近頃まれな おとなしい芥川賞作品 絲山秋子 「沖で待つ」(文学界9月号)
2006年 01月 25日
このところの芥川賞は若年者とか衝撃的な作品とか話題つくり先行の感もナキニシもあらずだったが、今回は中堅作家の地味な作品だ。作者が実際に経験した住宅機器メーカーINAX12年間の会社員生活が下敷きになっている。登場人物は普通の、真面目な大学出の総合職、初任地が福岡となった同期生の男女の物語。
かといって全くふつうの物語かといえばそうでもなくて男性の幽霊が出てくるところから話が始まる。「しゃっくりが止まら、ないんだ」と情けなさそうに玄関に突っ立っていう幽霊。
その幽霊に主人公の女性は「お腹は?すいてない?」と聞いてからなんとも言えない気持ちになるのだ。
たんたんと・イキイキと新人会社員の友情・先輩・地元女性社員などのありようを描く。背伸びするとか、何かに煩悶するということでもない。ごく普通の真面目な好感の持てる新入生だ。男性の方が職場結婚をする。
その男性が突然死んで小説は展開するのだがそれとてそう劇的というものでもない。PCの記憶を消去する・死後隠しておきたい全てが見られてしまう・といういかにも今の話が軸になってやや活劇めいたものが見られる。それに幽霊が出るのだから劇的?それがそう感じられない、まるで当たり前のように最初から出てくるのだ。主人公はちっとも驚いていない。なんとも言えない気持ちになった、だけ。考えてみればそういう事態・状況をちっとも不思議な不自然な感じを持たせずに読ませてしまうのがこの小説の味・手際なのかも。だからか、”なんとも言えない気持ち”がきちんと静かに伝わってくる。男と遺された妻と、主人公の気持ち。
俺は妻を亡くしたとき、幽霊が怖くなくなって出るもんなら会ってみたいと思った。臆病者だから、怪談は苦手だったのに。
抑えたユーモアとちょっとシニカルな人間描写が見えるが、全体は暖かい。
24日の読売と毎日(どちらも夕刊、他紙もきっとあるんだろうがこれしか気がつかなかった)に作者の感想みたいな文章が載っていた。気取りが無い、ちょっとひいたような文章だ。気取りが無いところが曲者かもしれない。
第134回芥川賞受賞作ですね。 単行本ではなくて、『文芸春秋』誌で読みました。図書館で。 短篇だし、読みやすいので短時間で疲労感も無く読了。 これより前に刊行された絲山さんの本は3冊しか読んでいませんが、純文学としてはどうかな?というのが正直なところです。読んだ3冊は、いずれも人間心理の微妙なところ、深刻なところが扱われていますが、ヴェールが3~4枚かぶさっている感じで、響いてこないんですね。もともとサラッとしたスタイルの作家だけど、一作品で一箇所くらいは、奥底にあるモノがむき出しになる瞬間...... more
絲山 秋子 沖で待つ なにげない風景が愛おしくなる。 ? たとえば新入社員の「私」が福岡勤務の辞令を受けて初めて現地をふんだとき、 初々しさよりも見知らぬ土地への不安が少し上回っている。 同期の「太っちゃん」と同じ思いを抱えながら町へ繰り出す。... more
読み終えた瞬間、懐かしくも悲しい記憶が怒涛のごとく頭の中になだれ込み、脳がフリーズした。 そんなこと言ったって、このブログを読んでいる皆さんには訳がわからないと思うけど、このまま私の超・個人的な昔話に入ってしまおう。今日のぱんどらは壊れています。どう....... more
奥様は、きっとsaheiziさんの近くにいつもいるんですよ。あれこれ心配してるかも^^いつか夢で逢えますよ。幽霊じゃあなく。