甘ったるい話

寒くなった雨の夕方。
あちこちの灯りがつく町を歩くと、いつも。
なんとも言えない寂しい気持、さびしいけれどどこかに甘さのある追憶にとらわれる。
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その景色のなかで僕は小学生。
どこか少し離れたところに一人で遊びに行って、思いがけず遅くなってしまったのだ。
腹もすくし、寒くなってきたし、家路を急ぐ。
あちこちの家の灯りが、そこに家族の存在を示し、ときには笑い声や怒鳴り声などが聞こえてくる。
目指す僕の家には弟が一人いるか、彼もどこかで遊んでいるのかもしれない。
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家々の軒に柿がつるしてある。
大根や野沢菜が出しっぱなしの家もある。
風が出てきた。
家に母がいてくれたらどんなにいいだろうと思うが母はまだ残業だろう。
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家に着く。
弟が一人でいる。
炬燵は?ちっとも暖かくない。
布団をめくって首を突っ込んでみると火が見えない。
火箸で突っついてふ~っ、灰神楽。
ちらっと赤く火が見える。
ふ~ふ~、懸命にふいてなんとか再び活火山、炭を足す。
パチパチとはねて独特の匂い、炭団をいれて、そおっと網をかけ布団をおろす。

応急手当てで火が熾きないときは、台所の竈で最初から炭を熾すのだ。
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今、こうして寒い夕暮れの街を歩きながら甘い気分もあるのは、家に帰ったらスイッチ一つでエアコンがつくことを感じているから。
それは休日、母が在宅の、暖かな家に帰るときの感覚を思い出させるのだ。
寂しいのは炬燵のある、あの暮らしが二度と戻ってこないからだ。
「ただいま~遅くなったね」という母の声が戻ってこないからだ。
Commented by at 2017-11-15 17:12 x
幾つになっても母さんの声は甘い思い出。
Commented by そらぽん at 2017-11-15 17:39 x
「ただいま~遅くなったね」と帰ってこられてたんですね 
 それは 優しいおかあさまですね
二人の坊ちゃんが、灰神楽も厭わず 
炬燵を暖めて待っていてくれる。嬉しく帰宅されたでしょうね
Commented by テイク25 at 2017-11-15 21:27 x
火点しごろ。祖父の姿とその背におぶさって連れて行ってもらった先からの帰り道が浮かびます。何となくさびしくて甘く切ない幼いころの思い出。苦しい生活の中、一番上の孫娘の私を殊の外かわいがってくれました。
あちこちの家に灯りがともる夕暮れ時は、切ないような温かい家の中が恋しくなるような、幼い頃を思い出す好きな時間帯です。
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-15 21:52
> 蛸さん、夢では声が聞こえないのですね。
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-15 21:54
> そらぽんさん、やさしいのはやさしいのですが、炬燵をあっためるのはそうしないと凍えてしまう自分たちでした^^。
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-15 21:56
> テイク25さん、好きを通り越してたまらない気分になるのです。
Commented by sheri-sheri at 2017-11-15 23:33
今晩は。生きて歳を重ねるほど、父母が元気だったころの情景が鮮明に蘇ってくるような気がします。もしかしたら、時間的にも精神的にも向き合える今だからなのでしょうか。遠く瞬く灯りのように引き寄せては消え、又輝いて惹きつける…心を掴んで揺さぶりますね。・・・
Commented by cocomerita at 2017-11-16 02:31
Ciao saheiziさん
ほろり。。。。。涙
私も時々無性に母が足りない。と言う感覚に襲われます
例えば母のおにぎりはどう転んでもジタバタ喚こうが、もう二度と食べられない って事や、一緒に玄米茶を飲んでおしゃべりすることもできないって事や、そして私が仕事を終えて家に戻り お勝手口から入るとお台所が湯気でもうもうしてて、ご飯のいい匂いがしてて、お帰りなさいと言う母の声や、今は充分幸せだけど、母が足りない。と、、なんかそう言う時ってどうしようもない寂寥感で目がくらっとします。

私ね母が亡くなって3年 鬱でした
どうして、逝かなきゃいけなかったのがうちの母じゃなきゃいけなかったんだろう、とかね。よく考えました 苦笑

、、と書きながら、多分saheiziさんの奥様が今そう言う思いなさってるんじゃあないかなあと思いました
これだけは誰にもどうすることもできないんだけど、でもsaheiziさんが側にいてくれることがきっと凄い支えになってると思います
Commented by みい at 2017-11-16 09:21 x
おはようございます

 夕暮れ時は寂しくなりますね。
想い出は、いっぱい、これからも折に触れ思い出すのでしょうね。
Commented by 平名 at 2017-11-16 09:46 x
 炬燵は年代、場所でも違いますね、、 昔は兄弟も多い人が多いし其々に仕事をさせられた、、 喧嘩も先ず兄弟間で、、 
 でも暫くすれば悪い記憶は忘れられ、-今の境遇が好いと?!ー
まあ、今日が平穏ならば良しとしてかな??
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-16 09:55
> sheri-sheriさん、匂いとか音とかも思い出すのですよね。
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-16 09:59
> cocomeritaさん、くらっとする、わかるなあ。
寂寥感と喪失感からくる眩暈。
みんな母をなくす、自分が先に逝かなかったのは良かったと頭ではわかっていても、自分の母だけは特別仕立てだと思うのですね。
もっとも母親と仲の悪い人もいるからすべてに当てはまるわけではないでしょうが。
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-16 10:00
> みいさん、むしろ年を取るほどに思い出が募りますよ。
Commented by saheizi-inokori at 2017-11-16 10:02
> 平名さん、電気炬燵が入った時の嬉しさといったら!
家に帰るのが楽しみで走って帰りました。
悪い記憶が忘れられる、、とも言いきれないのが切ないです。
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by saheizi-inokori | 2017-11-15 11:04 | よしなしごと | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori