紙を鏡の前の畳へ敷いて又長靴をはいてちゃんと立って鏡をのぞいてさあもうにかにかにかにかし出した。
それから俄かにまじめになってしばらく顔をくしゃくしゃにしてゐたがいよいよ勇気に充ちて来たらしく一ぺんに畳をはね越えておもてに飛び出し大股に通りをまがった。(宮沢賢治「税務署長の冒険」)
いいねえ、こういうの。にかにか。くしゃくしゃ。
Commented by knaito57 at 2006-12-13 12:41
「にかにかにか」なんていう感覚は賢治らしいですね。偶然というか、結果的にというか、内田百間・山本周五郎・井上ひさしなど私が好きな作家は共通してこういうオノマトペ遣いの達人なんです。文学的には“上等”ではない表現のようですが。
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-13 13:40
knaito57さん、名前を挙げた作家が、賢治が文学的に上等でないとしたら、その文学がおかしいと思いますよ。
4回、にかにかしているところにこの署長の生真面目な性格が出ているとは思いすごしでしょうか。
Commented by tona at 2006-12-14 08:39 x
朝からお笑いを頂戴しました。
saheiziさんは殆ど噺家ですね。
梟はどこか街角にあるのでしょうか?
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-15 08:46
tonaさん、この梟は私を守るために街角にいるのですよ^^。
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by saheizi-inokori | 2006-12-12 23:39 | よしなしごと | Trackback | Comments(4)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori