ブッシュよ!読んだらどうか 猿谷要「アメリカよ、美しく年をとれ」(岩波新書)
2006年 08月 30日
一年間に脊椎圧迫骨折で4度も手術をする中で書かれた。
著者が”半世紀以上にわたる私のアメリカ心象風景”をエッセイ風に書いたというように筆致は軽妙で淡々としているが内容は重い、悲痛な問題提起だ。
アンチ・アメリカ陣営からではない親・アメリカ陣営の大御所からの発言・しかも豊富な知識を元になされた苦言だ。
1776年アメリカが独立したとき人口は400万人(日本3000万人)先住のインデイアンが300万、領土も大西洋岸13州、小さな国だった。
初代大統領、ジョージ・ワシントンと230年後のジョージ・ブッシュの人間を比較してみると
二人のジョージの大きな違いに、私は歴史における進化の概念を簡単に信じることができない気持ちに陥る。独立戦争に勝利したときに部下がワシントンに「国王」になるよう進言するが、峻拒され逆に強く戒められる。デモクラシーの国としての誕生秘話だ。
しかるに今のアメリカは「帝国」という呼称が定着したようだ。
それと同時に、かつてあれほど世界から愛され好かれた(農地解放、財閥解体、平和憲法、女性の参政権、アメリカ司令部が日本の戦後に果たした役割は大きいし、アメリカの文化・生活は魅力的だった)のに、そのプラスの財産を使い果たし、嫌われる国になってしまった。
著者は自らのアメリカ体験(ハーヴァード、ハワイ、コロンビア、エモリー、コロラド大学などの客員研究員を歴任)を書き、アメリカの良き人々の想い出を語る。
メキシコとの戦争のさなか勝利に沸き立つ国民世論を他所に国会で反戦演説をしたリンカン(当時下院新人議員)をはじめ良きアメリカの代表者のことも語る。
アメリカの歴史のなかで先住民族やメキシコへの領有は”西部開拓”ではなく”侵略・征服”であったといい、ハワイやフイリピンの領有を痛烈に批判する。
国内にあってもおよそ人間扱いをしなかった黒人差別、いまでも20パーセントに及ぶ下層・貧困階級の存在などを”天国の中の地獄””天国の中の混沌”と呼ぶ。
そのような矛盾を抱えていることが戦争が終わるたびに”赤狩り”の嵐を必要としたのではないかという。
第二次大戦で勝利してやっと国内経済の立ち直りを見たことが”戦争を必要とする国”になったきっかけではないかともいう。
レーガンが確信犯的に福祉を切り軍事予算を突出させてから、軍事費で生きている国になってしまった。
レーガン時代の81年から87年までの7年間のアメリカの軍事費は1兆6000億ドルに達し、納税者一人当たり1万2000ドルを支出したことになり、仮に一日100万ドルをキリスト生誕の日から使ったとしても、その総額は7年間の軍事費の半分にも満たないことになる。
国内に2000万人もの人が飢えに苦しんでいるときにだ。
2003年のイギリスの統計ではアメリカ一国の軍事費は2位のロシアから14位のイスラエル(日本は5位)までの13国の合計よりも多いのだ。
こんなことが長続きするわけはない。
ジョージ・ブッシュ大統領になってそれまでの振り子がはっきり単独行動主義にふれた。
京都議定書からの離脱、ABM制限条約からの一方的脱退、イラク戦争、パウエルの辞任、
真実を伝えない戦争報道。
100年前、国内にあった反対意見を押し切って強行したフイリピンの領有は失敗であった。
そのときの議論は現在のイラク戦争をめぐる議論に似ている。
反省を忘れて武力に走ることは、その国の理性を失って、衰退への道に一歩進み始めたことをはっきりと物語っている。どんな国でも永久に覇権を持ち続けることはできない。国も創世のときから青年時代を経て老人のときを迎えることを知るべきだ。
著者はアメリカが美しく老人となるために、提言する。
アメリカは自分の老いを自覚せよ、驕りを、過信を捨てよ。
アメリカは自分が憎まれている・嫌われているという事実を認識せよ。
そして軍事力に頼るのではなく今でもそれなりに力のある経済力を使って国際協調・国内の貧困層対策に注力し、さらには世界の人に愛されたアメリカの文化の力をもう一度大事に世界に広げていくべきだ、という。
200頁ほどの読みやすい本だ。アメリカの歴史と政治・社会の本質を興味深く、かつ分かりやすく教えてもくれる。
教われば尚更のこと、ブッシュって困った男だと腹がたって来る。
著者も歴代大統領が辞任後好きなABCD評価をすればブッシュのD評価は間違いないという。
俺は採点不能と言いたい。落第!
分類不能なんで、ゴシップ欄を新設しました。 http://news.sky.com/skynews/article/0,,30000-1232660,00.html ↑米国の話なのに、なぜか英国のスカイニューズ社のHPに載ってます(午前8時半) Bush Whacked In Drama ブッシュ、ドラマ内で強く打たれる。 分からなかった単語 mock-shooting=偽の射撃 unfolded=織り込まれていない irresponsible=無責任な ...... more
勿論、小泉も落第でしょう。安部は落第以下。
司馬遼太郎は「美しき停滞」をこれからの日本のあるべき姿と思い描いていたようです。国民の多くも成長など信じていません。それぞれの「美しき停滞」的なイメージでこれからの日本を考えていると思います。
問題は、それが安部の「醜い逆行」に取り込まれかねない点にありますね。
阿部政権が短命に終わればいいのですが。
もう少し小さく生きていくこと、それを受け入れないとアメリカとか欲望肥大化の経済に取り込まれて結局さびしく醜い人生を送ることになるのだと思います。
そういう環境に学問を切り開いていくのは机上の学問だけでは通用しない、だから現地でのフイールドワークが多くすべて自分の頭で考え、確かめてこられたのでしょう。
それが病床にあっても(最愛のパートナーも同症)これだけ柔軟なしかも核心を突いた文章が書けたのだと、思います。
猿谷さんのこの本いずれトライします。
ハワイも元のように独立させメキシコには領土を返してやったらいいと思いまっせ。
ボン ノザマンティトプテネシー・・・デビーデビークロケットその名は永久に その頃はおごりはなかったのでしょう!