喜多八が自転車で走り抜けていった 第44回三田落語会

三田落語会の会場は仏教伝道センター、「ブツダの言葉」は全員に配られるし、けっこう立派な機関紙?がいただける。
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「フリースタイルな僧侶たち」の特集が「お坊さんの恋愛事情」、あとで楽しみに読んでみよう。
前座・たま平「道灌」、この人もしかすると談志のファン?

三三「釜泥」

煙草と塩の博物館で根付を見たときの、ませた子供の話とか恒例の林家一門に対する冷やかしなどをしゃべりながら、「しゃべってみたが後につながらない」、たしかに、どこか落ち着きがない。
本題は、子供のころ絵本で読んだ小噺、五右衛門の末裔・間抜けな泥棒コンビが世の中の釜をすべて盗んでしまえば親分の追善になるし、捕まっても釜茹でにならない、と市中の豆腐屋の大釜を片っ端から盗む。
恐れをなした、ある豆腐屋の老夫婦、、爺さんが釜の中で徹夜をして用心しているつもりが、一杯飲んだから白河夜船、それを泥棒が担ぎ出す。
とぼけた老夫婦ととぼけた泥棒の「月夜に釜を抜く」。
「理屈ばっかりでちっとも気い使わない、大学出の前座みたいだ」、大学をでていない三三がときどきいうギャグ。
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(田町駅)

一朝「三枚起請」

喜多八さんのことを、と喜多八が二つ目の頃、池袋演芸場でみんなが銀座に呑みに行こうと相談していると、自転車で通っていた喜多八が「私も連れていってください」、大丈夫かといいながらも、場所を教えてみんなはタクシ―で向かう、途中渋滞で止まっていたら、なんと脇を喜多八の自転車が猛スピードで走り抜けていった、面白い人でした。
昨日アップした「東京かわら版」にも一朝が書いている噺だ。
喜多八の面目躍如、短パンとTシャツで出勤するのを末廣亭席亭から注意されたというエピソードは本人が自慢げに話していたな。

パンフレットによれば喜多八は三田落語会に10年で28回、50席を超える噺を演った由、一朝は席亭の意をも汲んだのかな。

花魁と間抜けな客の噺では喜多八は「五人回し」「文違い」の方が十八番だったような気がするが、一朝は「喜多八さんを偲んでやります」といって「三枚起請」。
同じ花魁に「年が明けたら夫婦になる」と起請文をもらって喜んでいた、おかしくも気のいい江戸っ子三人が奇しくもお互いの起請文を見せ合って怒ったり悲しんだり(号泣)、このままじゃおさまらないと花魁のところに押しかける。
登場人物のそれぞれの個性がくっきり描き分けられながら、重さを感じない。
達人の筆でさらさらと・しかも細部をも手抜きせずに描いたスケッチのようだ。

喜多八は爆笑させながら、どこかにシニカルな人間観察があって、それが魅力でもあったのだが、一朝の人間観察は明るく、聴いていて心地よい。
ネタも「五人回し」や「文違い」より陽気で楽しい。
個人を偲ぶのには最高だった。
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中入り後、真っ白な着物に着替えた一朝「麻のれん」

蚊に食われて一睡もできなかった按摩の杢市、怒りを見せず、これも一朝の造型。
喜多八ばかりか扇橋も偲んでしまった。

三三「鰍沢」

ほんとは一朝にトリを取ってもらうのが順当なのだが主催者の意向で、冬の噺、それも陰気極まる噺をするのも主催者の意向で、と断って吹雪の鰍沢に。
吉原で名をはせた花魁・お熊が心中騒ぎを起こし男と山の中でひっそりと暮らす。
喉に残った傷が凄みを見せる、吉原にいたときが極彩色なら、今は墨絵の美しさ。

一夜の宿を求めてきた旅人の懐中の大金に目がくらんで、飲ませた卵酒は毒入り、旅人は奥の間に伏せてしまう。
亭主のために酒を買いに外に出たお熊と入れ違いに帰ってきた亭主はそれと知らずに旅人が飲み残した卵酒をきれいに飲み尽くす。
戻ったお熊の前で苦しみ悶える亭主を見て、「今まで悪いことをしてきた報い、あっさり諦めて死んでくれ」と冷静に言い放つ女は、旅人に「おあがんなさいな」と卵酒を薦める時も薄気味悪かった。
亭主に死なれたお熊は雪女になって暮らすのだろうか。

隣りの部屋で夫婦の会話を聞いた旅人が、小室山妙法寺でもらった毒消しの護符を雪で呑み下して、こけつまろびつ逃げる。
雪が上がって空には研ぎあげた鎌のような月。
振り返ると、追いかけるお熊の構える鉄砲の火縄がちらちらと。

一朝が「三三さんは今や私が足を舐めるような人」と持ち上げたのはあまり上等ではなかったが、たしかに巧い。
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三三は「東京かわら版」のコメントに(談)として「今は何を申し上げてよいやら言葉が見つかりません。ご勘弁下さい」とある。
これまた彼らしい。
「もっと感情をぶつけろよ」と喜多八アニさんはいうのかも。
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渋谷から田園都市線、三茶で世田谷線に乗り換え、世田谷下車、「天狗湯」のロビーに入ると「ワッツ!」と歓声があがった。
DeNAが巨人に逆転したのだ。
どこが勝ってもいい、巨人が負けるのが嬉しい俺はとても嬉しい。
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嬉しい気分のまま30分弱歩いて「はじめ」。
珍しく、カミさんと落ち合う。

カツオ刺しのためにおろす生姜の香りがたつ。
Sさん、「わあ、いい香り!」
ママ、「高知の生姜はちゃんと香るのよ」
俺、「高知?大麻じゃないの」
みんな、少し、、、「あ、そうかタカチね」
調子に乗った俺、「奥さんが、いい薬です、なんちゃって」
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帰宅したら、わおっつ!ありがとう秋田の人。


Commented by kogotokoubei at 2016-06-26 19:38
一朝、いつも“いっちょう懸命”ですね!

週末にあったBS TBSの録画で、喜多八の「らくだ」と「二番煎じ」を見ました。
結構、体調はきつい頃だったと思うのですが、それぞれ、しっかりした高座。

あらためて、その存在の大きさを感じます。

それにしても、「はじめ]でご夫婦でというのは、珍しいのでは^^
羨ましい限りです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-26 22:38
> kogotokoubeiさん、落語研究会ですね。
らくだの毛をむしったり、猫を食っちまうとか激しかったような気がします。
「はじめ」、カミさんと一緒は二回目かな。
落語の帰りによる店ですから。
いつご一緒できるかと楽しみにしています。
Commented by c-khan7 at 2016-06-26 23:22
鰍沢、恐ろしい噺ですね。
真夏に聞いたら、ブルッとして温度が3度下がりそう。
Commented by reikogogogo at 2016-06-27 00:05
旬に収獲直後のフルーツが味わえるのって本当に幸せですね。

ホラ !旅から帰っても美味しいものを口にするでしょ!
地魚か、直送で気持時間差があるか無いかの違い?
saheiziさんは美食家ですよ。
Commented by j-garden-hirasato at 2016-06-27 06:40
落語会も
いろいろなところでやっているのですね。
三田落語会は仏教伝道センター。
仏教の機関紙なんてあるのですね。
お坊さんの恋愛事情ですか。
お坊さんでなくても、
周りには独身者が多くて…。
どうする気なのかなあ…。
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-27 09:26
> c-khan7さん、円朝がお題を貰って即席で作った名作です。
三三もうまかったですが、名人がやるとほんとにぞくっとくるようです。
私は小三治のを聞きましたがそこまでではありませんでした。
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-27 09:30
> reikogogogoさん、旨いものは好きですが、世にいうグルメではないと自負しています。
普通に旨ければいいのです、それと気持ちが大事だと思っています。
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-27 09:31
> j-garden-hirasatoさん、坊さんの合コン、坊コンもあるんですって。
檀家が一番跡継ぎを待望するのだとか。
Commented by namiheiii at 2016-06-27 11:15
私の祖父はその鰍沢の出です。落語は知りませんが、そんな話も聞いたことがあるような? 
saheiziさんはアンチジャイアンツでしたか、何故か私も同じです。別に読売に貸しがあるわけではありませんが^^。
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-28 00:55
> namiheiiiさん、私は本籍が石和です。
実話ではなくて円朝が客からお題を貰った即席の三題噺です。
子供のころはジャイアンツファンだったのに、いつの間にか大嫌いになりました。
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by saheizi-inokori | 2016-06-26 13:17 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori