大興奮!妖狐の七化け 文楽「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」@国立劇場

鳥羽院の実兄・薄雲皇子は、日食に生まれたゆえをもって帝とされず、謀反を企てている。
最大の障害だった右大臣道春が死んでくれた上に道春家に伝わる師子王の剣も盗み出し大願成就に近づいている。
癪に障るのはなんども妻になれという手紙を出している故右大臣道春の娘・桂姫が陰陽師安倍泰成の弟・安倍采女之助に恋い焦がれていて応えがない。
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(桂姫・豊竹咲寿太夫に迫られて逃げ腰の安倍采女之助・竹本文字栄太夫)

恋しさ余って憎さ百倍、薄雲皇子は鷲塚金藤次に命じて姫が従わなければ生首をとって来い!と命ずる。
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(鷲塚金藤次・吉田玉男)

金藤次は道春館に赴き、「師子王の剣をさしだすか、それができなければ桂姫の首を」と命ずる。
剣は金藤次が盗み出したものだから、差し出せるはずがない。

後室・萩の方は、じつは亡き夫と子供を授かることを願って清水の近くの三神社に三七の参籠をした帰りに、肌に雌龍の鍬形が添えられていた子が捨てられていたのを神のお告げと連れ帰り育てたのが桂姫で、その子を殺すことは畏れ多い、代わりに実の妹・初花姫の首を差し出すという。金藤次は「三神の咎めというが、薄雲皇子が神の末裔だということも弁えぬか、俺は上意通り桂姫の首が欲しい」と拒否する。
母は、では姉と妹で双六勝負をして、天道の指図で負けた方の首ということにしてくれ、となおも哀訴泣願。
影で聴いていた姉妹(おとどい)、既に白無垢で登場、どちらも相手に勝たそうと必死の戦い。
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(左・初花姫・吉田文昇、中鷲塚、右・桂姫・吉田蓑二郎)やがて姉桂姫が勝つと、妹は
心の嬉しさ苦しさ「サアサア姉様がお勝ちなされた」と首差し伸べて覚悟の体。見るに母親保ちかね『ワッ』とばかりに伏し沈む。
ところが金藤次の刀が切り落としたのは姉桂姫。
咎め詰る母に「わはははははははは、、」もうお馴染みのあの義太夫の長い長い笑いで応える金藤次、母は長刀をもって金藤次に斬りかかり、控えていた采女之助が脇腹深く突き立てる。
金藤次は苦しい息の中から、ちょっと待て聞いてくれと、
自分は桂姫を捨てた父親であること。
それを聴いては育ての恩あるお方の娘の首を斬ることはできなかった。
師子王の剣は自分が盗んで皇子の館にあるから術を使って取り返してくれ。
今際になって実の親に会いたいと言ったのがいぢらしいやらふびんやら、(首を抱いて)
コリャ娘、父(てて)ぢゃわやいやい父ぢゃ父ぢゃ父ぢゃ父ぢゃわやい。なぜもの言うてはくれぬぞ
と号泣し、萩の方も
手塩にかけた、、十七年の春秋が一期の夢であったか
とくどきたて、妹の初花も
昨日も今朝も元気だったのに、、なぜ自分を斬らなかった、、、これから(いままで一緒にやった)琴のさらへや十種香も手向けの種になってしまった
と声も惜しまず叫び泣く。
かくして四人の号泣、凄かったなあ。
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後半は桐竹勘十郎の金色の九尾狐が大活躍。
平安御所の神泉苑に現れた三国伝来の九尾の狐が、初花姫・今は鳥羽院の最愛の后・玉藻の前を取り殺し、その姿になって(狐の顔が玉藻の顔に早変わり)、薄雲皇子と「皇子が弟天皇を退けて天子になるのに手を貸そう、その代わりこと成った暁には日本の神道・仏道を破却して魔道をたてること」と、悪の枢軸同盟を結ぶ。

帝の寵愛を独占する玉藻(じつは妖狐)に嫉妬して皇后や后たちが共謀して玉藻を刺殺しようとするが不思議やな、玉藻の全身から月よりも明るい光が生じて后たち、懼れわななくのみ。

