ナチス的人間はアメリカや日本にもいる ジャック・エル=ハイ「ナチスと精神分析官」

ハンナ・アーレントはアドルフ・アイヒマンの裁判を観て、”悪の陳腐さ”を指摘した。
ナチスの高官は普通の市民と同じであって、ただ上からの命令に従い、自分の行動を普通の型通りのものと考えていたというのだ。
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ゲーリング、ヘス、デーニッツ、カイテル、リッベントロップ、、ナチスの高官22名を裁いたニュルンベルグ裁判において刑務所における被告たちの心身の健康を維持し、彼らが裁判をかけられる精神状態かどうかを診断した、アメリカ陸軍の精神科医・ダグラス・ケリー大佐の一般意味論やロールシャッハテスト、観察、インタビューなどにもとづく(ケリーは彼らの独房に自由に出入りできた)診立てはアーレントとのそれとは違った。

彼らは世界中のどこにもでもいるような人々でした。その人格パターンは不可解なものではありません。だが彼らは特別な欲求に駆られ、権力を握ることを望んだ人間でした。そんな人間はこの国にはいないとあなたは言うかもしれません。しかし私はここアメリカにも、国民の半分を支配できるなら、残りの半分の死体を乗り越えてでも、それを実現しようとする人間がいると考えています。そして彼らは今、それを言論によって行っています。-民主主義の権利を反民主的なやり方で利用しているのです。

なんだか今の日本にも当てはまりそうだ。
安倍がそういう人格パターンであることは明白だが、中谷防衛大臣のように、爆弾を武器ではないという(だから米軍に供与できる=武力使用ではない)という珍答弁が、なぜ今回出てきたのかと問われ、「かつてはアメリカがそれを求めなかったからだ」と天真爛漫な答弁をしたという男、この辺はアーレントのいう市民レベルの保身も透けてみえる。
アホな発言を繰り返すチンピラ議員とか、八百長質問を恥ずかしげもなく行うチルドレン(今中継中の森まさ子の気持ち悪い安倍讃歌!)の中にもゲーリングやシャハトに化けるやつはいるかもしれない。
ゲーリングがナチスに入ったのは、それがもっとも出世する近道だと思ったからだと本書にもある。
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ケリーという、強烈な野心と天才的な能力を持った男、足るということを知らず、常にトップを目指さなければいられない男がゲーリングに自身の姿をも観てとったのかも知れない。
ふたりとも青酸カリで自決するのが、そういう人格の末路について暗示的だ。

連合軍に逮捕された直後のゲーリングがアイゼンハウワーに面会を求めたとか、戦後ドイツの再建に力を貸せると申し入れたとか、どんな宝石や財産をもって刑務所に行ったかとか、ナチス高官それぞれが刑務所生活をどう受け止めていったか、いよいよ起訴された時の各人の反応、ゲーリングが高官仲間で孤立していく過程など、映画を見るようだ。
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後半におけるケリーの生き方も、事実は小説より奇なり、面白い。

高里ひろ・桑名真弓 訳
KADOKAWA
Commented by jarippe at 2015-08-25 10:56
深夜の腹痛 そうだったんですね
ご挨拶だったのかしら
良かったですね 大曲にお出かけになって

支持率上がったんですってー?
もうちょっと頑張らないといけないのかしら
Commented by sora at 2015-08-25 13:13 x
相似形的に、どこの社会にも当てはまりそうで戦慄です。
人間の狂気と業。
それに振り回され、蹂躙される下々の存在。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-25 21:28
> jarippeさん、ぎりぎりのところで会えました。

今日の安部の答弁もひどいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-25 21:30
> soraさん、彼らには下々は自分たちと同じ人間とは見えないのでしょうか。
さいしょから劣等の存在なんでしょう。
Commented by sweetmitsuki at 2015-08-25 21:43
旧日本軍はシンガポールを占領中「シンガポールの人口を半分にする」ために半日分子を粛清しましたから、そのような歴史を偉大に感じ、そのような先祖を誇りに思う連中は、当然のようにそのような行動を繰り返すと思います。

虫の知らせ、とはよく耳にしますけど、腹の虫とは初めて聞きました。さぞや腹の通じた方でしたのでしょうね。
今頃は、あちらの岸で、歓迎会で賑わいでいるのでしょう。
でも佐平次さんは、まだそっちに行っちゃダメですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-26 08:50
> sweetmitsukiさん、まだ中有なのかな。
30日が葬儀です。
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by saheizi-inokori | 2015-08-25 10:14 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori