武藤貴也には理解できない”自己中”でありながらまともな若者 羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」

芥川賞を受賞したもう一つの作品は、羽田(はだ)圭介の「スクラップ・アンド・ビルド」。
88歳のおじいちゃん、二言目には「毎日身体中が痛くて痛くて、、よかことなんかひとつもなか」「早う迎えにきてほしか」「健斗にもお母さんにも、迷惑かけて、、本当に情けなか。もうじいちゃんは死んだらいい」、、。

主人公・健斗、28歳、無職、手当たり次第に面接を受けるが不合格の連続。
毎日腕立て伏せ、スクワット、ランニング、、筋トレに余念がない。
ガールフレンドに振られたあとは、”つかわない機能は衰える”をモットーに一日最低三度の射精に取り組み、CD音源つき英語テキストで洋画を見て英語力を磨く。

お母さん、兄弟たちの家を転々、厄介払いされたおじいちゃんと息子を養っている。
おじいちゃんが、「お母さん、お皿、お願いします」と食べ終えた皿を差し出すと、舌打ちをして「自分で台所まで運ぶって約束でしょ。ったく甘えんじゃないよ、楽ばっかしてると寝たきりになるよ」、血縁者故の際限ない甘えに、慢性的な苛つきは頂点に達しつつあるようだ。
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健斗は、おじいちゃんの魂の叫びに目覚める。

自分の今までの祖父への接し方が、相手の意思を無視した自己中心的な振る舞いに思えてくるのだった。家に生活費を入れないかわりに家庭内や親戚間で孝行係たるポジションを獲得し、さらには弱者へ手をさしのべてやっている満足に甘んずるばかりで、当の弱者の声など全然聞いていなかった。
死にたい、というぼやきを、言葉通りに理解する真摯な態度が欠けていた。

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苦痛や恐怖心さえない穏やかな死。
そんな究極の自発的尊厳死を追い求める老人の手助けが、素人の自分にできるだろうか。
こう書くと深刻な暗い小説のようだが、そうではなくぜんたいに流れるのはユーモアとちょっとしたアイロニーだ。
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「火花」の主人公もそうだったが、健斗も、まともなのだ。
今の世の中にすんなり生きていくのが難しい、どこか外れているのだけれど、外れたものを抱え込みつつ、まっすぐに生きている。
そこが、健斗や母など登場人物の内面の掘り下げが足らないという物足りなさも感じさせても、さいごまで読ませる小説になっているのではないか。

シールズに集う若者を、戦争に行きたくない自己中な連中と言ってのける自民党の、もっと自己中な武藤貴也などには絶対に分からないまともさだと思う。


武藤貴也議員のことについてー前滋賀県知事の嘉田由紀子さんのコメント
Commented by hisako-baaba at 2015-08-09 12:09
ご家族が次々ご病気で大変なのにデモに行ってくださる、有難うございます。

介護問題が小説に・・・なんですね。
身近に介護を担っている人は多いし、たいていが女性。老老介護が大問題になっています。明日は我が身かも。

高校生大学生の、明るいデモ、たのもしいですね。私も行きたいです。明るいプラカード作って。行かれないのがもどかしいです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-09 15:29
> hisako-baabaさん、最近は小説や映画に介護を題材にしたものが多いですよ。
読んだり見たりするたびにわが身のことも考えては、ああ、考えても詮無いことと思っています。
私もちょっと身辺があわただしくなりすぎてデモに行けない日が増えそうです。
Commented by unburro at 2015-08-09 17:47
「火花」をブックオフで買おう、と思っていましたが、
やっぱり、文春、買いに行こう!
芥川賞、直木賞両方読めて、お得ですからね〜
Commented by unburro at 2015-08-09 21:26
あ、間違いました、
直木賞ではなく、芥川賞を2作、でした。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-09 21:28
> unburroさん、そうです。しかもほかにも読んで損はない記事がありますから。
図書館で読むのもいいかなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-09 21:29
> unburroさん、直木賞はオール読物で全文掲載ということにはならないのですね。これも面白そうなのですが。
Commented by みい at 2015-08-09 21:54 x
こんばんは

 わたしも文芸春秋買ってきます!
読んでみます^^。
Commented by shinn-lily at 2015-08-10 08:02
「火花」をキンドルで予約を入れたけれど、キャンセルしてよかった!これなら両方読めるし、少なくても今の希望s者3人には回せるのですもの、芥川賞をとってくれてよかったです。「スクラップ・アンド・ビルド」を読んでいるところですが、89才の本好きの母に回すのを躊躇しています。結局読むことになるのでしょうけど。
Commented by j-garden-hirasato at 2015-08-10 09:03
カミさんが、
正に、これら二作品を読んでおります。
文芸春秋、あります。
自分は普段小説を読まないので、
さて…。
Commented by byogakudo at 2015-08-10 09:36
おはようございます。

「安保関連法案に反対する高崎経済大学有志の声明」
https://docs.google.com/forms/d/1SQIptEuo4KlsnYo8BfzIMmXgYkoAx3pA9mb6Q_X4nWE/viewform
にも署名できます。
Commented by sheri-sheri at 2015-08-10 11:57
嘉田さんのコメント拝見しました。武藤議員の節操のなさも改めて認識しました。もう、笑うしかないくらいの人物に思えました。地位さえ確保できればなんでもいいようで。・・・
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-10 20:05
> みいさん、文藝春秋、売れそうだなあ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-10 20:15
> shinn-lilyさん、本の好きな人は隠しても読むんじゃないかな。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-10 20:16
> j-garden-hirasatoさん、小説以外にも面白い記事はありましたよ。

Commented by saheizi-inokori at 2015-08-10 20:19
> byogakudoさん、署名して来ました^^。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-10 20:23
> sheri-sheriさん、こんな連中が憂国の士気取りで国をめちゃめちゃにするのだから!
麻生が「法案審議中は黙ってろ」と言ったのは「お前の発言は正しいけれど」が前にあるのでしょう。
Commented by kanafr at 2015-08-11 07:01
↓の又吉さんの本も、この羽田さんの本も面白そうですね。
>弱者へ手をさしのべてやっている満足に甘んずるばかりで、当の弱者の声など全然聞いていなかった。
母を介護した時の事を今でも思い出し、後悔ばかり重ねてドキッとしています。
私も、この言葉の通りでしたもの。
でも、これってまさしく今の時代を表した言葉にも読めました。
政治家になったという満足に甘んずるばかりで、国民の声を全然聞かない政治家がなんて多い事でしょう。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-11 09:31
> kanafrさん、この健斗君は本当に珍しいような心のやさしい子だと思います。
彼と正反対の人がチンピラ政治家になっているのではないかな。
Commented by ikuohasegawa at 2015-08-12 09:40
武藤は『戦争に行きたくない自己中な連中』って言うけど『戦争に行きたい』などと言うのは軍事オタク以外いない。

Commented by saheizi-inokori at 2015-08-12 11:43
> ikuohasegawaさん、自殺・他殺志願者も、あとは経済的動機か。
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by saheizi-inokori | 2015-08-09 10:39 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(20)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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