実権をほしいままにする薄雲皇子は傾城・亀菊を宮中に入れ愛の徴に八咫鏡(これを穢すことで魔界にできる)を預け、訴訟の裁きまで好きにやらせる。
傾城姿・長煙管で裁く訴訟の面白さ、「人に貸した銭を戻せというような無理があるものか」、七カ月のお女中と別れたいという公家には「身持ちになったらしょうがない、金で始末をつけなさい」とか、落語だなあ。
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(七化けの人形たち)

アベじゃない安倍泰成が師子王の剣を突きつけると玉藻前はたちまち妖狐の正体を現し那須野原に逃げていく(桐竹紋十郎は天に吊り上げられて狐が空のあなたへ)

さいごの「化粧殺生石(けわいせっしょうせき)」の楽しさ見事さ。

勘十郎が次から次へと命を与える座頭、在所の娘、雷、いなせな男、夜鷹、女郎、奴、さいごは玉藻前・変じて妖狐、それが生き生きと踊ったり見栄を切ったり転んだりシナをつけたり、、それにぴったりシンクロした、滑稽な・粋な・いずれ名のある芝居の文句かと思われる歌を豊竹咲甫太夫ほか四人の太夫が天にも届けと歌い、鶴澤藤蔵ほか四人の三味線がここを先途とかき鳴らす。
絶妙、大迫力、大興奮。
ああ、見てよかった!

中学の修学旅行でSKDを見たときのような爺の興奮だった。
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Commented by at 2017-09-12 18:30 x
読んでるだけでも興奮するなぁ、
日本がええゎ
Commented by テイクテイク25 at 2017-09-12 19:29 x
へぇ九尾の狐に繋がるお話なのですか。那須野が原に逃げてきた九尾の狐は今では「キュウビちゃん」という那須町のマスコットになっていますよ。殺生石は観光名所になっています。
文楽の演目にもなっているなんて知りませんでした。
Commented by そらぽん at 2017-09-12 20:13 x
「天にも届けと歌い、ここを先途とかき鳴らす」
想像を掻き立てられ、拝読学習させて頂きました。
まあ SKDを修学旅行で! 麗しく印象的な事でしたでしょうね

Commented by doremi730 at 2017-09-12 20:46
まるで舞台を拝見したような気分になりました。
ありがとうございました♪
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-12 21:09
> 蛸さん、これは話半分、省略した部分もいけまっせ。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-12 21:13
> テイクテイク25さん、日本人の心の中に潜在している狐の物語、駅弁でしか知らなくとも。
それを断ち切ろうとするのが戦争でありテロですね。
逆にいえば、こういう世界からのノー!こそが力強い抵抗になるのだと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-12 21:19
> そらぽんさん、そりゃあ、迫力がありましたよ。
知らなかった世界を見たSKDと文楽でした。
あのとき「糞尿譚」も見たような気がするのですが、とちゅうで出たのかも知れません。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-12 21:20
> doremi730さん、まだやってますよ。
出来たらおいでください、損はありません。
Commented by j-garden-hirasato at 2017-09-13 06:49
内容は、
かなりエグいですねえ。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-13 09:50
> j-garden-hirasatoさん、江戸時代の市民たちは、いや現代も、こういう話を喜んだのですね。
シエイクスピアだってかなりエグイといえば言えますね。
Commented by mama at 2017-09-17 23:03 x
今月の文楽は、一部・二部とも、本当にすばらしかった~。勘十郎さん、大活躍でしたね。簑助さんの登場も嬉しかったです。
しかし、saheiziさんの解説、臨場感たっぷり!よくこんなに詳しく覚えていらっしゃると、いつも驚きます。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-18 08:32
> mamaさん、二日に分けて見てよかった、無理に一日にしたら疲れるくらい充実してましたね。
いよいよ文楽にはまって、、じつは大阪に行こうかと^^。
Commented by mama at 2017-09-18 14:46 x
二部を一度に見たら、腰が痺れて動けなくなります(笑)
私を文楽に導いてくれた姉が、大阪の文楽劇場にとても感動していました。その姉も亡くなりました。saheiziさん、ぜひぜひ様子を教えてください。楽しみにしています!
Commented at 2017-09-18 15:13 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-18 21:10
> mamaさん、行けるうちが花、ですね^^。
Commented by saheizi-inokori at 2017-09-18 21:12
> 鍵コメさん、>昔の教え子!?
どこだろう、ミステリ―だな、楽しい謎だ。
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by saheizi-inokori | 2017-09-12 13:53 | 能・芝居・音楽 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori