「気の迷い」と志ん輔は言ったが 志ん輔の会

「火山島」1巻を読み終える。
続けて申京淑の「離れ部屋」を読み始める。
作家の自伝的な作品だが、16歳の頃と現在(1994年)の作家になった自分の感慨や思索が短いエッセイ・ときには詩のような文章でつづり合わされる。
そのなかで済州島に来て文章を書いているという箇所が出てきて、ああそうか、それから津島佑子との対談で(津島の方から)「火山島」の話が出たのだった、と改めて、なにかちょっとした懐かしさ(というのもヘンだが)を感じたのだ。

俺が済州島に行ってから、もう8年近くになる。http://pinhukuro.exblog.jp/9961217/
http://pinhukuro.exblog.jp/9954814/
美しい島だと思った、酸鼻を極める歴史については少しは知っていたが、しっかり考えて見ることもなく、鯛やヒラメの舞い踊りを「ただ珍しく面白く」遊んできた。
どうかしてもう一度訪ねてみたい。
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夜は国立演芸場で「志ん輔の会」。
すこし時間があったので最高裁判所のまわりをぐるっと歩く。

前座がかな文「垂乳根」を5分やってわん丈「新作」
実家が埼玉だ滋賀だというのを恥じて東京、京都だと見栄を張る夫婦、話はつまらないけれど飄々とした芸風は好感。

志ん輔「饅頭こわい」

「蛇、長すぎる」ルナールの博物誌を連想させるおかしみのある前座噺を初演すると触れられているから、さてどう料理するんだろうと、ちょっと期待したら、、。
嫌いなもの、「よれたドライヤーのコード」、過熱して火が出ることをホンキー・トンクのダンがやたらに怖がって、そのことで彼と言いあう・そのダンが怖い、「自販機の取り口」に手が挟まれて二進も三進も行かなくなる、あれが怖い、クランクの車庫に入れて身動き取れなくなったようだ、働いてもいないくせに「お疲れ、という小中学生」が怖い、「畳のヘリ」、つまずいて転ぶときの三秒間にその先の展開を考える恐怖。
そして憎まれ口をきくQさんは「金がこわい」。
みんなが金塊やらなんやら持ってくるとコンテナに積んでヘリコプタ―で運びだす、「こちらQさん、ヘリどうぞ」、もう悪のつくふざけっぷり。
さいごは「ここらでしぶ~いイイ女を十人ほどこわい」だとさ。
大笑い!
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カンジヤマ・マイム「パントマイム」

無表情なロボットになるの、不気味だ、そこに血が通っていると思うからなおさら。
一人でサッカ-ライブ、大熱演なのはわかるが、、。

志ん輔「木乃伊取り」

吉原に居続ける道楽息子を迎えに行った番頭、カシラが木乃伊になって(俺もなってみたい)しまい、剛直・忠義一徹の飯炊き清蔵が乃公イデズンバ!と出かけて、さすがの若旦那もほだされて、では帰ろうとなるのだが、、。
清蔵が若旦那を説得するときの声涙下る大仰な人情噺風感動場面、いただけないなあ。
志ん輔の悪いクセ、細部に入れ込みすぎて全体の流れを壊す。
写楽の役者絵のようなしぐさや表情もやりすぎると面白さを通り越す。
この噺は、さらっとやって充分に面白い噺なのだよ。
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(Kさんとの二人居残り会で)

志ん輔「抜け雀」

これは普通に面白かった。
普通に面白いのでは満足できないのかもしれない、真面目なんだから。
デフォルメ饅頭のあと、師匠(志ん朝)没後15年、そろそろ「もういいか」(といって師匠を慕い敬し続けるのは当然だが)という気持があると漏らした。
あの志ん朝の遺産ともいうべき格調を守り高嶺を目指し続けるのはなかなかにしんどいことで、たまには俺流を出して行きたいという気持なのだろうか。
俺は俺のやり方で志ん朝の衣鉢を継いでいけばいい、開き直るほどのこともないけれど、呪縛があるのなら解放してあげたいものだ、ね、泉下の師匠。
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Commented by unburro at 2016-11-18 17:02
挨拶代わりに「お疲れ!」という小中学生…
私も最初に聞いた時は、エッ?と違和感がありましたが、
塾も部活も、お疲れさま、なんだろうなあ〜と妙に納得しました。

花札ラベルのお酒、洒落てますね。
月見で一杯、花見で一杯、ではなく。
猪鹿蝶なのですね、ぼたん鍋、鹿鍋に合うお酒…
とか、ではないですよね(笑)

ウイスキーに、トランプのラベルのがありますね。
(秩父のイチローズモルトでしたか…)
トランプでは、今は笑えない。
Commented by reikogogogo at 2016-11-18 23:50
猪鹿牡丹ーーー花札速お正月ムード。
大根のヌードは石彫のデザインに使えそうだったり。
東大寺の重源のこと、速水御舟の事に至っては、山種美術館以来
、見慣れた甲斐駒ケ岳、すごい話題。
Commented by saheizi-inokori at 2016-11-19 00:01
> unburroさん、そうそう、落語でもQさんが「なにいってんでえ、今小中学生がどれだけお疲れか、知らねえのか」ってやってましたよ。

このボトルは空き瓶か、花ラベルを貼ってみせたのでしょう、楽しいですね。
夕べは薩摩焼酎でしたよ。
Commented by saheizi-inokori at 2016-11-19 00:06
> reikogogogoさん、我ながらいろいろありますね^^。
有難い日々なり。
Commented by j-garden-hirasato at 2016-11-19 07:10
無機質な建物は、
最高裁判所ですか。
お世話にはなりたくないものです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-11-19 09:41
> j-garden-hirasatoさん、このいかつい人を寄せ付けない建物の偉容にかなうような公正な裁判をしてほしいものです。
Commented by kogotokoubei at 2016-11-19 13:11
志ん輔がいろいろな呪縛から解き放されつつある・・・そんなことを感じた会でした。

翌日の能もご堪能されたようですね。
何かとお忙しい^^
Commented by saheizi-inokori at 2016-11-19 20:42
> kogotokoubeiさん、そうですね、まだ呪縛から脱しきっていない
あがいている、そんな気がしました。

能はイマイチでしたよ。
Commented by at 2016-11-19 21:24 x
志ん輔の挙げた「こわい」は畢竟、現代人特有の不安感に根差しています。
「チャールトン・ヘストン、お前は何がこわい?」
「自由の女神がこわい!」
「なに、あれはめでてぇシンボルじゃねえか!」
「猿の惑星だと思っていたのに、地球の成れの果てだと知らせやがんだ、怖ぇよ」
Commented by saheizi-inokori at 2016-11-20 08:50
> 福さん、聖書がこわい人もいるのでしょう。
ほんとに神がいたらどうしよう?
蛇やナメクジを怖がっていた子供のころが懐かしいです、もっとも今でも怖いけれど。
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by saheizi-inokori | 2016-11-18 13:28 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori