面白うてやがて恐ろしくなる 田島泰彦・山本博・原寿雄「調査報道がジャーナリズムを変える」

新聞を取る人が減っている。
テレビがあるしネットもある。
月3000円を超す出費は大きいし、、
そもそも読むとこないじゃん、スポーツと広告ばかり。
朝日をやめようかと思ったけれど、販売店がつぶれたら新聞配達の人の生計に響くという請願にほだされてとりあえず継続にした(東京と二紙)。
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新聞が面白くないのは、報道記事のほとんどが、政府・官庁・大企業などからの発表情報をそのままニュースとしているからだ。
「発表報道」という。
権力が自分に都合のよいように発表した内容を書くのでは、権力の監視者というジャーナリズムの使命は果たせない。
せいぜいが扱い方、論評などで新聞社のカラーを出すくらいのことしかできない。
遅かれ早かれ公表されるネタを一日早く報じて、”スクープ”だと一喜一憂している。

これに対して「調査報道」という行き方がある。
横浜支局のデスク時代に入社間もない記者を駆使してリクルート事件を暴き竹下政権を倒した元朝日の山本博によれば、
調査報道とは、ジャーナリズムによる公権力の監視だという。
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本書は、桶川ストーカー殺人事件(清水潔)、足利事件(清水潔)、「核持ち込み」における日米密約疑惑(太田正克)、警察の組織的裏金作りの徹底暴露(高田昌幸)、リクルート事件(山本博)、菅生事件(原寿雄)など警察・検察や政府発表の欺瞞や権力が隠していた不正を暴いた真正のジャーナリストたちが、その経験をつまびらかにし、調査報道の進め方を説く。

どの事件も、改めて読むと、権力というものが、いかに腹黒く悪辣なものかを思い知らされる。

バレなければ、叩かれなければ、なんでもやる。
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彼ら真正のジャーナリストは、そういう悪辣な集団の中に息を凝らして正気を保っている味方を情報源とし、足を棒にして真実を追求する。
かれらが立ち向かうのは権力のスクラムばかりではない。
本来は味方であり保護してくれるはずの上司・同僚・同業者をも敵に回しだまし続けることもせざるを得ないのだ。
個々のケースを読むと優れたミステリーのように面白いが、これはフイクションじゃないと思うといささか恐ろしい。
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青木理が、国策捜査によって検察から有罪とされた人々からその状況を聴き続けた週刊金曜日の企画をもとに、いったん検察が有罪にしようと決めたら、彼らがあらかじめ用意したストーリーを認めるまで釈放できない、それを救うものはいない、裁判官もメデイアも検察の味方であるという恐ろしい、今我々が住む日本の事実を明らかにする。
512日間拘留された佐藤優が「これが日本の出来事だと思うから腹も立つけれど、イランや北朝鮮だと思えば、ああ、そういうことか、という話だ」と皮肉った由。
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個人情報保護法、名誉棄損訴訟における立証責任をメデイア側に負わせることおよび罰金額の高額化、内部告発者の保護、取材源秘匿、情報公開法の不徹底、、多くの面で日本は権力者たちの不正を暴露させにくい実態になっていることも学者たちが指摘する。

国連による表現の自由度調査を延期してくれといった政府の気持ちがよくわかる。
大騒ぎされたTPPの締結文書が日本語訳されてないという驚くべき事実もこの間知ったばかり、日本語で読んでもわかりにくい大部にして細かな条約案を英語で読んでわかる人がどれほどいるのだろう。
マジ、佐藤優の言葉じゃないけれど安倍政権は中国に追いつけ追い越せだと思う。
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花伝社

Commented by ほめ・く at 2015-12-05 18:18 x
昨日、自衛隊関係者が数名、機密漏えいで送検されました。問題の書籍は自衛隊内の売店で購入できるし、ネットオークションなら誰でもが買えます。だから機密でもなんでもない。でも機密かどうかは権力が一方的に決める。
こうした見せしめを通して、秘密保護法の元で国民の知る権利を制限していこうという政権の意思の現れだと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-05 20:54
> ほめ・くさん、労働組合もない自衛隊のようなところから攻めていくのですね。
濃霧の中を歩いていくような日本社会になります。
Commented by jarippe at 2015-12-05 22:23
さまざまなことが知らない間に進んでいる
そのことを知った時怖くてこの国を脱出したくなりました
これからもっともっといろんなことが
勝手に決められていくのでしょうか
恥ずかしい国みたいです
よその国の事とやかく言えません
Commented by unburro at 2015-12-05 23:13
マスメディアの情報の多くは、
「味の素」まみれの刺身の様なものではないか、と感じます。
皮も骨も抜かれて、元々どんな魚だったのか、分からなくなってしまっている。かといって、自分で釣りに行くわけにもいかないので、1匹丸ごと買ってきて、自分で捌くのが、せめてもの対抗策ですね。
鯵や鰯、鯖、平目くらいまでならなんとかなりますが、
鰤や鮪、ではそうもいかないので、信用できる魚屋で、切り身を買うことになりまます。
これが、テレビや新聞以外の、本を読んだり、映画を見たり、ネット検索したり、ということになるのではないか、とか思います。
ともあれ、自分の五感や第六感、を鍛えなくてはなりませんね。
Commented by sora at 2015-12-06 04:05 x
きょうの記事に、背筋が冷たくなりました

「どんな政府も権力を持つと、必ず腐ってくる だから 
 監視してあげるのは国民の義務」という認識を
中学ぐらいから教える。。 こんな教育は  
このまま、底を打って一巡してからでなくては無理でしょうか
Commented by j-garden-hirasato at 2015-12-06 08:13
東京では、
イチョウ並木が
黄金に染まっている時期でしょうか。
地方にきちゃうと、
あまりないんですよね。
Commented by kanafr at 2015-12-06 09:40
フランスは今、大勢の人が集まるのはテロに狙われやすいという事でデモが中止なんですが、先日、そうやって国民の主張を封じ込めようとしている!と、デモ中止を反対するデモっていうのがありました。
結果300人位しか集まらなかったようですけど..。
今日の記事を読んで、そんなフランスの方がまだ個人の主張は許されている感じがしました。
かつては、そんな意志を持っていたジャーナリストも、今ではサラリーマン化しているって事でしょうか?
Commented by namiheiii at 2015-12-06 10:53
怖くなりました。中国の方が日本に追いつけかと思っていましたから…
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 11:06
> jarippeさん、日本だけのことではないと思います。
アメリカもイギリスもフランスも中国も、、世界中が壊れつつあるようです。
自分の今いるところでNO!の声を上げることしかない?
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 11:13
> unburroさん、桶川ストーカー事件を追い詰めた記者はFOCUSの人だったそうです。
彼の粘り強い真相究明の努力、なんしろ”被疑者”警察は記者クラブに所属していないジャーナリストには会いもしないのです、連発する報道を主要メデイアは黙殺し続けたのでした。
私もこの事件のことは新聞で読んでいたのですが、それはテレビ朝日「ザ・スクープ」で鳥越俊太郎が取り上げ、それを民主党議員が国会で追及してから、クラブの記者たちが一斉報道を始めたのでした。
それまでは警察を叩くことは彼らにはできなかったけれど、みんなで渡れば、、だったのです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 11:19
> soraさん、「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」、英国の歴史学者アクトン卿の言葉は人間の歴史の原則ですね。
学校で教えるなんて、到底考えられないのが現状でしょう。
文科系教育を否定するのはそういう配慮があるのだと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 11:22
> j-garden-hirasatoさん、毎朝近くの園芸高校の銀杏並木を見に行くのが楽しみです。銀杏が東京都の木に制定されたのは昭和41年だそうです。
東大の校章はもっと昔なんでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 11:30
> kanafrさん、そうですね、サラリーマンになったのでしょう。
主要メデイア、大企業、官僚たちが高給取りになったこと、そこから脱落すると格差社会の下層に落ち込むのではないかという恐怖なども彼らの言動を規制しているのではないかなあ。
落ちたって食っていけるのですが、しがみついていれば大学教授だとかなんだとか、おいしい老後が待っているのですよ。
フランスやアメリカでは権力者のスキャンダルを報道する環境ができている、たとえば挙証責任は権力者側にある、とか、報道の自由の歴史が違いますね。
f2とNHKではずいぶん権力批判の仕方が違うのではないでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 11:31
> namiheiiiさん、中国よりも北朝鮮かな、彼らの狙いは^^。
Commented by antsuan at 2015-12-06 12:37
TPPの条約文は、あのスタンフォード大学フーバー研究所の西鋭夫教授でさえ読めない、難解な英語で書かれているそうです。外務省はどうやって翻訳するのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-06 13:42
> antsuan、まして甘利にも安倍にも読めないし、読むつもりもないのでしょう。
それを国民に押し付ける感覚たるや異常を通り越しています。
Commented by ikuohasegawa at 2015-12-07 16:11
またしても、読みたい本。
ついていけないどころか周回遅れのランナー。しかも二度も三度も抜かれたようなものです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-07 20:25
> ikuohasegawaさん、これは読みやすい本です。
すぐ読めますよ。
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by saheizi-inokori | 2015-12-05 13:29 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori