百合子は百合子でも 武田百合子「あの頃」

アベ、マエハラ、コイケ、アソー、、狂宴狂演。
呆れて、または「達観」してどうせあんな連中だ、誰がどうなろうと知ったこっちゃない、政治に期待することは何もない、と白け・無関心になる人も多い。
だが、それこそ彼奴らの計算された狙い、政治に無関心な国民を創り出し、戦争の出来る国に仕上げる。
ヒトラーのやり方に倣う、とアソーもいった。
北朝鮮(政治不在)では400万人とかの軍隊希望者があったという。
トランプは周りを軍人で固め、閣僚は専用飛行機を乗り回している。
目を覚ましていよう。
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百合子さんは「富士日記」を読んで、なんだか近所のおばさんのような気がする。
夫の泰淳の「司馬遷」「ひかりごけ」などの方を先に読んだのに泰淳という人物は作品の裏にしかいなかった。
百合子さんが書く日常の草ぐさを通して泰淳が血の通った屁もする笑いもする人間として立ち上がってくるのだ。
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単行本未収録エッセイ集として出版された500頁あまりの本書をニヤッとしたり頷いたりしみじみしたりしている。

泰淳が亡くなって一年後に富士の山荘に行き、夫の遺したままに散らかった机を見て、去年の今ごろの在りし姿を思い、やっと夫の死を受け入れていたのに、その人があらわれてきそうな気がする。
「あら、とうちゃん、どこにいたの。ずーっと二階で昼寝してたの?あんまり静かだったから、死んじゃったのかと思ってた」
「そうです。一寸死んだふりをしていました」
私たちは、いつものようにそんなことを言ってふざけるだろう。(「今年の夏」)
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泰淳の思い出は当然として、椎名麟三、梅崎弥生、平野健、開高健、牧羊子、吉行淳之介、、亡くなった人たちの思い出を生き生きと・あけすけに・愛情たっぷりに語る百合子さん、その百合子さんも亡くなって(64歳)24年たつ。
こうして読んでいると、みんな命を得て目の前でじゃれ合っているように感じる。
生きていてもあったことのない人たちだから、亡くなっているということを知らなければ、死んでしまうということはあまり大きな違いはないような気もする。
それは百合子さんの文章の力でもあるだろう。
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(20年近く前に携わったプロジエクトの関係者が集まった、お客様第一・現場第一をつらぬいたプロジエクトだったことを、参加した現場関係者も懐かしく語りあった)

百合子さんが書いている、泰淳に言われて「富士日記」を書くにあたっての心がけ。

〇 自分に似合わない言葉、分からない言葉は使わないようにしたいと思っている。
例「時点」「接点」「原点」「次元」「問題点」「私にとって―とは」「ー的」「出会い」など。
〇 キライな言葉は使わないようでいようと思っている。「ビューティフルな生きざま」「ヤングたち」「とんでる女」などの、女性週刊誌やテレビその他で流行らせる言葉。(略)
〇 美しい景色、美しい心、美しい老後など「美しい」という言葉を簡単に使わないようにしたいと思っている。景色が美しいと思ったら、どういう風かくわしく書く。心がどういう風かくわしく書く。くだくだとくわしく書いているうちに、美しいということではなくなってきてしまうことがあるが、それでも、なるたけ、くわしく書く。「美しい」という言葉がキライなのではない。やたらと口走るのは何だか恥ずかしいからだ。

もう一人の百合子に読ませたいくらい。
「美しい」「楽しい」などを安易に書いて済ませてしまう僕も恥ずかしい。
10月27日が返還期限、当分楽しめそうだ。

武田 花 編
中央公論新社

Commented by テイク25 at 2017-09-30 10:53 x
自分に似合わない言葉、嫌いな言葉は使わない、美しいという言葉を簡単に使わないと心がけた百合子さんと、横文字を使い過ぎる(これだけでももう信用できません)百合子さんとは本当に大違いですね。

言葉の使い方には気をつけようと思っていても、美しいとか楽しいとか(その他にもありそうですが)を多用してます。語彙が少ないのですね。少なければ少ないなりに「丁寧に」描写しなければいけないのかぁ。
Commented by pallet-sorairo at 2017-09-30 11:31
いま、予約待ち13/4番目、です。
単純計算であと2か月先には読めるかしら(^^ゞ
Commented by ginsuisen at 2017-09-30 12:19 x
百合子さま~堀田さんの名前もありますよね。
私も泰淳から入りましたー。
Commented by urontei at 2017-09-30 17:41
“本家” 百合子さんのこの本、僕は買って読みました。いいですよね。
少女のような純粋な視線で語っているかと思ったら、ふと、女の生理が生々しく顔を出す。読みながら、翻弄されるようです。

もう一人の百合子さん、僕は、こっそりと『平成のおんな斎藤道三』 と呼んでおりますが (笑)
こちらも、さっそく手玉にとられた男がいるようで・・・ 可哀想なM原くん (^^;
Commented by reikogogogo at 2017-09-30 19:24
帰国しました。
高度4000メートル電波の届かない所有り、やっと訪問です。
Commented by tihiro58 at 2017-09-30 19:27
こんばんは。

私は武田百合子さんの「富士日記」を新聞の書評を読んで購入し、百合子さんにはまってしまいました。彼女の文章はとても分かりやすく、気取りがなくて、彼女を身近に感じさせてくれるますね。

「富士日記」をすべて読み切ってから、ほかの作品もいろいろと」読みました。ご主人(泰淳さん)の本はいまだに読んでいませんが。。。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 21:26
> テイク25さん、美味しいなどもそうですね。
ブログを書く時に面倒くさがってそうしがちです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 21:27
> ginsuisenさん、まだ最初のほうだけ、これからいろんな人に会えるのが楽しみです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 21:29
> uronteiさん、後ろの年賦などを含めて私蔵すべきかとも思いますが、、場所を取るなあ。
斎藤道三はもっと内実がありはしなかったかと、なんせメデイアの提灯など無かったのですから。
Commented by koro49 at 2017-09-30 21:29
図書館で探してみます。
あればいいなぁ。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 21:30
> reikogogogoさん、お帰りなさい。
裏磐梯あたりでもスマホが不通になりましたよ。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 21:35
> tihiro58さん、旦那より面白くていい文章だと思います。
旦那もそう思っていたのじゃないかな。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 21:37
> koro49さん、短いエッセイが多いので少しづつ読むのに適しています。
当たり前の人の当たり前とは言えない暮し・ことばです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-30 22:23
pallet-sorairo さん、待てば海路の日和あり、24年以上も前に書かれた文章、少しくらい待っても輝きは失われません。
Commented by haru_rara at 2017-10-01 08:08
『富士日記』文庫上・中・下はトイレの小さい本棚に常駐しています。
『犬が星見た ロシア旅行』も大好きです。
この人はほかの誰とも比べられない。頭で書いてない。
Commented by saheizi-inokori at 2017-10-01 09:33
> haru_raraさん、そうですね、ハートと五感で書いていますね。
Commented by ikuohasegawa at 2017-10-02 05:22
絶景であった。
絶品であった。
という文にならないよう気を付けます。
Commented by saheizi-inokori at 2017-10-02 10:33
> ikuohasegawaさんの鰻評も「うまかった」だけではなくていいですよ。
Commented by hanamomo08 at 2017-10-03 21:26
富士日記で百合子さんのファンになって、この本も買って読みました。
泰淳さんが亡くなってからのエッセイが多いせいか、なんだかせつないですね。
若くして未亡人になった母の事を考えさせられました。
自分は早くに父を亡くしたと思っていただけで、母の事はあまり考えなかったのです。
百合子さんの書くものってどうしてこんなにも私たちをひきつけるんでしょうね。

談春師匠の文七元結、よかったです。
今月末は志の輔さんが来ます。
Commented by saheizi-inokori at 2017-10-04 09:18
> hanamomo08さん、私も亡母の思いを今ごろ少し気づきました。
人柄が素晴らしいです、会いたくなります(ちょっと見ぬかれそうなのが怖いけれど)。
談春、志の輔、今いちばん切符がとりにくいといわれていますね。
私にはちょっと重たいけれど、演劇的ですね。
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by saheizi-inokori | 2017-09-30 10:16 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(20)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori