暴動よ、起きよ!壮絶・類まれな誠実さ 辺見庸「自分自身への 審問」(毎日新聞社)

脳出血で倒れ右手右足が麻痺、その上癌の発見(相当進んだ)、手術。
手術の前夜、手術三日後、医者たちの目を盗み書き綴った告発の書。

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何を告発しているか?

万物を商品化している世界市場を、
虚が実を呑みこんでいる 「恥知らずな細胞」に満ちた世界を、
人が人であること自体に狂いを生じているのにもかかわらず、あたかもロボトミー施術をされたかのように陽気に生きている人が満ちている世界を、
堀江の言うことこそ自分たちの行動原理であるのに知らぬ顔をしてきれいごとを言う世界を、
人として、当然憤るべきことに真っ向から本気に怒ると、必ずどこからか聞こえてくる、含み笑い、冷笑、安手のシニシズムに満ちた世界を、

明らかな悪ではなく善とも見える、グレー・ゾーンにいる、人々がわれ知らず犯す、むしろ良民から広く支持されたり人気を博したりする人が犯す罪を・・万物を商品化する世界ゆえに人々を巻き込む犯罪を、
殺していたことをも忘れようとする「偽の記憶」、責任を無数に分散し、薄めさって・・何もなかったことにしようとする集団的記憶と忘却(かつて日本が中国や朝鮮半島に対して犯した犯罪)を、

そして、何よりも、そのような世界にあって<人間的な非人間群>の例外たりえず、
目には見えない殺戮システムの一端をみずから知らず担いながら、同時に殺戮システムに反対したり、憂えたり、評論したり、無関心を決め込んだりする、「人間であるが故の恥辱」にまみれていながら”撃つべき対象”を明らかに出来ず、群れから離脱できない”自分”を、

「語ること、行うことの底方(そこい)における不実の罪」を犯した自分を、
それは過去、家庭を壊し多くの人間関係を傷つけたことよりも大きな罪だと。

最後にブレヒトの1938年の詩の中の「ぼくの生きている時代は暗い」を引き、今は「ぼくの生きている時代は明るいのに何も見えない」と、うめき、「不正のみ行われ、反抗が影を没しているときに」の「反抗」は「暴動」と訳されるべきであったという。
未完で終わる本書の最後の一節。
「暴動」は起きたほうがいい。見わたすかぎり眩く明るい闇を破り、本来の漆黒の闇たらしめるために,試みにいっちょう大暴れした方がいい。顔を醜く歪め、声を思いっきり荒げて、これ以上ないほど整然とした街を暴れまわった方がいい。そうしたら,敵が誰か、仲間は誰か、真正の闇がどこに埋まっているか、そこを照らす光は本物かーひょっとしたらやっとのことで眼に見えてくるかもしれない。私はこの点滴の管も、すべての延命のチューブもブチリブチリと断ち切って、縞のパジャマのまま裸足で病院を抜けだし,間ちがいなく惨憺たる敗北に終わるであろう一過性の痙攣のような暴動に、冷たい街路をずるずると這いずってでも加わるだろう。

本田靖春の「我、拗ね者として生涯を閉ず」を思い出す。苛烈・壮絶なジャーナリストの”遺言”(辺見は闘病中であるが)だ。
著者は自らをギリギリまで審問し、罪を認める。
が、しかし、彼がいかに誠実に反戦、死刑廃止、、などに東奔西走、身を挺して、それこそ家庭を壊して戦って、その結果とでも言うしかない病気を引き受けてしまったことはよく知られているのだ。

三つの病院にいてどこでも医者やセラピストが
一般に<見られる>ぼくの<見る>を想定していない。
ことに居心地の悪さを感じる。それはこの国の政治家の多くが中国や朝鮮半島を<見る>ときに、<見られている>ことをほとんど念頭に置かない、ことにも通じる。
地上ゼロメートルを土にまみれて這いずっていた脚のないベトナムの兵士・乞食が世界をどう<見ているのか>を考えないことでもある。

本当はこんな紹介を書いて済ませるような本ではない。物も言わずに・言えずにうつむいているべきなのかもしれない。
重い、厳しい本だ。

辺見さんの病苦が減ずると共に出来れば回復して「未完」をちゃんと書き上げてくれることを祈る。江藤淳の「自ら処決して形骸を断ずる」という自死を「限りなく形骸に近くなった実存の心性について表現する義務があったはず」とまことにジャーナリストの真髄をもって断じ「健常この上ない人間の形骸化とそれゆえの恥辱」があると書く辺見さんなのだ。
Tracked from 雑談日記(徒然なるままに.. at 2006-05-13 21:12
タイトル : 緊急提言、「ブログで放送しちゃうからね」大作戦。(笑)
 実は、当ココログは左下サイドエリアの下記バナーでお分かりのようにインターネット... more
Tracked from 防犯対策で安全グ多瓦髻・.. at 2006-06-03 10:58
タイトル : 米山豪憲君の事件を受け 通学路パトロールに有給休暇
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Commented by sakuraasako at 2006-05-01 23:02
「人間であるがゆえの恥辱」
「物言うな、/かさねてきた徒労のかずをかぞえるな」
それに沼沢均さんを偲ぶメッセージ中の「言葉と言葉の間に屍がある」

『審問』の中に出てくる数々のフレーズのうち、私の脳裏にこびりついた言葉たちです。
Commented at 2006-05-01 23:06
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Commented at 2006-05-01 23:45
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Commented at 2006-05-02 14:18
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Commented at 2006-05-02 14:26
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Commented by hanabi_cyu at 2006-05-02 18:09
人間、どんなになっても出来る事ってあるんですね!
難しい本は、苦手だけれどsaheiziさんに解説みたいにしてもらうとわかる気がします。
私の昨日読んだ本は、「子育てハッピーアドバイス」です^^
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-02 23:16
hanabi_cyuさん、久しぶりですね。彼の場合はできることをするために生き続けているのかな。同じことか。いづれにしても凄いですね。子育てこそ最高の仕事ですね。
Commented by naomu-cyo at 2006-05-08 22:55
 辺見さんの著作は「もの食う人々」しか読んでないのですが、あの一冊はとにかく頭にこびりついて何度も読み返しています。少なからず自分は写真を撮る人間なので、彼の指摘する事柄を読むと、「なんて自分はぬるいんだ」と思うこと度々です・・・
Commented by saheizi-inokori at 2006-05-09 08:15
naomu-cyoさん、自分のぬるさを感じさせるけれど爽やかな気持ちにもなります。そうだ、この道があるんだ、と。
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by saheizi-inokori | 2006-05-01 21:48 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(9)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori