現代に問いかけるマーク・トウェインは面白い マーク・トウェイン「それはどっちだったか」

キッチンで食器を洗っていたら、「あら、サンチ、だめよ!」と入口にいるカミさんを交わすようにして俺の足もとに来て、尻尾を振り振り、俺の顔を見あげて何か言いたげ。
ふだんはキッチンの中には入ってこないのに。

ピンときた俺が、リビングに行ってみると、、やってました。
コロンコロンとちいさなウンチ。
雨で散歩に行かなかったから、シートまで我慢できなかった。
甘えるときはカミさん、困ったときは俺、使い分けるサンチ。
現代に問いかけるマーク・トウェインは面白い マーク・トウェイン「それはどっちだったか」_e0016828_11145770.jpg
マーク・トウェイン、「トム・ソーヤの冒険」「ハックルベリー・フインの冒険」、それも子供のころ読んだだけ。
「禁煙なんて楽なものだ。私は百回以上も禁煙している」という言葉は知っている。
トウェインの晩年、1899~1906年にかけて断続的に書き継がれた多くの作品のひとつ、作家の死後半世紀を経たのち1966年に発表された。

南北戦争前、1850年代初めの南部の田舎町が舞台の、面白く考えさせることの多い作品だ。
現代に問いかけるマーク・トウェインは面白い マーク・トウェイン「それはどっちだったか」_e0016828_11155343.jpg
シェィクスピアのなにかに出てくるような、すれ違い、勘違い、偶然の連鎖が町の名士・人格高潔の誉れ高いジョージ・ハリソンをして殺人を犯させる。
しかし殺人の嫌疑は、ジョージの友人である、町のトップ・《旦那》にかけられる。

ジョージは保身のために真実を明かすことができず、良心に苛まれながら罪の発覚に戦々恐々の毎日を送る。
人びとはジョージの錯乱と憔悴を友人である《旦那》のことや死んだ父親のことを思うがゆえであると誤解して、ますます有徳の士としてほめそやす。
現代に問いかけるマーク・トウェインは面白い マーク・トウェイン「それはどっちだったか」_e0016828_11151397.jpg
ジョージの告白ではなくジョージが第三者を主人公として書いた話という形をとることによって、ジョージの内心に寄り添ってみたり、突き放してみたり自在な書き方。

ジョージに突然莫大な遺産が転がりこむことになってからの展開が後半のミステリもどきのドタバタ。
そもそもこんな遺産が入ると知っていればジョージは人を殺すこともなかった。

狂言回しのゴシップ屋、黒ずくめに白面の不気味な予言者、状況により自分に都合の良い宗教・政治的な信条に切り替えていく「低能哲学者」、自堕落な若者、酷薄な農場主、その農場主に人生を狂わされる黒人奴隷、白人ながら同じ農場主に過酷な下働きを強いられた女、、。
多彩・個性的な登場人物が生き生きと活躍する。
現代に問いかけるマーク・トウェインは面白い マーク・トウェイン「それはどっちだったか」_e0016828_11150177.jpg
人間の本質は?
アメリカという豊かな国は誰に対して贖罪しなければならないか、その豊かさを継承させなければいけないのか?

個人の心の中の葛藤と社会のなかでの異人種間の葛藤。
痛快な復讐劇でもある。

禁煙についての警句と同じような言葉がいくつも登場する。
現代に問いかけるマーク・トウェインは面白い マーク・トウェイン「それはどっちだったか」_e0016828_11163422.jpg
そのいくつかを。

堕落するほど人を教えてくれるものはない。堕落の経験をする人間は物事を悟るのさ。

自分たちが思いこんでいるような考え方じゃなくて、本当に考えることをもし人々がしたらば、とうの昔に誰かが動機をばらばらに分解して、見つけ出しだろうに。利己心をどこであれ基盤に置かない動機など一つもないのだということをな。

(無慈悲な言葉を黒人に吐くジョージについて)それは単に当時の、有色の人間を扱う際の慣習や習慣にすぎず、この地域(カントリー)を初めて訪れる者なら考えただろうほどの深みも感情も込めていなかった。黒人は気にしないだろう。そう白人は想像していたのだ。彼らは黒人の見た目だけで判断を下し、その内面について問うことを忘れていたのだ。


併せて収録されている「インディアンタウン」もそうだが、登場する人々のキャラクターは、今この騒々しい狂ったような惨めな日本、世界にもたくさんうごめいている(俺も含めて)。

里内克己 訳
彩流社

Commented by tona at 2015-07-03 08:37 x
先日雑学大学で「トム・ソーヤの冒険」及び「ハックルベリー・フィンの冒険」についての講義を受けたのですが、特に後者は黒人とともに冒険するので、処々に黒人問題が隠れるように書いてあると聞きました。何しろ原文引用なので語学力が追い付かず理解できなかったです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-03 09:29
> tonaさん、ハックとジムの関係がこの小説の黒人奴隷・ジャスパーとジョージの関係により複雑化され黒人側の支配さえ描いています。
素朴で無知でお人よしというステロタイプな黒人像を超えているのです。
ジムだって実はハックをうまく利用しているのですね。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2015-07-02 12:31 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori