「現実」を変える 川口俊和「コーヒーが冷めないうちに」

世田谷区立図書館のホームページがリニュアルされて、ベスト・オーダー、つまり予約数の多い図書のリストが載っている。

1・蜜蜂と遠雷 恩田陸 2206人
2・マスカレート・ナイト 東野圭吾 1077人
3・九十歳、何がめでたい 佐藤愛子 857人
4・みかづき 森絵都 851人
5・女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと 西原理恵子 820人

と言った調子で、先日Oさんにお借りして読み終わった「騎士団長殺し第二部」は13位で699人が行列している。
カズオ・イシグロの「日の名残り」(ハヤカワ文庫14位692人 中央公論社43位406人)、「わたしを離さないで」(ハヤカワ文庫21位580人早川単行本45位399人)、「忘れられた巨人」(40位416人)など既に読んだ本がこれだけの人に待たれていると、なんだか「もう読んだもんね」と胸を張りたくもなる。
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そのなかで川口俊和という人の「コーヒーが冷めないうちに」が634人待ちで17位、これをカミさんが借りて読んでいた。
新聞の広告でも目を引いていた本だ。
10日までに返さなきゃいけないというので、買い物に出かけた留守に読んでみた。

読みやすい本で3時間もかからずに読み終えた。
ある喫茶店のある椅子に座ると過去に行くことができる。
でもそれにはいくつかの面倒なルールがある。
いわく、現実を変えることはできない、いわく、その椅子から移動することは出来ない、いわく、過去に滞在できるのはコーヒーが注がれたときから冷めてしまうまで、、などだ。
笑っちゃうのは「ある椅子」には幽霊が座っていて、その幽霊がトイレに席をたった時だけ座れるのだが、普通に席を空けてくれと頼んでも通じない、無理に立たせようとすると霊力が祟り押しつぶされたようになるのだ。

どんな時にどういう目的で、そんなシチめんどくさいルールに従ってでも過去に戻りたくなるか。
そしてそれはどういう結果をもたらしたか。
4つの連作短編。

なんだか普通の小説の文体と違うと思ったら、作家は脚本家兼演出家で、本作も舞台が先、本作で小説デビューだという。
なるほど喫茶店を舞台にして限られた登場人物が「劇的な」言動を展開する劇を見ているような感じがする。
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穂村弘という歌人の書評集「これから泳ぎにいきませんか」という本、これも k_hankichiさんのブログで知って、これは買いました。
じつはこの間紹介した、川上弘美の「物語が、始まる」もこの書評集に取り上げられている。
この本の「まえがきにかえて」で、穂村は読書が楽器やスポーツと同じように趣味の範囲であるとは言い切れない理由に「読書という行為は言葉と密接に関わっている」ことをあげる。
私たちがひとつの世界に生きているというのは実は錯覚で、本当はひとりひとりの内なる世界像を生きているに過ぎないんじゃないか。そして、どうやら言葉はそのことに深く関わっているらしい。

読書という行為だけが内なる言葉を養うわけではない。でも、本が言葉の、すなわち他者の世界像の塊であることもまた確かです。私が読書に特別な意味を見出したくなるのはそのためではないか、と考えました。
「コーヒーが冷めないうちに」で劇作家は、(読書に寄ってではないけれど)言葉によって内なる世界像が激変した話をユーモアもこめて描いて、「この現実を変えたい」と思っている読者を感動させるのではないか。

サンマーク出版

Commented by テイク25 at 2018-01-09 17:49 x
どの本も待っている人数がすごいですね。
きっと冊数も多く用意してあるのでしょうけれど、我が町の図書館の、今話題!という本でもせいぜい10人と言うのとは大違いです。
Commented by k_hankichi at 2018-01-09 18:09
コーヒーの本、読んでみたいです。劇作家、脚本家の本ということで楽しみです。
Commented by tona at 2018-01-09 20:45 x
さすが世田谷区凄い人数待ちですね。驚きました。
もっとも人口が5~6倍くらい違いますから。図書館は5館しかありません。
わが市では『蜜蜂と遠雷』は360人くらいでやっと私は180番目になりました。
奥様も読書家でいらっしゃいますね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-09 20:56
> テイク25さん、16の地域図書館と、いくつかの図書室も合わせた待ち人です。
カミさんは8月に申し込んで暮れにやっと届きました。
古い本だとすぐに読めるのですがね。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-09 20:56
> k_hankichiさん、まあ、買ってまで読む本じゃないと私は思いますが、、。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-09 21:01
> tonaさん、「蜜蜂、、」は人に借りて読みました。
あの頃はそれほど並んでいなかったんじゃないかな。
身障者は10冊予約できるので私も「光の犬」が108人待ちですが、のんびり待っています。
カミさんはそれほど本は読まないのですが、この本は誰かに聞いたのかなあ。
Commented by sweetmitsuki at 2018-01-09 21:36
読書について、美智子さんも同じようなことをいっていたと思います。
生きることの難しさと他人と理解し合うことの難しさの両方を助けてれるというような内容だったと思うのですが、書いてあった本を探しても見つからず、ネットで検索しても見つかりませんでした。
せっかくいい本を読んでも、読んだ端から忘れてしまってはと反省しきりです。
Commented by j-garden-hirasato at 2018-01-10 06:36
語彙力がなさを痛感しています。
読書しなきゃなあ…。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-10 09:35
> sweetmitsukiさん、本自体を忘れても、そうしてその内容が血肉化していれば最高ですよ。
私なんか内容も忘れてしまう、でも読んでいる間の心地よい興奮は他の何かには代えがたいなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-10 09:37
> j-garden-hirasatoさん、何かを人に伝えたい、または自分でもっと考えてみたい、そんなときに「言葉」がなければしょうがない、ですね。
適切な言葉を思いついたときは嬉しいです。
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by saheizi-inokori | 2018-01-09 10:58 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori