報道管制を許す空気 新劇「ザ・空気」

ベルリンフイル八重奏についで新劇・二兎社公演「ザ・空気」のチケットもいただいて、「こいつは春から縁起がいいわい」と、そのついでに目白から池袋までの現役時代に散策した道に久闊を叙した。
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町の小さな靴屋さん「エコル」、古本とおもちゃの「貝の小鳥」、九十九餅の「志むら」、みんな健在、九十九餅は買ったけれどあとは懐かしいお顔を拝見しても挨拶もしないで済ませた、やや後悔が残るなあ。

先を急いだのは銭湯を探していたから。
暗くなった路をスマホを頼りに西武線とつかず離れず、初めての銭湯「妙法湯」に入る。
脱衣所でオッサンが秋田弁らしい言葉でなんだか話かけてくる。
誰にかと思ったらボクに。
よく聞きとれなかったので、あいまいに笑いながらうんうん。
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「椎名町」!学生時代に学習塾の講師として通った町。
コンクリート打ちっぱなしの部屋に大きな机一つを置いて学年まちまちの小学生5人くらいに何を教えたのか、もう覚えていない。
経営者が貧乏な早大生だった(結婚していた)、ときどき街角の総菜屋で揚げている天ぷらをつまみにコップ酒をご馳走してくれた、はて何を話したのやら、それも覚えていない。
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あの頃は新劇をたまにみた。
宇野重吉、清水将夫、滝沢修、山本安英、「オットーと呼ばれた日本人」、「火山灰地」、「夕鶴」、、数は少ないがいいものを見て、なんだか高揚して帰った。
でも椎名町の天ぷら酒と同じ、中身を忘れてしまってただただノスタルジア、懐旧あるのみ、ときおりつんとさすような痛みを伴う懐旧だ。

風呂上りの散歩といってもひたすら暗い道を15分ほど歩いて、常ならぬ建物の後ろから、こんな建物だったかいなあと心配しながら東京芸術劇場の小ホールへ。
満員、補助席もでている。

二兎社、田中哲司、若林麻由美、木場勝巳、江口のりこ、大窪人衛、永井愛(作・演出)、みんなぼくには初めてだ。

テレビのニュース番組で、総務大臣の「放送内容が政治的中立を欠く場合には電波停止する」という発言、それに対するキャスターたちの抗議、海外(劇ではドイツ)の「クレージーだ」という反響、現実に圧力をかけられて思うような報道が出来なかったジャーナリストの証言を内容とする特集を、さあ、いよいよ放送だというときに、社内の上層部、社外のなんとかかんとかの会、ネトウヨらしきもの、魑魅魍魎があの手この手で圧力をかけて番組内容を換骨奪胎しようとする。
それに抵抗する編集長、女性人気キャスター、苦しむデイレクター、上から送り込まれて編集長たちに変更を迫るアンカーマン。
かつては政治家もさすがにこんな品のないことをしなかったのに、今は平気で番組内容のチエックをし人事にも介入する。
それは彼ら政治家の品性・知性の問題だが、それを許してしまい、あまつさえ自己規制し、あわよくば出世しようとするジャーナリズム側の品性・使命感の欠如でもある。
さらにそれらを当然とする社会の「空気」が最大の問題だ。
まさに主人公がいうように
われわれは会社員である前に個人なのだ。
という、自覚に立って空気清浄化、少なくとも空気醸成側に立つことを峻拒していかなければ、日本の1984年は今そこに・ここにある危機なのだ。

首相との「飯友」「ゴルフ友」、どのセリフ・場面も、ああ、あいつだ、これはこいつだ、これはあの事件だ、、既視感横溢。
まことに今現在のリアルな喫緊・切実切迫した問題だ。
既視感のない、そんなことになってるのかという人たちに見て欲しい、じわっと怖い劇。

日本のジャーナリズム、メデイアの弱腰(政治的中立という名の政権擁護・批判停止)が構成員の自覚の欠如だけに起因するものではなく、歴史的につくられてきたメデイアのシステム自体に大問題があることも指摘する。
この点について、ほめ・くさんの分かりやすい分析をぜひ参照してほしい。
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椎名町で天ぷらをつまみ宇野重吉を見た学生時代から半世紀、日本はとんでもない所に来てしまった。
何もかも忘れたようで、あの頃の「空気」、今よりも自由で活発な批判がどこにも見られた世の中の空気のことは覚えていて、それが「つんとする痛み」につながっているような気がする。
あの「空気」はもうどこにもないのか。
そんなことを考えながら電車に乗ったら「どうぞ」、席を譲られた、ああ、半世紀!
「はじめ」で、「ホンビノス」という貝をご馳走になった。
蛤に似てもう少し野性味がある。
Commented by ほめ・く at 2017-01-29 17:25 x
幕切れのシーンには戦慄を覚えましたが、今そこにある危機でもあります、元人気キャスターの女性がフリージャーナリストになった主人公に「あなたと会うだけで危険なの。もう連絡しないでちょうだい」というセリフ、ズバリ共謀罪を暗示しています。この法律は普通の人には無関係なんて、とんでもない。
Commented by sweetmitsuki at 2017-01-29 20:58
どこまでが新劇の解説でどこからが現実問題なのか分からなくなってきました。
怖いです。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-29 21:53
> ほめ・くさん、今日辺野古基地反対のデモに参加しましたが、ものすごい数の公安の監視、私服にマスク、メモ帳、恐ろしいほどでした。
恐喝することで参加したい人を牽制する狙いもあるのでしょう。

Commented by saheizi-inokori at 2017-01-29 21:55
> sweetmitsukiさん、私にはほとんどドキュメントに感じられましたよ。
怖い、という感じを持たせて自由な言動をさせないのですね。
負けてなるものか。
Commented by j-garden-hirasato at 2017-01-30 06:26
まだまだ東京通にはなれず、
「椎名駅」?
ピンとこなくて調べたら、
西武鉄道池袋線、池袋の次の駅ですか。
学生の町でもあるんですね。
こういう町の雰囲気、
イイですね。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-30 09:55
> j-garden-hirasatoさん、椎名町、そうです、学生用と思われるアパートがたくさん並んでいました。
昔と違って一見マンションのような外観にしているところも多かったですよ。
こんど昼間にあの沿線を歩いてみようと思います。
Commented by reikogogogo at 2017-01-30 10:01
Saheiziさん、
ホンビノス、あまり砂を吐かせなくても大丈夫な貝、
死なれて、尋常でない匂いを発し失敗した事あります。

Saheiziさんのお陰、南部鉄器ザ・鉄玉子見つけました有難う。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-30 10:13
> reikogogogoさん、蛤が一個いくらに対してキロいくら、そういいながらママがご馳走してくれました。
その鍋でホウレンソウやら木の子やらもりもり召し上がれ^^。
Commented by ikuohasegawa at 2017-01-30 14:17
「何もかも忘れたようで、あの頃の「空気」、今よりも自由で活発な批判がどこにも見られた世の中の空気のことは覚えていて、それが「つんとする痛み」につながっているような気がする」
あの頃の空気は覚えていても、今は「つんとする痛み」も感じなくなっている自分が、情けない。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-30 23:45
> ikuohasegawaさん、それは今現在世の中の為になることをなさっているからだと思います。
無為徒食、遊興の徒に堕した者とは感慨はちがって当たり前です。
Commented by at 2017-01-31 02:14 x
世界中から言論の自由はもとより、歩き回る自由すらなくなるかも知れん。色が無くなり、黒と灰色の世界になって行く。恐ろしい。。。。。
Commented by saheizi-inokori at 2017-01-31 07:29
> 蛸さん、その恐ろしさを日本のほとんどの人が感じていないのです。
くだらないテレビを見たり、刹那的なことをSNSで知らせ合って満足している。
それが最も恐ろしい。
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by saheizi-inokori | 2017-01-29 12:15 | 能・芝居 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori