小さな喫茶店で読むにふさわしい探偵小説 浜尾四郎「途上の犯人」

夕方、図書館で予約しておいた本を受け取ったが、なぜこの本を予約したのかが分からない。
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戦前に書かれた、乗り物を事件の舞台にした「探偵小説」のコレクション。
目次の15の短編を見ても心当たりがない。
手に持って歩くとさすがに指先が冷たい。
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駒沢公園で若い子たちがバレーボールで遊んでいる。
男の子と女の子がしごく当たり前に仲よく。
僕の頃はもっと「構えて」しまったなあ。
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多頭飼いをしている人を見ると、サンチが可哀そうな気もする。
でもあいつは人間のつもりかもしれない。

前から入ってみようと思っていた喫茶店に入る。
お、家庭的、若い女性客が二つのテーブル越しにオバアサン・ママと談笑している。
コーヒーを頼んだら、その女性がカフェオレを頼むので、ぼくもそっちにした。
ママ、足が痛いらしく女性客がぼくの分も運んできてくれる。
牛乳を飲むような背の高いガラスのコップに金属の持ち手がついている、本を読みながら飲むのにいい。
ミルクコーヒーみたいな味。
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窓際から外が見える。
ママが世間話をして女性客が聴くのを楽しんでいる。
「可愛そうにねえ、ウチはもう要らないから、あげちゃおうか、って娘にいったんだよ」、晴れ着を着られなかった娘たちを気の毒がっている。

浜尾四郎「途上の犯人」を読み始める。
東京駅を午前11時35分に出発した第33列車名古屋行の三等室、空いた車内にいる男に見覚えがある。
一昨夜、新宿から塩町までの市電の中でも見た男、あのときも今も私の顔を見つめどおしだった。

自分の考えを説明し、読者に語りかけたりする叙述が懐かしい。
三島駅を発すると、男がポケットからウイスキーの瓶を取り出し私に勧めるが断られて一人で呑む。
あゝ、ポケット瓶!
元検事今は弁護士でいながら探偵小説作家の私に議論を振っかける。
そして自分は「先生(私)」の小説のお陰で殺人を犯したと言い、話を始める。
暮れやすい春の太陽が弱い光を投げかけながら今、山に入ろうとしている。

ママと女性客の話もつけっぱなしのテレビニュースの内容も、もう耳に入って来ない。
こちらは冬、外は暗くなっている。
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ちょっと時代遅れの喫茶店で読むのにふさわしい小説だった。
トイレを借りて勘定をすますと入れ替わりのように若い男が入ってくる。
帰省先から「帰って」来た男、ママの迎える言葉が弾んでいる。
黙って差し出す小さな包みに、「いやだなあ、いつもこんなことして」。

自分の飲み物をもって座ろうとする男に「ここはみんなで手伝うんだね」と声をかけると、にっこり笑って「そう、セルフサービス、なんす」と僕のコップも下げてくれた。
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家に帰って喫茶店をテーマにした歌を探して聴いてみた。
どれも懐かしく、この小説集を読むBGMになるかも。
ここにアップしようと思ったが、うまくいかない、アドレスだけ。

「喫茶店の片隅で」
「一杯のコーヒから」
「小さな喫茶店」
Commented by sheri-sheri at 2018-01-11 15:52
素敵ですね。つい風に乗ってその喫茶店に舞い降りたいです。今の季節はちょっと寒いでしょうが。魔法を使って一瞬のうちに。喫茶店って子供の頃はなんでわざわざお金を払ってそういうとこにいくのか大人ってわからないなぁ・・と思っていました。でも今はとんでもない。・・喫茶店の存在意義良くわかるようになりました。 
図書館で借りられた御本の表紙のデザイン、色遣いどこか懐かしいタッチですね。・・・
Commented by wawa38 at 2018-01-11 19:15
晴れ着のことですが、ひどい業者だと思いますが、晴れ着を着る会ではないのですから、新成人の人たちは普段着でも参加できるのにと私は思いました。

喫茶店で本を読むsaheiziさん、かっこいいなぁ(^^
Commented by たま at 2018-01-11 22:14 x
わたし的には、さしずめ、ガロの「学生街の喫茶店」、さだまさしの「パンプキンパイとシナモンティー」と「椎の実のママへ」(※舞台はスナック・バーだったけど)、さらには、あべ静江の「コーヒーショップにて」かしら・・・?
Commented by そらぽん at 2018-01-11 22:23 x
写真の「小さな喫茶店」いい感じですね
行ってみたくなりました 
私も10年以上、通うカフェがあります 
外を通る人を眺めたり、中の雑談の音を掬ったり    
自分の住む街にいて 非日常の感覚を楽しんでいます 
 
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-11 23:23
> sheri-sheriさん、大人というよりつい最近のこと、爺さんに鳴ってはじめて喫茶店の良さを知りました。
学生時代は暖房や冷房のある試験勉強の場所でしたから。
この表紙、いいですよね。
表現主義の絵みたい。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-11 23:24
> wawa38さん、そうですね、私なんか式典に出ることすら考えもしなかったです。
でも一生に一度(じゃないか)晴れ着を着たいのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-11 23:25
> たまさん、若いなあ。
ガロは知ってますが、あとは聴いてみないとわからん。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-11 23:27
> そらぽんさん、「白石」のゆかちゃんも一度行ってみたいと話していたので先んじることができました。
10年!私は喫茶店歴がやっと2カ月くらいです。
Commented by j-garden-hirasato at 2018-01-12 05:52
こういう時間の過ごし方、
素敵ですね。
バタバタ系の自分には、
ちょっと無理かな。
Commented by maru33340 at 2018-01-12 09:14
時代に忘れられたような喫茶店で本を読む時間、私もとても好きです。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-12 09:29
> j-garden-hirasatoさん、あれだけの写真を撮るのは、バタバタではできないことではないでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-12 09:30
> maru33340さん、スタバとかカッコイイジャズ喫茶とはまるで違う世界、コーヒーもそんなにうまいわけではない、でもゆっくりします。
Commented by calligraphy_m at 2018-01-12 11:52
こんにちは
ここの喫茶店、いつも気になってました。
今度行ってみようかな
本を読むにはちょうどいい感じですね
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-12 13:05
> calligraphy_mさん、お会いできるかな^^。
Commented by at 2018-01-12 19:24 x
つくづく日本やなぁ〜って思うよ、
長いこと離れてるわ、どないなるんやろ?
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-12 21:10
> 蛸さん、まだ残っている、亡くなりつつある日本です。
Commented by ikuohasegawa at 2018-01-15 05:21
良い店にあたりましたね。
喫茶店は、大きく外れという場合もありますからねえ。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-15 07:52
> ikuohasegawaさん、いろんな方向に良い店があると散歩が楽しみになります。
足が癒えての話ですが。
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by saheizi-inokori | 2018-01-11 12:02 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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