人は地下水路を通ってどこに行くのだろう 阿刀田高

長男が病気になって入院騒動。
夕方デモに行こうと思ったが身体が参っている。
気を紛らわすというわけじゃないが呑み続けてもいた(息子とも)。
医師は回復の太鼓判を押してくれた。
それまで、そのあと、どっちも呑みすぎた。
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台湾にいる家族や妹や弟と連絡しやすいように息子がLINEの設定をしてくれた。
あんなものやるもんか、と思っていたが、台湾と無料とか、みんなに伝えるのに連名宛名への返信の繰り返しより面倒がないね。
ユーモラスなスタンプなんかも一息つけるし。

タイキがさっそく俺と朝晩の通信、「今から塾にいってきま~す」とか「おわったよ~、つかれた~」など。
俺はスタンプ押したり「やったね!」とか。
ハイタッチの気分だ。
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2014年小説新潮に毎月連載された短編が12編。
「たづたづし」(たどたどしい、の古形)、

夕やみは路たづたづし月待ちて行ませ吾背子その間にも見む

という万葉集の歌、その「たづたづし」が好きだという年下の子とか年上の男とか、いろいろ遍歴があるが、そしてどの人も悪くはないが何となく別れてしまう。
年上の人とは子供を作ったが死なれてしまう。
いろんな夢を見るが夢の途中で「これは夢だ」と分かるから怖くない。
でもほんとに見たくない人は出てこない。
記憶は写真と違って生き物だからいろいろに変化していく。
その人がそうだったと思いたいような記憶になってしまったり、すっかり思いだせなくなったり。

「薬指の秘密」、

その人の薬指を強く握りしめて心を集中すると、その人の考えていることがわかる。
それを教えてくれた祖母ちゃんは「死ぬ」という念を送ってきて、その二か月後に亡くなった。

「花酔い」、

桜の花の下で寝転がってワンカップを飲んだら、白昼夢(なのか現実なのか)をみた。
子供の頃に「あべこべの国」の噺をしてくれたやさしい先生がいたのだ。
そこで男は5歳だという。
あべこべの国では年をあべこべに減らしていくのだ。

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(大佛次郎記念館の正面の猫)

「花を訪ねて」、

50代の男、小料理屋の小鉢の茗荷とオクラで、幼時にやさしくしてくれたお寺のお姉さんを思い出す。
その人も男のように幼いころからいろんなところに預けられたりして「悲しい人」だった。

いろんなところで暮らしたの。悲しいこともあったけど、いつも一番楽しいことを思いだしていたのね。

と、聴いたのかどうかもはっきりしないけれど、気配として知っていた。
男はその寺を訪ねたのをきっかけに昔住んだところを訪ね歩く。

俺は大学に入った頃、叔父の家を訪ねて酒をたかっていた。
そのとき叔父の親友の橋川文三が来て、何かのはずみにフランス映画「舞踏会の手帳」のことをきいて、なるほどシャレた映画があるんだなあ、と思った。
映画は見ていない。

この小説を読んでいるとそのみていない映画のことを思いだし、渋谷の団地にあった叔父の小さな部屋のことを思いだした。
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(港の見える丘公園の下の魚屋の前にいた猫)

奇妙な味、とでもいうのだろうか、ありっこない・ありそうな不思議・怪談。
男と女・人間そのものが怪談のような存在かもしれない。
「たづたづし」というのがつきづきし、ような人生だ。

いろんな切り口、やや破調のものもある。
エロテイックな味わいも、かと思えばアリマタヤのヨセフについての言及も。
「言葉の力」への特別な思いが全編に流れている。
さいごの短編の表題が「言葉の力」だ。
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新潮社
Commented by cocomerita at 2015-07-29 14:51
Ciao saheizi さん
阿刀田 高 好きです
昔さんざん読みましたっけ

不思議で 優しい ちょっと淋しい 怖いんだけど、でも何か自分の懐触れば 思い当たることがありそうな、そんなところに惹かれて 次から次へと、、

私のなかにも 昔子供の頃住んでいた町がその時いた犬たちも近所のおじさんおばさんたちもみな一緒に 未だに ありありと存在しています

息子さんお大事にしてください
Commented by unburro at 2015-07-29 15:31
阿刀田高は、夏向きですね。
深く広く、繊細で怖い。
「たづたづし」失われた言葉は美しいですね。

ご長男のご快癒をお祈り申し上げます。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-29 17:03
> cocomeritaさん、激しくはないけれど、そして親しみやすいようで深いのですね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-29 17:05
> unburroさん、そうですね、一見平易なようで油断ができない。
阿刀田はよほどこの言葉が気に入ったのかほかの短編にも使っていました。

Commented by saheizi-inokori at 2015-07-29 17:07
> cocomeritaさん、 unburro さん、息子のことありがとうございます。
Commented by kanafr at 2015-07-31 07:14
saheiziさんもこの猛暑の中のデモ参加、相当体力を消耗されていらっしゃるのではないでしょうか?
息子さんの事ご心配ですね。
1日も早くご回復されますように、心からお祈りしております。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-31 09:40
> kanafrさん、ありがとう。
昨日はデモをさぼりました。
Commented by hanamomo06 at 2015-07-31 16:26
こんにちは。
阿刀田氏の最近の本手にしていませんでした。
夕やみは路たづたづし月待ちて行ませ吾背子その間にも見む
この歌は趣がありますね。
最後の「その間にも見む」は女性らしい、なにかふんわりとしたいい表現ですね。
「たづたづし」という古語もいい。
秋田弁にもあちらこちらに古語が息づいております。

息子さん手術が無事終わってよかったですね。
ご心配なさったことでしょう。
猛暑の中デモに参加しているsaheiziさんにも頭が下がります。
どうぞ、くれぐれも体には気をつけてください。
息子さんのご回復を祈っております。


Commented by saheizi-inokori at 2015-07-31 21:18
> hanamomo06さん、ありがとう。
今日は術後一日の痛々しい姿を見てきました。
無理にも笑わせて写真に撮って異国にいる妻に送りました。
Commented by HOOP at 2015-08-02 07:30
下の魚屋って、千葉の魚を主に扱い、干物を作って居酒屋もやっている魚屋さんですか?

息子さんの手術、無事終わってよかったですね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-02 09:02
> HOOPさん,そういえば居酒屋が並んでいましたね。
その居酒屋の前の側溝にこの猫と反対側に死んだように横たわっている大きな猫がいました。
死んでいるのかとぎょっとしたらお腹がゆっくり上下してました。
Commented by HOOP at 2015-08-02 18:15
あそこから新山下の道を、少し山下公園側に向かっていくと、運河に霞橋という橋がかかっています。これに使われているトラスは100年以上前に英国で作られた、かつての国鉄常磐線隅田川橋梁、常磐線を引退後は新鶴見信号場の江ケ崎跨線橋に使われていたものです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-02 21:16
> HOOPさん、ありがとう。
でも私はそういうのが苦手なんです。
美しいとか懐かしいという感じは好きなんですがね。
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by saheizi-inokori | 2015-07-29 10:59 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(13)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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