栗林中将に学ぶべきこととは? 留守晴夫「常に諸氏の先頭に在り」(慧文社)(1)
2006年 12月 11日
これらに関する本をたまたま続けて「栗林忠道 硫黄島からの手紙」(文藝春秋)、梯久美子「散るぞ悲しき」(文藝春秋)、ジエイムズ・ブラッドリー「硫黄島の星条旗」と読んで、今度はこの本だ。
「陸軍中将栗林忠道と硫黄島戦」が副題。
単行本になったのは今年だが雑誌に連載されたのは平成11年8月から3年間だと言うからまだ世の中が最近のように栗林中将のことをいろいろ言い出す前だ。
著者は早稲田大学文学学術院教授、アメリカ文学専攻、1948年生まれ。
栗林中将の見事さを簡潔かつすこぶる説得力をもって描く本書は栗林中将のことを書きながら実は日本人に対する告発書である。
先日書いたように栗林中将の後輩たる俺たちは高校(旧制長野中学)時代、一度も彼の名前を聞かなかった。
著者も本を書く十数年前にアメリカの小さな大学町の古書店でリチャード・ニューカムが1965年に上梓した「IWO JIMA」という本(出版後ベストセラーになった由)を読んで、栗林中将が
武人として卓越してゐただけでなく、父親として、夫として、そして何よりも一人の人間として、實に見事で魅力的な日本人であることを初めて知ったという。
著者の怒り、告発は先ずこのことから始まる。
昭和20年3月21日大本営は硫黄島の陥落を発表する。
1ヶ月以上にわたる守備隊の「凄絶ナル奮戦」と敵兵に与えた甚大な損害、及び「最高指揮官を陣頭」に「全員壮烈ナル総攻撃を敢行」するとの栗林中将の最後の決意は日本人の心を揺さぶる。
高見順「敗戦日記」は「(大本営発表のラジオ放送を聴いて)涙がこみ上げてきた。硫黄島で怨みをのんで死んだ人々のことを考へると、安閑として生きてゐることが、何か申し訳ない氣がした。」と書き、栗林の郷土の信濃毎日新聞は論説の結びで「莞爾として死地に赴いた中将の香り高い殉國の精神に應へる道は唯一つ、百八十萬縣民が硫黄島将兵の決意と覺悟をはっきり胸に刻んで、本土接岸の醜敵を誓って殲滅することである」と書くのだ。
しかるに、著者が中将の生地、松代の書店で郷土史を紹介する本をみても中将の名前はどこにも見当たらない。中将の名前どころか硫黄島の戦闘について学生に訊ねたところ知っていたのはわずかであった。
敗戦後、瞬く間に、記憶の打ち壊しが始まっている。
東京裁判による自虐史観のせいと言う論者もいるがそもそも東京裁判の始まる前から起きた現象だ。
アメリカでは130年前の南北戦争についてすらいまだに南部連合国の正義をいう人が少なからず存在し、ソ連共産党の70年以上に及ぶ凄まじい迫害にもかかわらず、ロシア正教の信仰は忘れ去られなかったし、ポーランド人はカソリック信仰を捨てなかった。
如何に支配者が忘れさせようとしても、如何に歳月が流れても、何かを忘れようとしない民族はゐる。我々の健忘症には、他律的な要因のみでは説明できぬ、それゆゑなほさら深刻な、宿命的なまでに深刻な原因があるのではあるまいか。これがこの本の問題提起だ。
福沢諭吉は”他人の手前ばかり気にして相手次第でどうにでも態度を変える日本人の国民性を「ゴム人形」と評してからかった”が平成の今も我々は「ゴム人形」なのだと著者は慨嘆する。
福沢は「俺はいつも猿に読ませるつもりで書いている」とも言ったそうだ。
その所以を栗林中将の見事さを述べることにより際立たせて書いたのが本書だ。
跋文(あとがき)で著者はイーストウッドの映画のことや梯さんの本のことを知り、自分が連載を続けていた頃から見ると驚くべき変わりようだ、と言い、
けれども、栗林や硫黄島戦が注目されるやうになって喜ばしい、とばかりは云ってはゐられない。・・(略)自戒もこめて云ふのだが、アメリカが話題にするしないに拘らず、日本人として忘れてならぬ事柄があり、真摯に考へ續けねばならぬ問題がある。栗林中将の生涯や硫黄島戦から學ばねばならないのは、正にそのことなのである。と書いている。
これから少しづつ書いていこう。他の記事の間になるかもしれないが。
アメリカ人監督で恐らく此処まで日本人の心情を細かく表現した監督は居なかったと思うし イーストウッド監督の人間としての懐の深さと監督としての才能は凄いなと改めて思いましたね。「父親達の星条旗」もそうでしたが...全体にトーンを押さえ、淡々と静かにピアノの...... more
TB&コメントありがとうございました。
実はこの本はアマゾンで「玉砕司令官の絵手紙」と「散るぞ悲しき」「闘魂 硫黄島」とCDを沢山購入し過ぎて(笑)予算オーバーになりウイッシュ・リストに入れた書籍でした(;へ:)しくしく・・・・
早速、武田 百合子さんと一緒に購入します。
いつもながら・・・やはり、目の付け所が凄いですし、勉強になります。
教えて下さりありがとうございました。
でも・・・夜更かしは身体に毒ですのでお控え下さいませ。
(少し、お酒もです・・・北国からちょっぴり心配しています(笑)
でも...saheiziさんの情熱、素晴らしいと思います♪
また・・・色々ご指南下さいませ。
この本でサピオ疑惑は雲散霧消した気がします。あり得ないと思いました。バロン西のこともちょっと出てきます。
でもなんといってもソクラテスからメルヴィル、いろんなところから日本を論じるのが凄いです。3000円、高くはないです^^。百合子さんもいいなあ。
どんな状況下にあっても、人間性を保ち得た人々がいたというのに、とても救いを感じました。
と、同時に、あんな悲惨な状況を長々と続けさせた元凶は何処にあったのだろうとも思いました。
硫黄島のことも、栗林さんのことも、、、知りませんでした。というか、知らされていなかったのですね。
シーサイド改めotayoriです。
「何?」
「真珠湾攻撃の日だよ。これで戦争が、はじまったんだって」
学校で先生に教えてもらったようです。硫黄島の手紙のことも興味があるようでいろいろ言ってます。伝えてくれる人がいないとこの悲しみは、わからないだろうとしみじみと思いました。
とても気になる本です。
武田さんと大岡昇平は親友、別荘も近くだったか。レイテ戦記の作家。
知らないこともいっぱいありますが、知っていることは伝えなくてはと私も同感です。 しかし、何で本当の軍人が無駄死にしなければならなかったんでしょう。外国人が評価する前に日本国民が評価しなかったことがすごく悲しいです。
そういう国なのだと思います。残念ですが。
先の大戦で亡くなられた方々の
貴い犠牲の上に、自分たちの繁栄が成り立っているといった
謙虚さをなくしてしまったと。常日頃から感じています。
現代日本の、崩壊寸前といった姿も
先人への感謝の気持ちを持たずに
自分達さえ楽しければいいといった、刹那的な人が多いことの
反映の様な気がします。