どう死んでいくか 映画「ラッキー」 附・渡辺京二「バテレンの世紀」



きのう、病院の帰りに、たまにはうまい蕎麦を食おうと世田谷通りをバス窓からチエックしたけれど、見落としたらしく渋谷まで出てしまい、勢いで見た映画(昼飯は抜き)。
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毎朝、体操(ヨガ)をして、散歩して、カフエでクロスワードをやり、夜は行きつけのバーで哲学的な(「現実主義とは物だ」とか)雑談を、相槌代わりに罵り言葉を挟みながら、笑顔もなく真面目に楽しむ。

ある日、家でぶっ倒れるが、医者は「どこも悪くない、今まで生きてきたのだから煙草は止めない方がいい、年を取ればみんな死ぬ」という、90歳。
死ぬことが怖くなって、、。

偏屈だし、なんとなく僕に似ているところもあるが、違うところはみんなに愛されているところ。
愛されているのは、愛しているからだ。

真剣に煙草を止めてくれて、倒れたと聞くとスタッフを呼び集めて話を訊いてくれるカフェのマスターもいる。
一人だということと孤独だということは違う
家族はいないけれど、クロスワードのヒントをもらったり、幼い頃の思い出を語る電話相手もいる。
食料品店の女主人は息子の誕生日パーテイに呼んでくれる。
庭で開かれたパーテイのマリアッチ、その誕生祝いの合唱、つられてラッキーが歌う「お前を取り戻したい、今は素直になったし、謝るのもうまくなった」という歌のすばらしさ。
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ラッキーを演じるのは2017年9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン。
スタントンの人生になぞらえて描いたラブレターともいえるジョン・キャロル・リンチの初監督作品だそうだ。
エンドロールで「月に輝く奇蹟のカウボーイ・ハリー・デイーン・スタントン」とうたうウエスタンが流れる。
人生の相棒だったリクガメに逃げられて、悲しんだあげく、ある悟りに達する友人を映画監督のデヴィッド・リンチが渋く演じる。
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自分が死んだ後で遺された家族が困らないように終活をしていると、(トクトクとして)語る弁護士に
それでお前はなにか変わるのか?、、、死んでいるお前は。
ウンガッツ、ナッシング、空、、そうと知ったら?
スマイルだ。
禅的カウボーイの人生終末を相手取った西部劇、身につまされ感横溢。
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前にちょっとだけ紹介した本を読み終わったまま、読後感もアップしていない。
今日が図書館への返還期限だ。
面白かった、だけではなんのこっちゃだから、メモ代わりに最後の文章を引いておく。
17世紀のケンベルから19世紀初頭のシーボルトに至るまで、出島蘭館員は、徳川期日本の文明を高く評価しており、決してヨーロッパ文明より劣等とは見ていなかった。ところが、19世紀中葉に至って重要な変化が生じた。ペリーによる開国後来日した欧米人は、独特の美点を認めはしたが、文明の段階としては遅れたもの、劣ったものと日本をみなしたのである。
ファ―スト・コンタクト(1543年のポルトガル人の種子島漂着)は西洋優位が成立していない時代の出来事だった。日本社会はそれによって根底から揺すぶられることはなかった。しかしキリシタン騒動が明らかにしたように、彼我の思考様式の違いの問題は残った。それは明治から今日まで、我々が意識せざるをえない課題として、いまなお存在し続けている。
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(農大博物館)

Commented by j-garden-hirasato at 2018-03-21 13:48
ホームシアターみたいな映画館ですね。
それが魅力なんでしょうね。
自分はバリバリ気合が入る映画館の方が、
見た気になれます。
Commented by saheizi-inokori at 2018-03-21 17:13
> j-garden-hirasatoさん、たまにはこういう映画館でくつろぎたくなります。
Commented by pallet-sorairo at 2018-03-21 21:08
わおっ!
ワタクシもたまたまオットに誘われて
今日この映画見て来ましたよ。
彼が歌うスペイン語の歌も素敵だったけれど
うたう彼の表情もとても心に響きました。
Commented by saheizi-inokori at 2018-03-21 21:52
> pallet-sorairoさん、ラッキーな人生を送ったラッキー、あんなふうに達観出来たらいいなと思いました。
Commented by urontei at 2018-03-21 22:26
こういう老優を主役に据えて、ちゃんと映画を撮ってみせる。ハリウッドの懐の深さを感じさせる一本ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-03-21 22:51
uronteiさん、ほんとにそうですね。
しかもありきたりな死を前にした老人の描き方ではないのですから。
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by saheizi-inokori | 2018-03-21 11:33 | 映画 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori