口許は声を立てて笑っているのに、お天気雨のように涙がとまらない 向田邦子「父の詫び状」
2016年 08月 15日
窓を開けると、待っていたかのように蝉が鳴く、今日は亡妻の命日だ。
邦子さんの父親は俺の親父とは酒飲み、癇癪もちなところが似ているようだが、家族思い、とくに子供のことになるとムキになるところはだんぜん邦子パパだ。
エッセイとしては彼女の最初の作品のようだが、いかにもドラマ作家として売れていた人らしく構成や細部の描写、オノマトペなどが巧みで、次から次へと自在に話が展開して、そのたびにドラマテイックな場面が目に見えるようで、実に楽しい。
四角い蛙のはなしから夢の中で愛猫・マミオが灰色の四角い猫になっているを見て声を立てて泣いてしまったというはなし、目に見えないものが目に見えてきて可笑しい。
と同時に作者の命あるものを大事にする気持ちが伝わってくる。
空港まで見送りに行ったときの、テレビの家庭ドラマに出てくる、森光子がやりそうな、ちょっといい話を読んでいたら、俺が初めてアメリカに行ったときに亡妻の両親や亡母も空港まで送りに来てくれたことを思い出した。
アメリカに行くことになった、と言ったときに自分のことのように歓声を上げてくれた家族、そういう時代でもあった。
飛行機が高みで旋回を始めると、もう大丈夫だ、と思ったとたん涙があふれて、さっきまでのドタバタを思い合わせて「口許は声を立てて笑っているのに、お天気雨のように涙がとまらなかった」。
この文章を書いたのが昭和52年(俺の初渡米もこの年)、その5年後の8月22日、彼女の乗った飛行機が台湾上空で空中分解してしまうのだ、ぜんぜん「もう大丈夫」じゃないじゃん。
一年目は「癌」と「死」の字が目に飛び込んだが、二年目になると「生」という字が心に沁み、今は三つの字を見ても前ほど心が騒がなくなった、とも。
父、祖母、津瀬宏、喪服、葬儀、通夜、、まだ5編しか読んでいないが、死に係る話が多い。どれもカラッと書いているけれど。
だんだん、死んだ人たちの方が多くなっていくような気がする。
今日はご命日だったのですね。
向田さんのこの本はいいですよね。
本当にもったいない人を失いました。
私もこれからまた読んでみます。
からっと書いているだけに心に響きますね。
頑固オヤジの代表のような邦子さんのお父さん、でも、子供たちに注ぐ目はとても優しい。
57歳で逝った私の父もとても優しい父でした。
友達にも父の話が多かったようです。
会いたいな~お盆ですがどこかへ寄り道しているのかちっとも現れず。きっと行き先は川反でしょう。(笑)
普通、一度読んでピンとこない本は二度は読まないものですが、そこを 「もう一度読んでみようかな・・・」 という気にさせるのが、向田さんの文章の不思議な魅力ではないかと思っています。
邦子さん、生きていれば86歳、今の政治に厳しい小言を言ってくれたのじゃないかな。
そのうちこっちも^^。