頃は初秋 天翔ける笛の音 能「天鼓」&狂言「蟹山伏」@国立能楽堂
2017年 09月 10日
ぼくは能楽堂へ。
期待が募る。
笛・小鼓・大鼓が前奏とでもいうべき短い演奏をして引き揚げる。
笛は冒頭の「ぴいっ!」だけ。
シテ・山伏とアド・強力が登場するときにちょっと見栄を切るような所作をする。
修行を終えて、無双の力を得たと大いばりの二人の前に蟹の精が現れる。
ぴょこぴょこと橋掛かりを横歩きして指を鋏のようにしながら謎をかける。
よせばいいのに、強力が晩飯のおかずにしようと、棒で殴りかかかるが逆に耳を挟まれ、イタタイタタ。
山伏が「いろはにほへと・ボロンボロン」とへんてこな呪文を唱えるがますます強く挟み、自分も耳を挟まれる。
ナンセンスだが滑稽。
梅内さんは「なぜ山伏たちが蟹にやっつられるのか、シュールな不気味さも味わってほしい」「傲慢な態度をとる山伏が多かったので狂言で嘲弄された」と語った。
能「天鼓」
天から鼓が下って胎内に宿って生まれた子を天鼓と名付けると、その子に天から鼓が降りてくる。
その妙なる音のことを聞いた帝が鼓をさしだすように命じたが、天鼓少年は拒否して山中に籠る、帝怒って少年を川にうづめ、鼓を取り上げるが、その鼓はいっかな鳴らない。
少年の父なら鳴らせるかもしれない、呼んで叩かせろ。
と、そこまでの前置きをワキ・勅使が語り、父・王伯(前シテ)の家を訪ねる。
幕前・三の松の前が、王伯の家。
王伯は地の底からうめくようにして、延々と亡き子のことが忘れられないと嘆く。
陰々メツメツ、くどくどとクドキ。
この曲を聴くのは三度目だが、この嘆きモノローグをしみじみいいなと思ったのは初めてだ。
勅使が帝が呼んでいると聞いて、自分も殺されるのかもしれないが、それもよしと思い、そうじゃない鼓を鳴らしてみろ、といっているのだと言われ、自分でも鳴らせないだろうが、亡き子の形見である鼓と帝を拝みたいと出かける。
小尉の面の俯き加減の横顔が悲しみを湛える。
老父が鼓を打つと鳴る、驚いた老人が舞台を二度三度めぐり撥を取り落とす。
帝も感動して、父母に宝物を与え、少年を管弦講(かげんこう)で弔う。
頃は初秋の空水の上に浮かび上がったのは後シテ・天鼓少年の亡霊だ。
はや三伏の夏長けて 風一声の秋の空
夕月の色と照り添えて 水滔々と波悠々たり
感謝と喜びの舞、秋風楽。
今日も笛は一噌幸弘。
10分以上も息をつぐともみせず天上の笛を吹きまくる。
この人しかできないのかもしれない。
可愛い着物姿の子供や娘さんが休憩基地にしてにぎやかだ。
お元気な証拠。
最近、そこまで行くことが、
ずいぶんなくなりました。